Yahoo!ニュース

良いとこ取りの米国株式市場

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 4日に発表された9月の米雇用統計では、通常は最も注目度の高い非農業雇用者数が前月から13.6万人増となり、14.5万人増との市場予想を下回った。予想は下回ったが、それほど大きく違ったわけではなく、さらに7、8月分の雇用者数が当初発表から上方修正された。これは結局、市場そのものへのインパクトは限られた。

 今回注目度が高かったのが、なんと失業率となった。ここにきての米雇用統計では、ニューなどで失業率が取りあげられていないこともあるなど、注目度は落ちていたように思われた。ところが今回、失業率は前月の3.7%から3.5%へ低下し、1969年12月以来、約50年ぶりの低水準となった。50年ぶりということに市場は好感し、トランプ大統領は喜んだようである。

 さらに平均時給が前年同月比2.9%増となり、ここ1年余りで最も低い伸びとなって、予想も下回っていた。これも本来であれば景気の減速を示すものと捉えられそうだが、市場ではそうではなく、物価の低下も意識されてFRBの利下げの可能性が高まったと読んだようである。

 いわば今回の雇用統計について、特に米国株式市場は悪いところには目をつぶり、良いとこ取りをしていたといえる。それだけ地合が悪くなかったともいえるのかもしれない。

 しかし、今週10日から11日かけて米中閣僚級協議が開始される。再び米中の通商交渉の行方が市場を揺るがしかねないことになる。早速、中国は米国との貿易協議を前に通商合意の範囲を狭めつつあるとの報道も出ていたようである。

 来年の米大統領選挙を控えての狐とタヌキの化かし合いならぬ、駆け引きが再び始まるが、こちらは楽観視はてきない。市場ではトランプ大統領のツイッターで期待し、協議の結果でそれが裏切られるといった状況が繰り返される可能性もある。

 FRBへの利下げ期待も強まっているものの、利下げで状況が大きく改善されるわけではない。あくまで一時的な金融市場への対処療法にしかならない。果たして米国の実体経済はどうなってくるのか。いまのところは雇用統計にみられるように斑模様としか言いようがないのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

牛さん熊さんの本日の債券

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月20回程度(不定期)

「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、当日の債券市場を中心とした金融市場の動きを牛さんと熊さんの会話形式にてお伝えします。昼には金融に絡んだコラムも配信します。国債を中心とした債券のこと、日銀の動きなど、市場関係者のみならず、個人投資家の方、金融に関心ある一般の方からも、さらっと読めてしっかりわかるとの評判をいただいております。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

久保田博幸の最近の記事