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原油先物をマイナスにしたのは誰なのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 米国の石油市場で最大の上場取引型金融商品である「ザ・ユナイテッド・ステーツ・オイル・ファンド(USO)」は4月27日、原油先物の期近6月限のポジションを解消する方針を示した(ロイター)。

 27日の原油先物市場では、この報道もあって、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物6月限は4.16ドル安の12.78ドルと大幅に下落した。6月限と7月限とのスプレッドは大幅に拡大したが、これが投機家のターゲットになったとされた。

 20日の原油先物市場では史上初の事態が発生していた。WTI先物6月限が一時マイナス40.32ドルまで下落したのである。先物価格が初めてマイナスとなってしまった。

 米商品先物取引委員会(CFTC)のバーコビッツ委員はロイターのインタビューに対し、20日に米原油先物が30分間で1バレル当たり約40ドル急落したことについてCFTCが調査に着手したと明らかにした。

 この調査結果を見ないと現実に何が20日に起きたのかははっきりしない。しかし、原油価格急落のカラクリに、このUSOなども絡んでいたことも確かではなかろうか。 

 ロイターによると5月限の先物価格が史上初めてマイナスに沈んだ20日に、USOは壊滅的な損害を回避したとされる。ただし、5月限の取引最終日を前にロールオーバーする必要があったため、そこに行き着くまでの原油価格の下押し要因となっていたことは確かではなかろうか。

 ただし、マイナス40ドルに下げた際には、別の投資家によるいわゆる買い方の投げ売りが入っていたようである。

 28日の日経新聞の記事では、これについて興味深いものを指摘していた。「取引所によると、マイナス価格での取引は可能」との米東部時間20日正午ごろの通信社からの一報がきっかけで原油先物価格が一気に崩れたそうである。

 現地時間午後2時9分、ゼロドルの節目を割ると防衛ラインは決裂、わずかな買い注文を投げ売りが次々とのみ込み、約20分でマイナス40ドルまで下がった(28日日経新聞の記事より)。

 取引所がWTI先物のマイナス価格の商いを可能にしていたということは、関係者にとってはあってもおかしくはないとの認識であったのか。結果からすれば、渡された原油の保管場所の問題も絡んで、保管費用分のマイナス覚悟の投げ売りが入った格好となった。

 この際、ゼロを割り見ませるなどの売りの仕掛け人がいた可能性は完全には否定できない。しかし、やはりこれは板の薄いなか、パニック的な買い方の投げが入ったためとしか言いようはない。原油価格の急落そのものを招いたものとして、USOを通じた個人の資金のファンドの限月の乗り換えに絡んだ売りなども入っていたものと考えられる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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