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債券の価格が下がると利回りが上がる理由、そして、米国債の行方は

久保田博幸金融アナリスト
(写真:cap10hk/イメージマート)

 債券にかかわって最初に覚えなければならない知識として債券の価格と利回りの関係がある。国債など債券の価格が上がれば、利回りは低下する。債券の価格が下がれば利回りは上昇する。

 半年ごとに利息が支払われる利付債の価格と利回りの関係式は、少しややっこしいので、ここは単純化して考えてみたい。

 債券には利息が半年毎に支払われる利付債とは別に、利息が割引率で示される割引債というものがある。

 たとえば90円で発行されたものが、1年後に100円の償還価格で償還されれば価格差の10円が利息相当となる。この利回りは正確には10%ではないが、10%相当としよう。この割引債の発行価格が何かの弾みで90円ではなく100円に値上がりしてしまうと、どうであろう。

 発行と償還の価格差がゼロ、つまり利回りはゼロ%となる。発行価格が90円から100円に値上がりしてしまうと、利回りは10%相当がゼロ%に低下する。このように債券の価格が上がると利回りが低下するのである。

 何をいまさら債券の基本をおさらいする必要があるのか。どうもここにきての米国債の動きがおかしく見えたもので、まずは債券の価格と利回りの関係をおさらいしてみたのである。

 一般的に物価が上がると、債券は価格が下がり、利回りが上昇する。お金の価値より物価の価値が上がることや、中央銀行が物価上昇を抑制しようとして利上げをする可能性が高まるなどがその要因といえる。

 4月と5月の米国の物価は前年比で大きく上昇した。特に5月の消費者物価指数は前年比で5%という高い伸びとなった。そうであれば、米国債の価格は下がり、利回りは上がるというのが教科書的な見方であるが、そうはならなかった。

 それは何故なのか。実はこれについては正確な回答は出せない。個々の投資家や業者のポジションを正確に把握することはできないことや、そのポジションも複雑に入り組んでいるためである。

 このため推測とはなってしまうが、今回の動きは5月のCPIをみて、FRBがいずれ金融緩和策の修正に動くであろうことを先取りして米国債を売却していたり、先物などを使って空売り(ショート)をしていた市場参加者が多くおり、そのポジションが予想外に膨らんでしまっていたことが原因ではなかったろうか。

 5月のCPIは予想通り高かったが、短期ポジションが売りに傾いてしまっていたことで、むしろ買い戻されるという動きとなっていたものと思われるのである。

 15、16日にはFOMCが開催される。ここでの市場参加者のコンセンサスは、金融政策は現状維持。そして注目のテーパリングについては、その可能性を示唆する程度にし、本格的な検討示唆は8月末のジャクソンホールにて行われる。早ければ年内、前回時を参考にするならば来年はじめからテーパリングを開始するというものではなかろうかと思う。テーパリングは1年程度かけて行われ、利上げは2023年にスタートと。

 実際にこのコンセンサス通りになるかどうかは不透明ながら、いずれにしても米長期金利に関してはFRBの緩和修正を今後も織り込んでいくことが予想される。このため、再度上昇トレンドが形成される可能性が高いとみている。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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