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個人向け債券の購入の際の注意点

久保田博幸金融アナリスト

債券の代表といえば国債であるが、その国債の金利は極めて低い状態が続いている。その要因はいくつか考えられるが、その説明としては日銀が国債を大胆に大量に購入しているから、というのが最もわかりやすいかもしれない(現実にはいろいろと要因が重なっていると考えられる)。

日銀の国債保有比率は9月末に発行残高の17.4%まで上昇し、2008年秋から量的緩和を行ってきたFRBを0.1ポイント上回ったとの記事が日経新聞に掲載された。FRBも大胆に国債とMBSを買い入れていたが、その大規模買入が行われている最中でも米国の国債は売られる場面はあり、米国の長期金利は1%台から3%近辺に上昇する場面があった。つまり中央銀行が大胆に国債を購入しているというだけで、長期金利は本来、押さえつけられるものではない。

日本のデフレの進行が日本の長期金利の上昇を抑制しているとの見方もできなくはない。何をもってデフレと判断するかによって異なるが、そのひとつの指標であり、日銀のデフレ脱却の目標となっている消費者物価指数(除く生鮮)の前年同月比は、昨年の始めにはマイナス圏にあったものが、今年1月はプラス1.3%に上昇している。今後は消費税による影響も加わり、その分、物価は上昇する見込みとなっている。ただし、消費増税の影響分を除くと今後は頭打ちになると予想されている。

景気についても2013年10~12月期のGDP改定値は実質で前期比年率0.7%増と速報値の1.0%増と下方修正されたが、名目GDPは年率では1.2%増となっていた。長期的にみて長期金利はこの名目GDPと比べられることが多いが、物価やGDPからみても日本の長期金利は極めて低い水準に納まっていることは確かである。

国債の利回りが低位安定している大きな理由は、売る理由がない、というものではなかろうか。日本の財政悪化を理由に債券先物を売っても国債価格は下落せず、いつしかこのような日本国債の売りを仕掛けたり、それを主張する人達は狼少年とも呼ばれている。売っては儲からないのが日本国債となっており、それにより国債市場そのものが低迷している状況にもある。

このような状況下、個人による債券購入については何に注意すべきであろうか。債券には3つのリスクがあるとされる。価格変動リスクと流動性リスク、そして信用リスクである。債券のベンチマークである国債の金利が超がつくほど低位安定しているとなれば、地方債や社債などの金利も極めて低い状態にある。社債などは格付けなどが参考となる信用力に応じて、同年限の国債との利回りの差、いわゆるスプレッドがどの程度、乗っているが参考になる。しかし、法人向けは買い手もプロなのでそのスプレッドに敏感ながら、個人は債券市場そのものの知識不足とともに、適正なスプレッド等を見いだす専門知識を持っている人は少数と思われる。個人では適正なスプレッドを見いだすことは極めて難しい。特に社債を購入する際には、この点に注意が必要となる。

また地方債や社債は一回あたりの発行額が国債などに比べて小さくなっており、頻繁に売買が行われるものではない。特に個人向けの債券は流動性が極めて低いため、途中での売却は証券会社などに買い取ってもらう必要があり、その金額が額面を割り込む可能性があることも注意いただきたい。満期まで持てるのであれば、この流動性リスクは心配する必要はない。

問題は価格変動リスクとなる。国債の価格の上げ下げと長期金利の上げ下げは反対に動く。現在が景気や物価の情勢と乖離して長期金利が低い状態となっていると考えれば、5年先、10年先は国債の利回りが上昇していることが予想される。もちろんこのまま日銀の買入もあり長期金利は5年先、10年先も押さえ込まれる、もしくはデフレは解消されず長期金利の上昇余地は少ないと考えるのであれば、現在の金利での5年債、10年債の購入も可であろう。

しかし、今後の金利上昇に備えておきたいとするのであれば、なるべく期間の短いものの債券を購入する必要がある。さらに長期金利が上がると債券の価格は下落するため、途中換金の場合に損失が発生するリスクが高まる。これも期間の長い債券ほど、同じ幅の金利上昇で下落する価格が大きくなることや、流動性が低いものも価格に影響する点にも注意していただきたい。

このあたりの懸念をすべて解消される個人向けの債券が存在する。個人向け国債の10年変動金利タイプである。国債への信用力をどうみるかは人によって異なろうが、少なくとも金融市場関係者は国内金融資産では最も信用力が高いものと認識している。個人向け国債は1年間という売却できない期間があるものの、それを過ぎれば財務省が額面で買い取ってくれる。つまり1年過ぎれば価格変動リスクと流動性リスクはない。個人向け国債の10年変動金利タイプは長期金利が上昇すると、利払いのある半年毎の見直しにより、受け取る利子が長期金利の上昇に応じて高くなる仕組みとなっている。

もちろん自分の住んでいる地域に貢献したいので地方債を購入するとか、この会社であれば安心と思われ利率も良いと感じる社債を購入するのも購入者の判断次第であり、現実に個人向けの地方債や社債の売れ行きは国債利回りの低迷もあって良いようである。しかし、将来を見据えては一部の資金を個人向け国債の10年変動タイプに移すというのも良いのではなかろうか。今年の発行分からはこの個人向け国債の10年変動タイプは毎月発行されている。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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