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円の実質実効レートはすでにニクソン・ショック以来の水準に下落。えっ、ニクソン・ショックを知らない?

久保田博幸金融アナリスト
(写真:イメージマート)

 3月7日に114円台にあったドル円は、その後急速に上昇し(円安ドル高)、節目とされた125円をあっさりと抜いてきた。

 ここにきて急速に円安が進んだかにみえるが、これを円の実質実効レートについて見てみると、2022年2月の水準の66.54は、50年前の1972年2月の66.25以来の低水準に下落していた。

 円の実質実効レートとは、貿易量などをもとにさまざまな国の通貨の価値を計算し、物価変動も加味して調整した数値となる。実質実効レートの低下は円安と物価低迷が相まって円の対外的な購買力が下がっていることを示す。

 50年前といえば、為替が変動相場制に移行して間もないころとなる。いわゆるニクソン・ショックである。

 1969年8月15日、米国のリチャード・ニクソン大統領は、テレビとラジオで全米に向けて声明を発表した。主な要点は、税と歳出削減、雇用促進策、価格政策の発動、金ドル交換停止、10%の輸入課徴金の導入などであった。

 この中で特に注目されたのが「金とドルの交換停止」である。これによって第二次大戦後の通貨の枠組みであったブレトン・ウッズ体制が崩壊し、為替市場は新たな展開を迎えた。これにより人類の歴史上、長く続いた金を中心とした貴金属と通貨の関係が完全に切り離され、通貨は通貨間の相対価値が基準になるという現在に続く変動相場制へと移行することになる。

 このニクソン大統領による声明は世界に大きなショックを与え、ニクソン・ショックやドル・ショックと呼ばれた。

 ニクソン・ショックの同年12月に、ワシントンのスミソニアン博物館で開かれた10か国蔵相会議では、ニクソン大統領が発表した米国の新経済政策をうけて、通貨に関するいくつかの措置が合意された。これがスミソニアン合意である。

 ドルを切り下げ、為替の変動幅を従来の上下1%から暫定的に2.25%に拡大された。円レートは16.88%切り上げられて308円に変更された。

 しかし、スミソニアン体制でも為替相場は安定せず、ドル売りは止まらず、さらに1973年には第4次中東戦争の勃発による原油価格の急騰によるいわゆるオイル・ショックによるインフレ圧力も追い討ちをかける格好となった。

 米国や英国の国際収支は改善されず、英国をはじめ各国がスミソニアン体制を放棄したことにより、1973年に主要先進国は変動相場制に移行し、スミソニアン体制はわずか2年で崩壊となった。

 つまりこんな変動相場制初期の時代に円の実質実効レートは戻ってしまっていたといえるのである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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