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東映元社員がセクハラで労災申請 映画・映像業界で続く#MeTooの「告発」

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
画像はイメージです。(提供:イメージマート)

 昨年公開の映画『ワンピース』『スラムダンク』が興行収入100億円を優に超え、世界的にもヒットしたことが話題の映画製作・配給会社大手の東映株式会社。同社にて人気テレビ番組「仮面ライダー」「相棒」「科捜研の女」などの制作を担当していた元社員の20代女性が、中央労働基準監督署にセクシャルハラスメント及び長時間労働に起因する労働災害の申請を行ったことを、本日、女性が所属する労働組合・総合サポートユニオンが記者会見を開いて明らかにした。

 女性(以下、Xさんという)は制作現場で現場スタッフからセクシャルハラスメントの被害に遭うとともに、タイムカードの記録だけで月113時間という過労死認定基準(月80時間)を超える長時間残業を強いられた。その結果、女性は精神疾患を発症、その後休職をし、最終的には職場を去らざるを得ない状況に追い込まれたという。

 以下では、関係者への聞き取りなどから、東映でXさんが経験したセクシャルハラスメント被害とともに、Xさんが労災申請や記者会見という形で問題を告発するに至った経緯を紹介していく。

総合サポートユニオンとXさんの会見の様子(厚生労働省記者クラブにて、本日14時ごろ)
総合サポートユニオンとXさんの会見の様子(厚生労働省記者クラブにて、本日14時ごろ)

セクハラが繰り返される制作現場

 まず、Xさんが書いた総合サポートユニオンのブログからセクハラ被害の内容を見ていくことにしたい。

私は2019~2020年、スタッフAさん(60代)よりしつこいLINEを受けました。

しばらく未読無視していたところ、電話がかかり、SMSがくるなど、追撃をされました。この時期から、撮影所で仕事をするときはAさんに遭わないか常に不安を感じていました。Aさんは、私が未読無視をしている理由を「飲みに行く約束を破ったから怒っている」と勘違いしており、認知の歪みを感じました。

Xさんと東映関係者のLINEのやり取り。総合サポートユニオン提供。
Xさんと東映関係者のLINEのやり取り。総合サポートユニオン提供。

 さらに、別作品の撮影現場でも、別のスタッフ(Bさん・60代)からセクハラを受けたという。

 Bさんからはボディタッチをされたり、「俺の彼女になるか?」と言われたりしました。一番辛かったのは、向かい合うシーンのスタンドイン(撮影の事前準備で俳優の代理を務めること)をさせられたことでした。当時の私は製作部で、スタンドインは助監督の仕事のはずでしたが、トランシーバーで私を名指してきました。男性二人が向かい合っているシーンでしたし、私が指名される理由は特にないと思いました。

 「俺の目をじっと見ろ」と言われましたが、最初はBさんの首の辺りを見て、目を合わせないようにしました。すると、またも「俺の目を見ろ」と言われました。頭が真っ白になり、周りに数十人いるスタッフのうち誰かひとりでも助けてくれないかと思い、周りのスタッフに目を向けましたが、目が合ったスタッフから「見つめ合うシーンだから見つめ合えよ!」と怒鳴られ、パニックになりながら、なんとかスタンドインをやり遂げました。

 さらに、Xさんは女性労働者でたった1人、男性労働者20〜30人が住む男性寮に住まわされていた

 その経緯は、始発で間に合わないくらい早朝から長時間働くことになると会社から言われ、撮影所の近くの男性寮に入るよう指示されたということである。男性寮のXさんの部屋の目の前は男性風呂で、その横が女性風呂だった。

 Xさんの部屋の前や女性風呂の前、廊下などを、男性労働者がたくさん通る環境であった。Xさん自身、男性労働者と風呂上がりに遭遇することもあったという。女性が男性寮にいることを会社はしっかり周知していないようで、寮内で遭遇した男性労働者からびっくりされることもあるなど、配慮も全くなかった。

 ただでさえ過酷な労働をしていたにもかかわらず、Xさんは寮でも全く落ち着くことができない環境であった。

セクハラ被害についての東映側の対応

 その後、Xさんは、勇気を出して、完全第三者の内部通報窓口と聞いていた「東映ホットライン」に通報した。だが、通報をうけて設定された面談の場には、東映監査部の男性社員2名が待っていた。

 Xさんによれば、監査部の社員は、加害者のLINEをブロックするよう勧めたり、「◯◯さん(女性上司)には相談しなかったのか?」と相談先を「たらい回し」にしようとしたりするなど、信頼に足る対応ではなかったそうだ。

 さらに、「そんなのいるじゃない、うちの社内にはゴロゴロ」と加害者男性を面白がるような態度をとったり、「犯罪行為までいってないからね」「Me Tooじゃないけれど、やらない限りは治らないと思う」とも発言したという。

 結局、「スタッフルームに注意喚起の張り紙をする」「AさんからのLINEは未読無視」とう結論になり、Xさんが確認・承認しないまま注意喚起の文書が貼り出され、「円満解決」ということにされてしまった。

ユニオンでの労使交渉を通じた「告発」

 こうした経緯から、Xさんは、社内での解決は難しいと判断し、社外の個人加盟ユニオン(個人加盟制の労働組合)の支援を受けたうえで、東映の労働問題を「告発」することにしたという。

 長時間労働や残業代不払いについては、労働基準監督署に申告したところ、違法行為と認定され、是正勧告が出された。

 さらに、セクハラについては、ユニオンによる団体交渉で責任追及を行い、「第三者調査」を行う運びとなった。そして、昨年12月、「第三者調査」によって、以下のように、セクハラの事実が認定された。

  • フリーランスのスタッフA(録音担当)がLINEやショートメッセージを送付し、飲食に誘い、「会いたい」と告げるなどした
  • フリーランスのスタッフA(録音担当)が撮影中、女性APが手袋をつけているのを見て「寒いね。こんなぶかぶかの手袋だと温まらないでしょ」と言いながら、女性APの手袋の上から指先の布の部分をちょいちょいと触り、その後に手袋の上から、私の手の甲を手の平で上から包み込むように、指と指の間に指をかけて、ぎゅっと手を握った
  • フリーランスのスタッフB(助監督)が、ロケバスを待ってる女性APに対して「彼氏はいるか」と聞くなどした
  • フリーランスのスタッフB(助監督)が、女性APの肩をポンと触った
  • 東映社員C(テレビ企画制作部)が、女性APからハラスメントを受けたとの相談を受けた際の対応が不適切または不十分であった
  • 東映社員D・E(監査部)が、セクハラに対するヒアリングをする際に、刑事事件になるかどうかを殊更に問題視し、又はフリーランスへの対応は難しいなどの理由を述べて、女性APへ我慢するべきという趣旨の発言をした
  • 東映社員D・E(監査部)が、セクハラに対するヒアリングをする際に、女性APの意向を真摯に確認せず、調査を開始することもなく、適切な措置を講じなかった
  • 東映社員F(人事労政部)が、注意喚起書の掲示を社内へ行うにあたり、女性APの意向を確認せずに掲示した

 これをうけ、東映側は、Xさんに対し書面で「お詫び」をした一方、Xさんの労災申請に関して事業主証明への協力を拒否するなど不誠実な対応を続けているという。

 そこで、Xさんと彼女が加盟する労働組合・総合サポートユニオンは、労災申請をするタイミングで記者会見を開き、セクシャルハラスメントと労災の事実を広く公表することにしたという。東映に対して過重労働やセクシャルハラスメントの改善を求める署名を始めるとともに、東映でのセクシャルハラスメント被害や経過をまとめた映像を公開している。

参考:オンライン署名:キャンペーン · 東映は社内の過重労働・セクハラ風土を是正すると宣言してください!

映画業界を改善する取り組みへ

 今回の東映の「告発」は、映画・映像業界に広がる#MeTooの流れの一環として捉えられることもできるだろう。ハリウッドの有名プロデューサーであるハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ・性暴力に対する複数の女優たちの告発から始まった#MeToo運動は、多数のハリウッドの著名人たちが賛同を示して広がるとともに、世界的なセクハラ告発運動へと発展した。

 日本では、2017年に、フリージャーナリストの伊藤詩織氏が準強姦被害を告発したのをきっかけに、セクシャルハラスメント・性暴力の告発が徐々に広がっていった。

 映画業界でも、2021年に、映画界のジェンダーギャップや労働環境の問題に取り組む団体であるJapanese Film Projectが発足するなど、セクハラ・性暴力が後を絶たない業界を改善しようという動きが広がってきている。

 2022年には、映画監督の榊英雄や園子温による女優へのセクシャルハラスメント・性暴力が告発され、大きく報道もされた。そうしたなか、今回東映で、映画を制作する末端の労働者(アシスタント・プロデューサー)が制作現場のセクハラを告発したことのインパクトは大きいだろう。

 東映の告発を行った総合サポートユニオンは、映画・映像業界のセクシャルハラスメント・過重労働などの労働問題に力を入れており、無料電話相談ホットラインやオンライン署名などの取り組みも行っているという。

 映画・映像業界ではまだまだ表に出ていない被害が隠れているだろう。今後も新たな問題が告発され、社会の注目が集まり続けるに違いない。

*なお、東映側にも取材を申し込んだが、本記事公開までに回答は得られていない。

無料労働相談窓口

映像制作・クリエイティブ業界で働く人のための労働相談ホットライン

6月23日(金)17時~21時、6月25日(日)13時~17時

番号:0120-333-774

主催:総合サポートユニオン

相談無料・通話無料・匿名可能・秘密厳守

NPO法人POSSE 

03-6699-9359(平日17時~21時 日祝13時~17時 水曜・土曜日定休)

soudan@npoposse.jp

*筆者が代表を務めるNPO法人。訓練を受けたスタッフが労働法・労働契約法など各種の法律や、労働組合・行政等の専門機関の「使い方」をサポートします。

総合サポートユニオン 

03-6804-7650(平日17時~21時 日祝13時~17時 水曜・土曜日定休)

info@sougou-u.jp

*個別の労働事件に対応している労働組合。労働組合法上の権利を用いることで紛争解決に当たっています。今回したXさんも加盟しています。

仙台けやきユニオン 

022-796-3894(平日17時~21時 日祝13時~17時 水曜・土曜日定休)

sendai@sougou-u.jp

*仙台圏の労働問題に取り組んでいる個人加盟労働組合です。

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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