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現金が消えたスウェーデンの事例

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 11月27日の毎日新聞に「スマホ決済、現金消えた スウェーデン、パンも献金も」との記事が掲載されていた。日本ではやっと1万円超え5万円以下の支払いでカード派が現金派を上回った程度で現金の流通量は先進国のなかでも極めて高い。それに対してスウェーデンでは、中央銀行のリクスバンクが実施した調査で、財布に現金を入れていない人は15%に達したそうである。

 スウェーデンでは現金の代わりに何が使われているのかといえば、もちろんビットコインのような仮想通貨ではない。カード決済も多いようだが、近年急速に普及したモバイル決済である。特に同国の複数の有力銀行が共同で開発したスウィッシュ(Swish)と呼ばれるモバイル決済が広く使われている。

 日本ではなかなか普及が進まないものの、海外でよく利用されているものとして「デビットカード」がある。デビットカードは自分の銀行口座から即時決済されるものであり、このアプリ版といえるものがスウィッシュといえる。

 2012年に運営を開始したスウィッシュは、携帯番号と銀行口座が紐付けされ、店での支払いや個人間のお金のやりとりが瞬時にできる。国民の半数以上が使い、若年層(19~23歳)の利用率は95%に達するそうである(毎日新聞)。

 日本でも高額紙幣の廃止論議が出てはいるが、現金の使い勝手が良すぎる面もあって、キャッシュレス化は進んでいない。海外では脱税やマネーローンダリング対策もあっての高額紙幣廃止も行われている。しかし、日本では多少の脱税目的等の現金保有があったとしても、早急に高額紙幣を廃止する必要性は感じられない。また、偽造防止技術も進み偽札製造も難しいとされている。

 ただし、高額紙幣廃止云々ではなく、このようなモバイル決済を利用したキャッシュレス化に関しては今後、日本でも進むことが予想される。すでにSuicaなどJRのカードやnanacoなどのコンビニのカードを使うことで、小銭を持ち歩くことも少なくなった人も多いのではなかろうか。

 大手銀行でも三菱UFJが「MUFGコイン」を発表するなど、銀行口座のお金をスマートフォンで簡単に支払えるような仕組みが検討されている。これは仮想通貨とされているが、1円が1コインとすることで結局は円の支払いと同じ仕組みとなる。しかし、各銀行がそれぞれモバイル決済を導入するとなれば、小売店側の対応も銀行毎に必要となってしまう。このためスウェーデンのように大手行などが共同で開発して単一のモバイル決済の仕組みを作れば、日本でも現金決済ではなくモバイル決済が急速に普及する可能性がある。

 現金は持ち歩くなり、保存するなりすることで、大きな負担やリスクを伴う。それがモバイル決済を使えば軽減される。金融機関にとってもモバイル決済が普及すれば、ATMなどの設置費用を軽減できる。また、モバイル決済では小額といえども手数料を取れることも魅力となろう。

 ただし、それを使う側からすればお金の流れをすべて銀行に把握されてしまうという懸念もあるかもしれない。しかし、それ以上に使い勝手が良ければ利用は進むのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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