長期金利を押さえつけているのは政策金利
過去の日本国債の動きを追ってみると、国債の価格変動、それはつまり利回りの変動ともなるが、長期金利の動きは日銀の掌のなかにあると言って良い(リスクプレミアム発生時を除く)。これは日銀が長期金利を動かしているというわけではない。長期金利は債券市場という市場で形成されるため、本来は自由に動く。しかし、その自由に動ける範囲が日銀の金融政策によりある程度、決定づけられているためである。
長期金利も金利であるため、日銀が操作可能な短期金利に影響を受ける。短期金利から長期の金利を結んだラインがイールドカーブと呼ばれるが、短期と長期が非連続的であると考えることのほうが難しい。
長期金利は予想されるインフレ率と成長率、リスクプレミアムによって形成されるとの考え方がある。たしかに名目成長率と長期金利はある程度の連動性はあるとされるが、完全に一致しているものではない。特に昨年の日銀による異次元緩和後の物価と成長率に比較して、長期金利とのかい離が目立っている。これをどう説明できるのか。市場の物価予想が低いとかでの説明もやや無理があろう。
むしろ長期金利の形成には予想される政策金利の見通しとリスクプレミアムが関わっているとみたほうが自然ではなかろうか。何らかのリスクプレミアムがオンされなければ、予想される今後の政策金利である程度、長期金利の説明はつくのではなかろうか。
現在の日銀は政策金利が実質ゼロの状態にいるため、非伝統的手段のひとつとして質的・量的緩和政策を行っている。過去にも量的緩和政策も実施していた。日銀の国債買入れで長期金利はさらに低下しており、国債需給も長期金利の形成に大きく影響を与えているのではないか見方もあるかもしれないが、そうであろうか。
その反例として、テーパリング開始前の米長期金利の上昇と、テーパリングが始まってからの米長期金利の低下がある。これは中央銀行による国債の買入れという需給による直接的な影響ではなく、FRBの金融政策の思惑で長期金利が揺れ動くという実例に他ならない。さらに政策金利そのものの水準がたとえ利上げがあろうと、大きく引き上げられることが考えづらいことで長期金利の上昇が抑制されている面もある。
これは日本でも同様の事例が存在していた。2006年の量的緩和の解除とゼロ金利政策、さらに2007年の追加利上げの際の長期金利の動きである。この際も長期金利はほとんど動揺を示していなかった。このときには日銀の国債買入れは減額していなかったこともあるが、この買入れそのものは現在ほど国債需給に影響を与えていたわけでもなかった。それよりも政策金利の0.25%、0.50%程度への引き上げは長期金利を大きく上昇させる要因とはならず、その後の政策金利の引き上げは困難となりうるとの観測が長期金利の抑制要因となったと思われる。
ゼロ金利下での日銀による国債買入れそのものがどのように長期金利に影響を与えるのか。このひとつの事例が2003年6月のVARショックと呼ばれる長期金利の振れがあった。政策金利がゼロで抑えられているなか、国債市場での需給に日銀が絡んでくるとなれば、相場がそれで多少変動することはありうる。しかし、それもあくまで一時的な振れでしかないとの見方も可能ではなかろうか。
ここにきてドイツやフランス、イタリア、スペイン、ポルトガル、アイルランドなどの長期金利が過去最低を更新している。これはなぜか。言うまでもないが、こちらもECBの掌のなかでの動きと言える。欧州の信用リスクの後退で、今度はリスクプレミアムも減少しつつあり、その取り合いも含めての長期金利の低下といえる。ECBでは量的緩和の可能性が意識され国債需給に対する期待もあろうが、それよりも政策金利の引き下げを含め、先行きかなりの期間、政策金利が超低位で抑えられるとの見通しが背景にあると思われる。