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いま日銀がやっていることは限りなく財政ファイナンスに近いものではないのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 日銀は10日に国債買入(固定利回り方式)(残存期間5年超10年以下)をオファーした。この日が10年国債の入札日であるにもかかわらずである。

 日銀のサイトには「日本銀行が国債の引受けを行わないのはなぜですか?」という問いに答える格好で次のような記述がある。

 日本銀行における国債の引受けは、財政法第5条により、原則として禁止されています(これを「国債の市中消化の原則」と言います)。

 これは、中央銀行がいったん国債の引受けによって政府への資金供与を始めると、その国の政府の財政節度を失わせ、ひいては中央銀行通貨の増発に歯止めが掛からなくなり、悪性のインフレーションを引き起こすおそれがあるからです。そうなると、その国の通貨や経済運営そのものに対する国内外からの信頼も失われてしまいます。これは長い歴史から得られた貴重な経験であり、わが国だけでなく先進各国で中央銀行による国債引受けが制度的に禁止されているのもこのためです。

 ただし、日本銀行では、金融調節の結果として保有している国債のうち、償還期限が到来したものについては、財政法第5条ただし書きの規定に基づいて、国会の議決を経た金額の範囲内に限って、国による借換えに応じています。こうした国による借換えのための国債の引受けは、予め年度ごとに政策委員会の決定を経て行っています。

 財政法第5条: すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。

 日銀は現在、10年物国債のカレント3銘柄を対象とする指値オペ(10年債指値オペ)を実施している。5月2日(月)以降、明らかに応札が見込まれない場合を除き、指値オペ を毎営業日オファーするとしている。そうであれば、国債の入札日であろうと指値オペをオファーしたのは当然かもしれない。

 しかし、もし国債の利回りが上昇しかねない状況となり、10年債カレントが0.25%に上昇した場合には、日銀は無制限で10年債カレントを買い上げる。11日にはあらたに10年債の366回が2兆7000億円供給されるが、入札した業者はそれをすべて日銀の買い入れに応じる可能性がある。

 昨日の米10年債利回りは3.2%まで上昇しており、そのまま帰ってきた場合には、日本の10年債利回りは昨日の0.245%から0.250%に上昇してきてもおかしくはなかった。たまたま、その後の米債が買われたことで、そういった事態は回避された。

 しかし、いったん発行されたものを日銀が買い上げるかたちとはいえ、これは財政法第5条で禁じられている日銀による国債の直接引き受けに限りなく近づくことになる。つまり財政ファイナンスを行っているかに映りかねない。

 日銀が強固に金融緩和策を進めるため10年国債の連続での無制限買い入れまで実施した。これによって日米の金融政策の方向性の違いによって円安が進みやすくなる。さらに財政ファイナンスと認識されると国債への信認を毀損しかねず、それもまた円安要因となりかねない。

 もしかすると円安によってさらなる物価上昇を目指しているのかもしれないが、それにしても非常にリスクのある政策を行っていると指摘せざるを得ない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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