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日本でのキャッシュレス化を阻んでいるものとは

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 日本でも電子マネーなどを通じたキャッシュレス化は進んでいるものの、中国や韓国などに比べるとたしかに遅れている。2018年に経済産業省が策定した「キャッシュレス・ビジョン」では、2025年までに「キャッシュレス決済比率」を40%程度とし、将来的には世界最高水準の80%を目指すとしている。

 日本で現金志向の強い要因としては、現金をいつでもどこでも使えるインフラが整備されているためといえる。いつでも、というのは災害時を含めてとなる。反対に災害時の停電などにより、ネットを使ったキャッシュレス決済は行えなくなる。これも現金決済の大きな強みとなっている。

 ただし、現金決済のためには、偽札などの利用を防ぐための高度な印刷技術、それを大量に保存、輸送するための費用負担が発生する。ATMにも設置やメンテナンス費用が発生する。それに対してQRコードなどを通じた決済については、それほど大きな費用負担はからない。ただし、QRコード決済などでは使う側にとってはスマートフォンという道具を所持していることが前提となる。

 経済産業省がキャッシュレス化を促進させようとしている背景のひとつは、キャッシュレス化による電子決済の情報利用も念頭にあろう。すでにアマゾンなどでは日本人の購買活動の膨大なデータを掴んでいる。このビッグデータの価値は非常に大きい。できれば電子決済を通じたデータ利用も国内企業が活用できるようにすることも意識したものではなかろうか。

 これだけキャッシュレス化が叫ばれ、政府も力を入れても、日本ではキャッシュレス化が浸透する気配はいまのところない。クレジットカードや電子マネー、さらには日本でもデビットカードの利用は伸びてきているものの、キャッシュレス化のキーともいえそうなQRコード決済の利用はそれほど伸びていない。

 これには国内の消費者の決済のなかで、ネットショッピングでのクレジットカード、買い物や電車の利用の際の電子マネーカード、もしものことを含めどこでも利用可能な現金の棲み分けがはっきりとして、それらをうまく使い分けができてしまっていることも、さらなるキャッシュレス化を阻む要因となっているのではなかろうか。

 当然ながら日本でネットの利用が遅れているわけではない。スマートフォンは一人一台あるのが当然のごとくなっている。そしてネットで買い物はするがアマゾンなどではクレジットカード利用が多い。ポイントがほしければ専用カードを利用する。そうなるとなぜスマホで決済しなければならないのか。そのためのインセンティブがそれほど大きくないことが、日本でのキャッシュレス化を阻んでいる大きな要因となっているのではないかと思われる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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