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欧米主体に世界的に長期金利が上昇、その背景とは

久保田博幸金融アナリスト
(写真:アフロ)

 4月19日の金融市場ではなかなか珍しいことが起きていた。欧米を中心として世界的に長期金利が上昇していたのである。香港、シンガポール、インドやオセアニア、そして英国を中心としてスイスなども含めて欧州の長期金利も軒並み上昇し、米国の長期金利も上昇していた。

 これだけ一斉に上昇するのは珍しい。それぞれ個別にいろいろな要因も指摘されていた。たとえば米長期金利の上昇のひとつの背景に、長短金利スプレッドが大きく縮小していたが、その反動が起きて、これまで比較的低位となっていた長期金利が上昇したというものである。

 欧州では特に英国の長期金利が上昇していた。この日、イングランド銀行のカーニー総裁は英国が今後数年間に数回の利上げを準備すべきと発言したが、5月の利上げが既定路線ではないとも示唆しており、カーニー発言が大きく影響したようには思えない。

 欧州では英国を含め、フランスやスペインの国債の発行が影響との見方もあるが、それだけでここまで金利が動くことも考えづらい。

 今回の動きはたまたまであった可能性もあるが、これだけ同じに動いたとなれば、やはり何らかの要因もあった可能性も否定できない。その要因と考えられるものに商品市況があった。

 原油価格の指標のひとつとなっているWTIは18日に68ドル台に上昇してきた。サウジアラビアが原油価格を80~100ドル近辺に引き上げたい意向だと報じられたが、節目を抜けてきているだけに80ドルあたりまで上昇してくる可能性はチャート上うかがえる。

 この原油価格の上昇だけでなく、アルミやニッケルが急騰している。これはロシアのUCルサールに対する米国の制裁措置によるものとの見方がある。

 ブルームバーグによると、アルミニウム価格は6年ぶり高値、ニッケルは2009年以来の大幅高を記録。アルミニウム生産に必要な原料であるアルミナは過去最高値に達したそうである。

 このように原油だけでなく、米国の保護貿易主義などを受けて、アルミニウムなど商品価格の高騰が物価の上昇要因となり、それが世界の長期金利にも影響を及ぼしている可能性がある。そうであれば今回の世界的な金利上昇の要因となりうるのではなかろうか。

 世界的な長期金利上昇のなかにあって、日本の長期金利は引き続き低位安定となっている。これは日銀が強引に抑え込んでいるからともいえるが、このまま他国の長期金利が上昇基調となった際に、日銀がどこまで長期金利を抑え込めるのか。それをいずれ試しにくることも予想される。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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