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日銀による中央銀行デジタル通貨の発行は本当に必要なのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 日銀は10月9日に、「中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み方針」を公表した。この要旨の最初に下記のようにあった。

 「情報通信技術の急速な進歩を背景に、内外の様々な領域でデジタル化が進んでいる。技術革新のスピードの速さなどを踏まえると、今後、中央銀行デジタル通貨(Central Bank Digital Currency:以下「CBDC」)に対する社会のニーズが急激に高まる可能性もある。日本銀行では、現時点でCBDCを発行する計画はないが、決済システム全体の安定性と効率性を確保する観点から、今後の様々な環境変化に的確に対応できるよう、しっかり準備しておくことが重要であると考えている」

 あくまで「社会のニーズが急激に高まる可能性もあり」、「現時点でCBDCを発行する計画はない」という点に個人的には注意したいと思っている。ただし、実証実験の第1弾(基本的な機能を検証するフェーズ1)を、2021年度の早い時期に開始することを目指しているとした。あくまで基本的な機能を検証する実証実験であり、2021年から中銀デジタル通貨を発行するわけではない。

 今回の日銀のこの方針の発表はいくつかそれを要するようなタイミングであったためということがうかがえる。そのひとつが、FRBなど7つの主要な中央銀行と国際決済銀行(BIS)が9日、中銀デジタル通貨の「青写真」をまとめた報告書を発表したことによる。それを国内向けにも公表したということであろう。

 この報告書では中銀デジタル通貨の特性として、強靭で安全であること、無償あるいは低コストで利用できること、適切な基準や明確な法的枠組みに支えられていること、民間が適切な役割を負い、競争や革新性が促されることを挙げていた。

 特に強靭で安全であり、いつでもどこでも使える中銀デジタル通貨が必要となる。これはかなりの難題となろう。

 ただし、デジタル通貨発行を検討せざるを得ないと思われる国もある。そのひとつがSWISHと呼ばれる電子決済が進むスウェーデンである。現金通貨が減少し、一部デジタル通貨への移行が検討されている。

 デジタル通貨がどれだけ必要とされるのかは国によって異なる。中国人民銀行は同国初となるデジタル人民元決済システムの公開テストとして、無作為に選ばれた5万人を対象に1000万人民元(150万ドル)相当のデジタル通貨を発行すると報じられた。

 中国も電子決済の割合が高い国であるとともに、現金そのものの使用度は比較的低く、デジタル通貨の発行に積極的と言われる。これはデジタル化の促進のためもあるかもしれないが、国民の通貨利用を監視する目的も垣間見られる。

 さらに日本では、自民党の新国際秩序創造戦略本部が年内に政府に示す提言の「中間とりまとめ」を策定し、中央銀行が発行するデジタル通貨(CBDC)の導入を急ぐため、政府・日銀に関連法改正の準備を促したとも報じられた、

 このあたりも、今回の日銀の動きに影響を与えた可能性はある。しかし、いまなぜ日本でデジタル通貨が必要なのかはわからない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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