金融政策を理解する上で大事なこと
日銀は学生向けコンテスト「第11回 日銀グランプリ~キャンパスからの提言~」入賞論文と審査員の講評および佳作論文の要旨をサイトで公開いている。このなかで優秀賞・特別賞を受賞した成城大学社会イノベーション学部の「日銀ナビゲーター」というのが個人的に興味深いものであった。その内容は日銀サイトで読んでいただくとして、この論文にある(図表)のなかにあった「学生にとって銀講演でわかりにくい点」というのが面白い。
対象講演は、2015年5月15日の「量的・質的金融緩和の2年」と題する読売国際経済懇話会における黒田総裁の講演であった。
大学生にとって理解できない用語が含まれているとして、「消費者マインド」、「レジームシフト」、「量的・質的金融緩和」、「イールドカーブ」、「ETF」、「J-REIT」が例として挙げられていた。
「イールドカーブ」、「ETF」、「J-REIT」などについては、金融市場での専門用語であり、ある程度の株や債券の基礎知識を得てから調べれば理解はできようが、大学生に限らず一般常識に含まれるものではないことは確かである。「消費者マインド」はさておき、「レジームシフト」や「量的・質的金融緩和」あたりになると日銀の認識と市場参加者のギャップも存在しており、何がレジームシフトとなり、量的・質的金融緩和の効果が生まれるシステムの理解は大学生だけでなく、金融市場の参加者も理解は深まっていないと言うか、日銀との温度差も伺える。
金融・経済界では常識でも大学生には通じない金融メカニズムがあるとして、「名目値と実質値の関係」、「予想物価の役割」、「金融政策がイールドカーブに及ぼす影響」、「日本銀行の大量の国債買入れによって長期金利が低下するメカニズム」、が挙げられている。
そして、数値に不慣れで評価がすんなり理解できないものの例として、「インフレのターゲットがなぜ2%なのか」、「原油安の消費者物価への影響はどの程度重要なのか」。「需給ギャップがどの程度大きいとデフレに影響するか」が挙げられていた。
この論文そのものは、日銀の金融政策の理解を助けるため、大学生による「日銀ナビゲーター」という存在を作ってみてはどうかという提案である。日銀の金融政策ばかりではなく、金融全般の知識向上のため、つまり「金融リテラシー」の向上を図るためにも興味深い提案であると思う。
ただし、このような存在にはひとつだけ注意も必要である。例えば金融政策に関して、ただ日銀の説明を理解するというのではなく、金融政策のあり方そのものを個々に考えることも大事であるという点である。私のように現在の日銀の金融政策に関して、かなり疑問を抱いている人間もいるということも知ってほしい。
12月18日に日銀は「金融緩和の補完措置」というのを決定している。これは何のために行ったのか。もちろん日銀はその説明をしているが、このタイミングで何故行う必要があったのかを考えるとその説明には別の要因が存在する可能性もある。この決定には3名の反対者がいるが、技術的な変更のはずなのに何故、反対したのか。
18日の東京株式市場は大きく乱高下したが、それは何故なのか。これは大学生に説明するにはかなり難しい面もあろうが、ただ数字だけを見て分析するのではなく、金融政策は政策と呼ばれるだけに何かしらの目的も当然存在する。その市場での反応に対してはどのように理解すべきなのか。このあたりを想像することも日銀やその金融政策を理解する上では重要になる。それにはある程度の生きた金融知識を身につけておく必要があるのではなかろうか。