円安に対して日銀がなすべきこととは
日銀は物価の安定を図ることで通貨の対内的な価値を維持することが役割となっているのに対し、円という通貨の対外的な通貨価値を安定させるのは財務省の役割となっている。
つまり円安へ対応しているのは財務省であり、実務責任者は財務官となる。大臣の了解のもと司令塔となる財務官の指示を受けて、実際に外為市場で円買いドル売りを行っているのが日銀の実働部隊となっている。
ちなみに米国では、実務的に米財務省がFRBと協議の上、為替介入を決定し、ニューヨーク地区連銀が介入事務を行っている。
日本では介入を行う際に、日銀と協議を行う必要はないかもしれないが、協議を行う必要もあるのではなかろうか。
この協議とは介入の有無とかではない。それぞれに責任があることを確認する必要があるのではないかということである。
今回の円安の主要因は円への信認が低下したとか、貿易収支によるもの、地政学的リスクによるものではないのは明確であろう。
つまり日米の金利差というか、日本と米国の中央銀行の金融政策の方向性の違いによってもたらされた金利差によるものであるのは明確である。
FRBの政策金利は5.25%から5.5%であるのに対して、日銀の政策金利はゼロから0.1%となっている。
長期金利は米国が4%台、日本は1%にも満たない状況にある。
日銀は3月19日にマイナス金利政策とイールドカーブコントロールは解除したものの、まだ緩和的な政策を行っていることを強調している。今後、利上げを行う可能性は示したものの、それに対し慎重姿勢は崩していない。
つまり正常化に向けて方向転換したかにみえたが、実際には方向転換にすら至っていない。
これは巨額の国債買入についても同様である。
4月から月額5000億円も国債発行額が減額されたのにもかかわらず、日銀は保有する国債の額を維持しようとそれに応じた買入の減額すら行わず、これは結果として量的緩和強化にすらみえる。
過去の利上げに対する政治からのプレッシャーがトラウマになっているとの見方や、アベノミクスを進めた政治家からのプレッシャーなどがあったとの見方もある。
いずれにしても円安に対して日銀が無回答では、介入を繰り返しても効果は限られよう。
日銀も柔軟に動けることを示すだけでも市場は用心せざるを得なくなる。それすら行わないというのはやや責任逃れではあるまいか。このあたりも本来であれば財務省としっかりと協議してほしいところである。
植田日銀総裁は7日の首相との会談後「円安について日銀の政策運営上、十分注視することを確認した」と語ったそうだが、「注視」では済まされないのではなかろうか。