岸田政権の基本路線はバラマキ型の財政拡大なのか、国債増発のリスクも無視できず
岸田内閣が発足した。コロナ対策をはじめ課題は多いが、果たして岸田政権の経済政策のスタンスはどうなのであろうか。
岸田首相は「成長と分配の好循環」をめざし、所得を引き上げる経済政策を進めるとしている。このため年内に数十兆円規模の経済対策をまとめる考えを示している。
元々は財政健全派とされていた岸田氏であったが、数十兆円規模の経済対策とか所得倍増を打ち出してきたことで、財政健全派の旗をいったん降ろしたのではないかともみられていた。
コロナ禍にあって財政政策は当然ながら必要である。さらに自民党総裁選に向けての戦略としては、財政健全派は旗をいったん降ろしたほうが得策と考えたのかもしれない。それが自民党総裁選の決選投票時の高市氏との連携であったようにも思われる。
さらに自民党総裁選後には衆院選も控えている。こちらは前倒し政策をとるようで、10月14日に衆議院を解散し19日公示、31日投開票の日程で選挙を行うと表明している。
衆院選を戦う上でも、ある程度の財政拡大路線を示す必要もあったのかもしれない。しかし、本当に岸田氏は財政健全派から転じてきたのであろうか。
選挙に向けて緊縮色を出すことは好まれないことも確かである。しかし、さすがにここまでの巨額の政府債務に対して不安を持つ国民も少なくはない。このあたりのバランスをどう取るのかが問われよう。
そのバランスという意味では財務相人事がそれを示していた。8日付日経新聞に鈴木俊一財務相のコメントが掲載されていたが、ここでプライマリーバランスの政府目標について「しっかりと取り組みを強めたい」と語っていた。
プライマリーバランスの目標など達成は困難で、あってないようなもの、なくても良いとの意見もあるようだが、こちらも旗は掲げておく必要がある。それは国債の信認を維持するのに必要なためである。
そして、数十兆円規模の経済対策について、実際の財源はどの程度必要になるのか、いわゆる真水部分も今後は注目せざるを得ない。
新型コロナウイルスの感染拡大に対し、政府は過去にない規模の経済対策を行った。その結果、国債も大量に増発された。入札などで発行される市中発行額も増加はしたが、いわゆる前倒し発行分を使って極力、増発額が抑えられた。
それはつまり、現在は前倒し発行によるバッファー分がかなり減少していることを示す。実際の長期金利が予算編成時の長期金利の予想を下回っている限り、このバッファー分は増加してくることは確かではあるが、これまで貯めていた分はない。今後、数十兆円の国債を仮に発行するとなれば、その多くは市中発行で行われる可能性が高い。
すでに欧米では経済活動の再開やそれに伴うエネルギー価格の上昇もあり、金融政策の正常化を急ぐ可能性も出てきた。エネルギー価格の上昇は物価押し上げ要因となり、それは長期金利の押し上げ要因ともなる。
海外の長期金利の上昇、さらにはタイムラグはあるが、原油や天然ガスなどの価格上昇による国内物価への影響もいずれ出てくる。そうなると日本の長期金利も動意を示すことも予想される。そういったさなかに大量の国債増発となれば、長期金利上昇を加速させかねない。
それに対し日銀が長期金利コントロールだとして無理に抑え込むとなれば、ファンダメンタルズとさらに乖離した長期金利が形成されかねない。また、財政ファイナンスと認識されかねない事態にもなりうる。そういったリスクも意識する必要があるのではなかろうか。