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欧米の中央銀行による金融政策の正常化に向けた動きのひとつの背景

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

ここにきて欧米の中央銀行のトップから相次いで正常化に向けた動きを進めるような発言が相次いでいる。そのひとつのきっかけがBISの年次報告書にあった。

国際決済銀行(BIS)とは、1930年に設立された中央銀行をメンバーとする組織で、スイスのバーゼルに本部がある。ドイツの第1次大戦賠償支払に関する事務を取り扱っていたことが行名の由来だが、それ以外にも当初から中央銀行間の協力促進のための場を提供しているほか、中央銀行からの預金の受入れ等の銀行業務も行っている(日銀のサイトより引用)。

そのBISによる直近の年次報告書のなかで、金融政策正常化の議論をしていたことが示されている。「インフレ率が上がらなくとも、長期にわたり金利を低過ぎる水準に維持すれば、金融安定とマクロ経済のリスクを将来的に高めかねない。債務は引き続き累積し、金融市場のリスクテークは勢いを増すことになる」と指摘していた。

すでに正常化に向けて歩みをはじめているFRBは利上げとともにバランスシート縮小も進めることが予想されている。保有証券縮小計画については9月のFOMCで決定される可能性が高い。そして年内あと一回の利上げは12月のFOMCで決定されるとの予想になっている。

27日にポルトガルで開催されたECBの年次政策フォーラムで、ECBのドラギ総裁は景気回復に即した緩和策の調整、つまり景気が順調に回復するのであれば、緩和効果を一定に保つための利上げの可能性を指摘した。つまりECBが年内にも理事会で利上げを検討する可能性が出てきた。ただし、いまのところ具体的な日程が示されているわけではない。

イングランド銀行のカーニー総裁も同フォーラムで、中銀は利上げを実施する必要が出てくる可能性があり、金融政策委員会(MPC)はこの件について向こう数か月以内に討議すると述べていた。MPCでフォーブス委員だけが利上げを主張していたが、前回からマカファーティー、ソーンダーズ両委員が利上げ派に加わった。さらにチーフエコノミストのアンディ・ホールデン理事からも政策引き締めを遅らせ過ぎることのリスクが高まっているとの認識が示された。年内のMPCは8月、9月、11月、12月に予定されている。やはり9月と12月のMPCに特に注意したい。

イングランド銀行にとっては英国のEU離脱による影響も危惧されようが、それによるポンド安と物価高も無視できなくなりつつある。ユーロ圏については金融機関等への問題やギリシャの財政問題等も残るが、少なくとも金融危機のリスクは後退というか沈静化したというのが、共通認識となっているのではなかろうか。

いわゆるBISビューで正常化に向けた議論が行われていた意味は大きいように思われる。6月29日~7月2日の日程でスイスのバーゼルで開かれた国際決済銀行(BIS)国際会議には日銀からは中曽宏副総裁が出席していた。正常化向けた動きに取り残されている日銀が今後、どのような動きをみせてくるのかも注目したい。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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