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欧州の国債利回りが軒並み過去最低を更新、金利なき異常世界へ誘う金融緩和は本当に必要なのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 2日にイングランド銀行のカーニー総裁は、保護主義の台頭が世界経済にもたらす悪影響について警告。経済は「広い範囲で減速」し、大規模な政策対応が必要になる可能性があると述べた(ブルームバーグ)。

 これを受けて2日の英国の10年債利回りは0.72%に低下し、3日は0.69%とさらに低下した、米債も連れ高となり、2日の米10年債利回りは1.97%と再び2%を割り込んだ。3日には1.95%に低下した。

 ECBの次期総裁にフランスのクリスティーヌ・ラガルド国際通貨基金(IMF)専務理事が指名された。ラガルド氏がECBの次期総裁となれば、タカ派のバイトマン・ドイツ連銀総裁の就任の可能性がなくなり、これまでのドラギ総裁の緩和路線を引き継ぐことが予想され、これにより欧州の国債は買い進まれた。

 2019年予算を巡りイタリア政府と欧州委員会が合意するとの期待が強まったことから、欧州の債券市場では特にイタリアの国債が買い進まれた。イタリアの10年債利回りは1.84%と28日の1.96%から大きく低下し、3日には1.58%とさらに大きく低下した。

 ドイツの10年債利回りは3日にマイナス0.39%と過去最低を更新し、フランスの10年債利回りもマイナス0.11%に低下した。スペインやポルトガルの10年債利回りも過去最低を更新。ベルギーの10年債利回りは初めてマイナスを付けた。

 6月29日の米中首脳会談では通商交渉の継続で合意した。通商交渉の行方に予断は許さないものの、決裂は回避したことで市場はひとまず安堵した。しかし、今度は米通商代表部(USTR)が欧州連合(EU)への発動を検討している追加関税の対象規模を拡大すると発表した。EUが航空機大手エアバスに支給する補助金をやめるよう圧力を強める構えとされ、これであらためて米欧の貿易摩擦が一段と激しくなることが予想される。

 英国によるEUからの合意なき離脱の可能性も高まっていることや、欧米の貿易摩擦への懸念もあって今回のイングランド銀行のカーニー総裁の発言であったとは思う。また、為替市場も意識したものであった可能性もある。

 金融政策は為替誘導が目的ではないものの、結果として金利差が意識されて為替が動くことが想定される。しかし、この状況下で中央銀行が緩和競争を始める必要はあるのか。カーニー総裁もあくまで景気の減速への懸念としていたが、現実に景気後退となった際には、どのような手段を講ずるというのか。

 あまり安易に緩和というカードを切ってしまうと、いろいろと副作用やら、緩和効果への疑問やらも生じてこよう。市場は確かに緩和という文字だけで反応してしまいがちであり、中央銀行もそれを利用しようとしているようにみえる。あまりに安易に使い過ぎると金利そのものが消失し、それが経済実態に負の作用を与える可能性も意識する必要があるのではあるまいか。ちなみに3日の米国株式市場ではダウ平均など主要3指数が過去最高値を記録している。いくら利下げへの期待感が強まっているとはいえ、これはどこかおかしいと思わざるを得ない。株価は中央銀行の政策だけで動いているわけではあるまい。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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