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債券市場の混乱にやっと手を打ってきた日銀だが

久保田博幸金融アナリスト

債券市場の混乱は4月11日も続いたが、ここでやっと日銀は手を打ってきた。

10日の債券先物は引け後、イブニング・セッションでサーキットブレーカーが発動された。9日の先物の清算値から1円安となり、取引再開後143円37銭まで下落した。昨日は超長期債も引き続き売られたが、引け際に5年債あたりの中期ゾーンに、銀行からとみられるまとまった売りが持ち込まれ、その5年債は引け後に0.305%と0.3%台をつけ、10年債利回りも0.635%まで上昇した。この売りはリスク管理上など何かしらの理由でのポジション調整的な売りかとの観測もあった。

11日に入り債券先物は、30年国債の入札も控え、前日比40銭安の143円76銭で寄り付きに。その後は非常に値動きの荒い展開となり、ジェットコースターのような相場展開となった。こんな相場に誰がした、と聞かれたら日銀です、と答えざるを得ない状況であったことで、その日銀はこの金利上昇に対し、やっと積極的な手を打って出た。

中短期ゾーンの利回り上昇に歯止めを掛けるべく、午前中に「初の」1年物の共通担保資金供給(全店、固定金利)オペ1.5兆円をオファーした。これはいわゆる「シグナルオペ」であった。「10時10分に打つのは普通は先日付本店オペなので、つまりは通常のタイムスケジュールを逸脱したオペという意思を示すオペ」(ベテラン市場参加者談)で、これは10年前のVaRショック、つまり国債の急落時にも実施されていた。2003年8月27日にオファーされた「手形オペ9か月」がそれであった。

午後にも1年物2兆円と、1か月物8000億円の計2.8兆円をオファーしたが、これもシグナルオペとなる。こうして1日の供給額としてはオファー・ベースで4.3兆円と、震災後の2011年3月23日の計5兆円の規模に迫るものとなり、債券市場の変動を抑えるという明確な意図のもとのオペレーションを実施してきたのである。

さらに市場参加者からの要望もあったようである長期国債買入れのオファー日程も公開した。あくまで翌日の実施分だけではあったが、8日の第2回に続き2回目となる残存期間5年超10年以下および残存期間10年超に加え、第3回目となる残存期間1年以下および残存期間1年超5年以下も同時にオファーするという、いわば予想の倍、バイバイ供給を実施することになる。さらに国庫短期証券買入れもあわせてオファーすることも表明し、とにかく中長期ゾーンの相場下落への対応を講じてきた。

これを受けて債券先物は前場143円40銭まで下落していたが、後場は144円台を回復した。この日は30年国債入札が実施されており、その結果次第ではさらに下げ足を速めかねないとの懸念もあった。その30年国債の入札では、最低落札価格は予想を下回り、テールも1円16銭と前回の16銭から大きく流れるなど低調な結果となったものの、日銀の対応策が効果を発揮したのか、この結果を見ての相場下落は一時的なものとなった。

5年債は一時0.320%まで利回りが上昇していたが、日銀が対策を講じてきたことで、0.190%まで切り返し0.2%割れに。10年債も0.630%から0.550%と大きく値を戻してきたことで、債券先物もじりじりと買われ、144円77銭を高値に大引けは144円73銭となった。

30年国債の入札日というぎりぎりのところで、日銀はVaRショック以来で、規模は震災直後のオペに相当するというシグナルオペを通じて債券相場の下落を抑えにかかった。これはこれで多少なり効果はあるかもしれない。しかし、異次元緩和による影響はこれからが本番となる。日銀は短期市場に対する精鋭達は揃っているかもしれないが、長期・超長期債市場はある意味未体験ゾーンとも言える。もちろん金融政策そのものもこれまでと180度変わってしまって現場はかなり混乱していることも想定される。過去にはシグナルオペにより効果は出たかもしれないが、既存の手段では対応に限界も出てくる。異次元の金融政策には、あらたな次元での債券市場対策も求められる。ただし、ここまで次元が異なってしまうと、日銀の対応にも限界が出てくることも確かである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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