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一律10万円の給付分の財源も国債の増発か

久保田博幸金融アナリスト
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく「緊急事態宣言」について、政府は16日夜に開いた対策本部で、東京など7つの都府県以外でも感染が広がっていることから、来月6日までの期間、対象地域を全国に拡大することを正式に決めた。16日夜、官報の号外に記載され、効力が生じた(17日付NHKニュース)。

 さらに政府・与党は16日、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、所得制限は設けずに、国民1人あたり10万円を給付することを決めた。緊急経済対策を含む2020年度補正予算案を組み替え、減収世帯に30万円を支給する措置は撤回する(17日付日経新聞)。

 政府は7日に補正予算案を閣議決定しており、20日にも国会に出す予定だったが、その予算案を提出前に大幅に組み替えるという異例の事態となった。

 一律10万円の給付案は公明党が主張し、30万円給付策を撤回し一律10万円の措置に集約して財源を回すようこちらも公明党が主張していたそうである。それを安倍政権は結果として取り入れたということになる。

 減収世帯に30万円を給付する案については、与党内からも制度の複雑さなどに批判が出ていた。減収世帯を見分けることも現実には困難であり、一律給付のほうが手っ取り早いことは確かであろう。しかし、本当に困っている人を救うという意味では、10万円で良いのかという問題もあろう。

 その善し悪しはさておき、一律10万円を国民に配るとして、単純計算で12兆円超の財源が必要になる。30万円の給付策は約1300万世帯を対象に約4兆円を想定していたことで、その分を差し引くと約8兆円ほど足りなくなる計算に。

 この財源の不足分は国債の増発で補わざるを得ないであろう。補正予算に伴う新規国債の増発に関して、当初の予算ではカレンダーベースの増額幅は18兆2000億円、第二非価格競争入札分1兆26億円、そして年度間調整分として7兆31億円となっていた。

 年度間調整分というのは前倒し発行分の取り崩しとなる。43兆円の前倒し発行分が存在することで、今回の調整にはこの前倒し発行分の取り崩しがさらに使われると予想される。それに加え、短期国債の増発なども想定される。

 43兆円の前倒し発行分が今後の大きなバッファーとなるかとみていたが、それが予想以上に取り崩されることになる。今年度の税収も大きく減少することが予想される。今後さらに補正予算が組まれることも予想される。これを考えると43兆円でも心許ない。

 日銀は国債買入を大きく減少させてきたことで、まだ国債の買入余力はあるとの見方もできる。しかし、こちらも無尽蔵に行うことはできない。そもそも日銀による巨額の国債買入は金融政策によるものであり、政府の財政を助けるものとなってはいけないことになっている(財政法5条)。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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