米利上げ観測と原油安が金利の綱引きに
アトランタ地区連銀のロックハート総裁は4日、米経済はおよそ9年ぶりとなる短期金利の引き上げに向け用意が整っているとし、景気指標が大幅に悪化しない限り9月の利上げを支持する考えは揺らがないとの見解を示した。
これに対してFRBのパウエル理事はCNBCとのインタビューで「時は近づいている。6月のFOMCでは大半のメンバーが、年内いずれかの時点で利上げする状況になったとの認識を持っていたと思う」と説明し、「今後は極めて強くデータを意識して焦点を合わせていく」とした。
あくまでも経済データ次第とはしているが、基本路線としては利上げありきとなっており、世界的な金融経済リスクの高まりなどがない限り、9月か12月のFOMCで利上げを決定する可能性は高いとみられる。経済指標としては7日に発表される7月の米雇用統計も重要ながら、仮に市場予想を多少なり下回るようなことがあったとしても、利上げの判断に影響することはないと思われる。FRBとともにイングランド銀行も早ければ年内の利上げの可能性がある。
FRBやイングランド銀行の利上げ観測が出ていても、ここにきての米国や英国、さらにドイツの長期金利はむしろ低下していた。米国の長期金利は7月半ばの2.4%台から、ここにきて一時2.2%割れとなっていた。英国の長期金利も同期間に2.1%台から1.8%台に低下し、ドイツの長期金利も0.9%近辺から0.6%台に低下した。
この欧米の長期金利の低下の背景には原油価格の下落があった。7月半ばあたりから再び下落基調となり、WTIは50ドル台から44ドル台に低下した。原油価格の下落は物価の上昇抑制要因となり、金利に対しても上昇抑制要因となる。さらに原油価格の下落の背景となっている中国経済の減速も、世界経済への影響が意識され、米独英の長期金利に低下圧力が加わったものと思われる。
しかし、ロックハート総裁の発言などをきっかけに、欧米の長期金利が多少なり上昇してくる可能性が出てきた。利上げを織り込んで、多少なり長期金利は上昇してくれていたほうが、利上げによるショックをむしろ和らげることにもなる。
今後は米利上げ観測と原油安が金利の綱引きになることも予想される。米長期金利では2.2%から2.4%を中心としたレンジ内での動きとなりそうである。利上げを織り込み、3%あたりまでの上昇もありえるかとみていたが、原油安との綱引きもあり、それほど金利上昇圧力は強まっていない。
これはある程度の年内利上げは織り込んでいるが、次回利上げについてはFRBはかなり慎重であろうとの見方も反映している可能性がある。FRBとすれば、まずは出口、正常化が大きな目的となる。それをうまく成功させれば、そのあとは金利の引き上げだけでなく、本来の意味での量的緩和解除、つまりバランスシートそのものの縮小についても、慎重に行ってくることが予想される。