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異次元緩和は正しかったのか

久保田博幸金融アナリスト

国際決済銀行(BIS)は3月18日に「The costs of deflations: a historical perspective」というタイトルの調査報告書を公表した。このなかで、デフレと経済成長率の関連性は薄いとの見方を示している。

「The costs of deflations: a historical perspective」 https://www.bis.org/publ/qtrpdf/r_qt1503e.htm

1870年から2013年までの約140年間のなかで38のケースの経済を調査した結果、デフレは全期間の約18%で発生していたが、経済成長率が大きく低下したのは1930年から1933年に米国で起こった大恐慌の時だけだったとの結論である。

細かい内容についてはレポートを直接参照していただきたいが、この報告書では、デフレに対応して政策を運営する場合は、根底にある原因と政策の効果を理解することが不可欠だと指摘していた。デフレに関する分析はほかにもあり、この報告が全面的に正しいとは言えないかもしれないが、私はこの結果は重視すべきと思うが、最後の結論部分も重要である。

4月2日に発表された3月の短観における企業の物価見通しは1年後は前年比+1.4%(前回+1.4%)、3年後は前年比+1.6%(前回+1.6%)、5年後は前年比+1.6%(前回+1.7%)とほぼ変わらずとなっていた。

また、生活意識に関するアンケート調査では1年後の物価は上がるとの回答が前回から多少増加したが、大きな変化はなかった。

日銀の岩田副総裁は以前はあれほどブレークイーブンレート(BEI)を使っておきながら、予想インフレ率を測る指標として、BEIには欠陥はあると認めることとなった。これに置き換えたのが、このような物価の調査データであるが、上記の調査データからみて、予想物価が日銀の思惑通り上昇しているとは結論づけられない。

そもそも企業経営者には業種によっては製品や原材料価格動向には敏感ながらも、物価全体の予想については感覚的なものとならざるを得ない。まして一般庶民には、今後の物価を正確に予想することにはかなり無理がある。いや、専門家にすらその予想には無理があろう。これらを使って物価予想が上がった下がったとすることに何の意味があるのであろうか。

日銀がマネタリーベースを急激に増加させれば、予想物価に働きかけ、実際の物価も目標値に向かって上昇するというのが、日銀の異次元緩和の根拠になっていた。その2013年4月の異次元緩和から約束の2年が経過する。マネタリーベースは倍になったが、消費者物価は前年比でゼロ近辺と2年前とほぼ変わらずとなっている。これを日銀はどのように説明するのであろうか。

今年の日銀の入行式の黒田総裁の挨拶では、昨年あった一文が今年は削られていたそうである。その一文とは、社会人として「スケジュールを守る」ことは基本中の基本、との部分である。日銀は物価目標達成2年というスケジュールを守らなかったから削ったのかどうかはわからない。しかし、問題はスケジュールではなく、デフレの根底にある原因と金融政策の効果にどのような影響があるのかという大事な分析に問題があったのではなかろうか。

理論と実践の両面で研さんを積んだ日銀は本来、そのあたりを良く知っているはずであるが、それが正論として言えない環境がいまの政府・日銀にあるのではないか。その政策が間違いであり、結果として大きな悪影響が出た際には誰がどのように責任を取るのか。新社会人たちもその様子はしっかり見ていると思う。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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