日本国債の利回りが乱高下した理由
一昨日から昨日にかけての日本の債券市場の動きは、珍しく海外市場にも影響を与えたようである。
8日に日本では30年国債の入札が実施されたが、これが好調な結果となったことを受け、これをきっかけに超長期債が急速に買い進まれた。30年国債入札に絡んでの業者のショートカバーが利回り低下を加速させたとの見方もあった。
20年国債の利回りは前日比0.115%低下の0.485%、30年国債は0.200%低下の0.485%に低下し、それぞれ過去最低利回りを更新した。1日に0.2%も国債の利回りが動くのは極めてまれである。この超長期債への買いに刺激されて10年債利回りも低下し、ひとつの目処とされたマイナス0.100%まで低下した。マイナス0.1%は日銀のマイナス金利政策により、超過準備の一部に課せられるマイナス金利と同水準となる。
すでに10年債の利回りはマイナスとなっているが、既発の20年債の気配値を確認すると残存12年を超える期間の国債の利回りまでマイナスとなっていた。マイナス利回りとなっている国債の期間はじりじりと延びることで、早めにプラス金利の国債を買っておこうと生保などの国内投資家の買いが超長期債に入った可能性もある。
また3月が償還月となっていることも影響していた可能性がある。財務省のサイトにある国債の償還予定額によると3月は全体で24兆円程度の国債が償還される予定となっている(このうち中期債13兆円程度、長期債8兆円程度、20年債1兆円弱)。償還を迎えた国債を乗り換えようとしてもマイナス金利の国債は買いづらい。このため保有期間リスクは負ってもプラス金利である残存期間の長い国債が買われたものとみられる。
投資家などが保有している長期国債は、売却するといったん大きな差益は出るものの、プラスの利回りで乗り換えられる国債は限られる。このため投資家は国債の売却をためらうことになり、そもそも売り物があまり出てこない。それでも少しは売りが出てくることもあり、売り物が出てくるとそれがレートに関係なく買い進まれて、0.2%も低下するような事態となった。まるで、オイルショックの際のトイレットペーパーのような状況となっていた。
ところがである。9日の債券市場では今度は国債の利回りが急上昇した。きっかけは日銀の国債買入結果を受けてのものではあったが、仕掛け的な売り(ヘッジ売り?)が債券先物に入ったとみられる。後場の債券先物の寄り付き直後に入り先物が急落した結果、DCB(即時約定可能値幅制度)の発動で一時中断された。この動きも嫌気されてか、ややタイムラグがあって、今度は買い板がなくなってしまったところに、超長期債のポジションを抱えた業者の売りなどが入ったとみられ、超長期債主体に利回りは大きく上昇した。
10年債利回りは8日のマイナス0.100%から、9日はマイナス0.015%に後退、8日に0.305%まで買われた20年債も0.485%に後退、そして8日に0.200%も利回りが低下した30年債は9日は今度は0.200%利回りが上昇した。つまり30年債利回りはあっさりと元に戻ってしまった格好である。板が薄いところに値段だけが大きく飛ぶような状況となっていた。
日銀が大規模な国債買入を進め、マイナス金利政策まで導入した結果、日銀が期待した円安株高を招くことはなくても、異常な金利低下を招いている。しかし、国債などの債券に本来存在する価格変動リスクや流動性リスク、信用リスクなどが消滅しているわけではない。それを日銀が見えなくさせているに過ぎない。そのリスクを永遠に封じ込めることもできないし、8日から9日にかけての日本の債券相場の急変はそのリスクの存在をあらためて見せつけることとなった。これは余震にすぎないりかもしれない。いまが日銀が人為的に発生させた国債バブルの絶頂期にあることも認識しておく必要は当然あろう。