ユーロ圏に残りたいギリシャが選んだ道
ギリシャ議会は7月16日未明に、欧州連合(EU)から金融支援の条件として要求されていた財政改革法案を賛成多数で可決した。賛成229、反対64、白票6、1人欠席と圧倒的多数で可決した。チプラス首相率いる急進左派連合(SYRIZA)の議員149人のうち39人が造反した。一方、76議席を持つ最大野党の新民主主義党(ND)などEU寄りの野党が賛成に回ったように野党議員の多くの支持を得て、財政改革法案が可決した(日経新聞)。
チプラス首相はどのような戦略でギリシャへの支援交渉に臨んだのかはわからない。しかし、どれだけ高圧的に協議に臨んでも、それはむしろドイツなどの反発を強める格好となっていった。奇策ともいうべく国民投票は最後の掛けになったが、その結果を受けてチプラス政権の基盤を強める格好となった。チプラス首相とすればユーロ離脱を避けることが優先され、与党内の緊縮反対派の勢力を抑え、EU寄りの野党の協力も得られる。強硬派でもあったバルファキス財務相を辞任させ、フランスのオランド大統領に助けを請うことで仕切り直しをした。
その結果、EUは13日のユーロ圏首脳会議で、ギリシャが財政改革を法制化すれば3年で820億ユーロ超の金融支援に向けた手続きに着手することで合意が可能となった。
今後はドイツやフィンランドなどEU各国がギリシャ支援のための議会承認の手続きに入る。最短で7月末にも欧州安定メカニズム(ESM)が発動し、ギリシャへの金融支援が始まる(日経新聞)。
ギリシャ議会が財政改革法案を可決したことを受け、ECBは16日、ギリシャの銀行向けの緊急流動性支援(ELA)枠を9億ユーロ引き上げた。ただ、ギリシャの銀行は営業を再開する20日の取り付け騒ぎを避けるため、資本規制は継続するようである。さらにEU加盟国の財務相らはギリシャが次回支援交渉に入るまで70億ユーロのつなぎ融資に欧州金融安定メカニズム(EFSM)を活用することで一致した。これにより、20日が期限のECBが保有するギリシャ国債の償還が可能になり、遅れているIMFへの返済もまかなわれる(ロイター)。
ドイツのショイブレ財務相はラジオで、ギリシャとの金融支援交渉開始を承認するよう議会に要請するとしながらも、ギリシャが一時的にユーロ圏を離脱する方が適切との考えを示したようである。
ギリシャのブーチス内務相は、「状況次第で」総選挙を9月か10月に実施する可能性があるとの考えを示していた。
ギリシャのリスクは完全に払拭されたわけではない。協議の過程でのドイツなどとの対立姿勢は今後も影響が残り、チプラス首相の最後の手段は与党内の強硬派の造反を生む結果となった。しかし、緊縮反対を掲げたチプラス政権がギリシャのユーロ離脱を避けるためには、このような手段を用いるほかなかったと思われる。
むろんチプラス政権を選んだ国民はこれ以上の緊縮策への受け入れは容認しがたい面もあろう。しかし、自らの資産が大きく目減りし、経済をさらに衰退させかねないユーロ離脱との選択肢は取りづらかったはずである。
日本は戦後の混乱期に新円切り換え・預金封鎖が行われ、効率の財産税が掛けられた。これにより国民の財産が大きく目減りし、その分で国の債務を削減できた。これは強制的に行われたものであるが、同様の事態を平時にもかかわらずギリシャ国民が受け入れることはできないはずである。
ユーロに残るかユーロ離脱かとの究極の選択肢をつきつけられたとき、「ユーロ圏に残りたい」とオランド大統領に電話で頼み込んだチプラス首相のこの言葉は本心であったのではなかろうか。