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日銀は物価見通しを1.5%以上に上方修正だとか

久保田博幸金融アナリスト

12日のブルームバーグによると、日銀は26日に公表する「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で、2014年度の消費者物価指数(生鮮食品を除く)前年比上昇率の見通し(中央値)を0.9%から1.5%以上に上方修正することを検討していると伝えられた。

以前にも指摘したが、日銀がコアCPI見通しを上方修正することを「検討している」という表現はおかしい。

日銀は、4月および10月の政策委員会・金融政策決定会合において、先行きの経済・物価見通しや上振れ・下振れ要因を詳しく点検し、そのもとでの金融政策運営の考え方を整理した「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)を決定し、公表している。1月および7月の金融政策決定会合では、その直前に公表された「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)以降の情勢の変化を踏まえたうえで、先行きの経済・物価見通しを評価した「中間評価」を公表している。(日銀のサイトより)

この展望レポートでは、政策委員の大勢見通しが発表される。実質GDP、国内企業物価指数、消費者物価指数(除く生鮮食品)の予想数値が「各委員から出され」、それを集計したものが発表されている。新聞などで日銀の見通しとして発表される数値は、この予想値の中での政策委員見通しの中央値となる。

日銀の政策委員(総裁・副総裁・審議委員)がそれぞれ予想値を出すわけであり、それが「検討」されることは形式上はありえない。政策委員も他の委員がどのような数値を出すのかを事前に知らされるようなことは、ないはずである。

とはいえ、政策委員を含めて、コアCPI見通しを上方修正することを検討せざるを得ない状況にあるのは確かである。

日銀は2%という物価目標を設定したが、この2%とは消費者物価の前年比上昇率となる。もちろんこれはコアCPIとも呼ばれる消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年同月比の数値である。

1月に公表された展望レポートの中間評価では、2013年度と2014年度の見通しがすでに示されている。コアCPIについて2013年度は+0.3~+0.6<+0.4>、2014年度は+2.5~+3.0<+2.9>となっている。

2014年度の数値については消費税率が2014年4月に8%、2015年10月に10%に引き上げられることを織り込んでいる。消費税率引き上げが現行の課税品目すべてにフル転嫁されることを前提に、物価の押し上げ寄与を機械的に計算した数値、消費者物価では2.0%を加えたものを出している。そこで、各政策委員は消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースの計数を作成しており、それは+0.5~+1.0<+0.9>となっている。

日銀が決定した物価目標の2%には、当然ながら消費税率引き上げの直接的な影響は加味していない。そうでなければ消費増税だけでそれが簡単にクリアーされてしまうことになる。

4日の予想を超えた大胆な金融緩和、「量的・質的金融緩和」が全員一致で決定されたのをみると、政策委員は10月から上乗せした数値を示す可能性は十分ありうる。さらにメンバーも9人中、3人が入れ替わるため、その分、予想数値に変動も起きよう。その結果、2014年度の消費増税の影響を除いた数値が、どこまで引き上げられるのかが焦点となる。

そこで日銀は、2014年度のコアCPIの見通し(中央値)を1月の0.9%から1.5%以上に上方修正することを検討するそうである。しかし、足下の2月のコアCPIは前年比マイナスの0.3%であった。これをどのようにして上昇させるのか。繰り返しとなってしまうが、その経路がかなり不透明である。

4日に量的・質的金融緩和の導入し、コアCPIの2%という物価目標に対しては、2年程度の期間を念頭に置いて、早期に実現するため、マネタリーベース(現金通貨プラス日銀当座預金)および長期国債・ETFの保有額を2年間で2倍程度とし、長期国債の平均残存年数を現行の2倍以上にする。

それは良いがそれによりどのような経路を通じて、CPIが上昇するのか。国債のイールドカーブの低下を促すのも目的のはずだが、5日以降の国債市場ではいったん低下したイールドカーブは長いところを中心に上昇している。いっときの債券市場の混乱との見方もできるかもしれないが、日銀の国債買入は国債の流動性にマイナスの影響をもたらす懸念もある。国債に日銀が購入し、金融機関はその資金を0.1%のつく当座預金に積み上げるとして、それで実態経済にどのように波及するのか。その実験は2001年から2006年の量的緩和である程度実証済みではなかろうか。

新たにメンバー入りした総裁と副総裁はさておき、4日の異次元緩和は全員一致であり、その流れからは審議委員も予想の修正をしてくることが予想される。これまでの予想から情報修正するとなれば6人の審議委員はどのような説明をするのか。たしかに1月に比べてさらに円安や株高は進み、ムードは変わってきているのは事実ではあるが、それで2年後にコアCPIの2%にするのは可能なのか、消費税の影響を加えれば4%もの上昇となってしまうが、このあたり詳しい説明を聞いてみたい気がする。

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金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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