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「特例貸し付け」をどう返済する? 返済猶予、返済免除、自己破産…対処法を考える

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
画像はイメージです(提供:イメージマート)

 来年の1月より、新型コロナウイルスの影響で困窮した世帯に、国が社会福祉協議会を通じて無利子でお金を貸した制度である「特例貸し付け」の返済が始まる。

 この仕組みによって困窮当時の生活が救われた一方で、返済ができないという声が多数上がっている。生活困窮世帯などに対して用意してある特例貸付の償還免除制度の利用を申し込んだ人は、全体の3割に及んでいる。物価上昇やエネルギー料金高騰の影響も続く中、返済できない人はまだまだでてくるだろう。

 特例貸付によって新たな「借金」を抱えてしまった人たちは、どうすればいいのか。今回の記事では、特例貸付の返済で困っている人たちの実情をお伝えするとともに、返済に困る人たちの解決手段について解説していく。

コロナ特例貸付の仕組み

 改めて、コロナの特例貸付の仕組みを確認しておこう。

 特例貸付は、新型コロナウイルス感染症の影響により会社が休業になったり仕事が減ったために減収した世帯に対し、緊急で一時的な生計維持のための生活費を貸す、という仕組みだ。

 新型コロナウィルスの感染拡大が始まった2020年3月から始まり、緊急小口資金(最大20万円)と、その後も困窮が続く場合に利用できる総合支援資金(最大20万円を3カ月)の2種類がある。後者は再貸し付けも可能であり、最大で200万円を借りることもできた。

 利用者は多く、貸し付けが終了した2022年9月末までに379万件の決定があり、総額は1兆4289億円の上っている。

参考:福祉新聞2022年11月29日「生活福祉資金コロナ特例貸付、379万件 3割以上が免除申請へ〈全社協〉」

借りた人たちの実情。コロナ禍の失業や減収が背景

 この仕組みを利用したのはどのような人たちだったのか。生活困窮者に食料支援を行っているフードバンク仙台に相談を寄せた人たちの事例を紹介しよう。

 Aさんは30代のシングルマザー。事務の仕事をしているが、コロナの影響で休業がたびたびあるという。ひどい時には1カ月まるまる休業になったこともあり、現在でも、月に1週間ほどは休みとなることもある。

 たびたびの休業にもかかわらず休業手当は支払われておらず、収入はコロナ前より少なくなった。コロナ禍になってからの収入は月10万円程度で、家賃や水光熱費、食費などの支出でほぼなくなり、赤字になることもある。

 そのため、コロナの影響による休業をきっかけに、社協から緊急小口、総合支援資金を借りた。その合計は合計120万となっている。さらに、物価高騰、ライフラインの値上げで、生活の厳しさは増しており、食費を押さえて節約し、ライフラインの料金支払いに充てざるを得ないこともある。

 暖房も節約し、エアコンをなるべくつけないようにし、ストーブやコタツは同時に使わないようにしている。このような状況のため、償還免除を申請し、緊急小口資金の20万円は償還免除になった。

 Bさんはネパールから留学している20代の男性だ。日本語学校に通っているが、学費や生活費をアルバイトの収入で賄っていた。コロナ禍になり、アルバイトのシフトが減少していき、最終的には仕事に入れなくなった。

 会社からは「解雇」とはっきりとはいわれず、何か月もシフトにいれてくれてもらえない状態が続いたが、休業手当が支払われることはなかった。そのため生活が困窮し、フードバンクに食糧支援を依頼。社協からの貸付も利用した。その後、違うアルバイトに転職もしたが、またシフトがなくなるなど収入が安定せず、総合支援資金を何度も借りた。結果、100万円以上の借金をすることになっってしまった。

 以上のような実例から見えることは、コロナ特例貸付を借りることになった背景には労働問題があるということだ。コロナを理由とした休業の多くは会社都合による休業にあたり、本来は休業手当を支払わなければならず、最低でも本来の60%以上の賃金が支払われなければならない。

 雇う企業側も苦しいことから、国は雇用調整助成金の制度を利用し会社が支払った休業手当分の資金の補助を行ったり、国から直接に休業した分の賃金保障を行う休業支援金・給付金という制度を作ったりした。しかし、この仕組みは十分に機能しておらず、国が企業に休業手当の支払いを要請するという異例の事態にもなっていた。

参考:助成金使って! 厚労省が「悲壮」な訴えも、大企業は「黙殺」

 休業手当の支払いは労働者が労働組合などを通じて求めることもできるが、知識不足や頼れる労働組合が地域にないなど、様々な事情で請求できなかった人も多い。また、経済状況は一向に上向かず、むしろ物価高騰やエネルギー料金高騰のせいでより生活が圧迫されてしまっている。

「支援」が「借金」に。返還の猶予や免除の救済措置もあるが…

 借りたお金は、2023年1月から返済が始まるが、国は猶予制度と免除制度を用意しているので、返済できない世帯はこれらの制度を利用できる。猶予は原則1年間認められ、下記に該当した場合は可能だ。

返済猶予できる事情

  1.  地震や火災等の被災した場合
  2.  病気療養中の場合
  3.  失業又は離職中の場合
  4.  奨学金や事業者向けのローン(住宅ローンを除く)など、他の借入金の償還
  5. 猶予を受けている場合
  6.  自立相談支援機関に相談が行われた結果、当該機関において、借受人の生活
  7. 状況から償還猶予を行うことが適当であるとの意見が提出された場合
  8.  都道府県社会福祉協議会が上記と同程度の事由によって償還することが著
  9. しく困難であると認める場合

(やむを得ない事由の例)

  • 収入減少や不安定就労によって生活が安定しない(直近3か月の収入が住
  • 民税非課税相当を目安に判断)。
  • DV等の被害を受けて避難している。
  • 多重の債務があり、債務整理を行う可能性がある。
  • 公共料金等の滞納が続いており、生活に困窮している。

 また、償還免除が認められるのは3パターンあり、下記の通りだ。

(1)借受人による申請免除

  • 借受人および世帯主が住民税非課税世帯
  • 生活保護を受給した場合
  • 精神保健福祉手帳(1級)又は身体障害者手帳(1級又は2級)の公布を受けた場合償還開始以降12か月以上の償還未済額があるが、分納や少額返済などを実施しているものの償還未済額が増加しており、かつ、住民税所得割が非課税となっている高齢者のみ世帯、障害者世帯又はひとり親世帯若しくは当該世帯と同等と都道府県社会福祉協議会において判断される世帯である場合

(2)相続人への職権免除

  • 死亡した場合
  • 失踪の宣告がされている場合

(3)都道府県による職権免除

  • 自己破産の手続き又は個人再生の手続きを行い返済が完了し、免責が確定した場合
  • 12か月以上の償還が遅延している借受人については、住居不明により償還催告
  • 通知書が返送される事実により、償還が開始されない場合
  • 12か月以上の償還が遅延している借受人について、償還指導を実施した上でなお償還の見込みがない場合
  • 償還期限到来後2か年連続して、借受人及び世帯主の住民税が非課税である場合

(均等割が非課税であること)

  • 償還未済額の時効が完成している場合
  • 「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」に基づく調停条項案により債務の全部又は一部の減免を要請され、債務整理が成立する場合

参考:緊急小口資金等の特例貸付の借受人へのフォローアップ支援について(厚生労働省)

 以上に該当すれば、猶予や免除を受けることができる。利用できる方はぜひ申請してみてもらいたい。

 しかし、償還免除はかなり要件が厳しい。主には非課税世帯か生活保護受給世帯が対象だ。非課税まではいかない低収入の世帯は対象にならず、免除の要件に該当しない人は多いだろう。そして、現在の物価高騰の情勢や、賃金が引きあがらない状況を鑑みると、生活困窮の度合いは継続していくことが予想される。

 また、コロナの特例貸付を借りている世帯は、ほかにも借金をしている人たちは多い。生活が苦しいために、カードローンや消費者金融を利用したり、学生時代の奨学金を返済している人もいる。その返済に加えて、コロナの特例貸付の返済も行っていくのは、非常に困難だと言わざるを得ない。

 すでに今年の春ごろには、返済のめどが立たないとして自己破産にいたるケースが数多く報道されていた。

参考:「これが福祉なのか...」困窮者への特例貸付で破産連絡700件超 コロナ禍で大量申請、支援現場に葛藤(東京新聞 2022年4月6日)

自己破産に関する「誤解」とは何か

 もはや、残された道は自己破産を検討しなければならないも多いことだろう。自己破産とは、自分の財産と引き換えに負債をなくす手続のことだ。この手続きを行えば、現在背負っている債務のほとんどをなくすことができる。破産をしてしまうと、ローンを組んだりクレジットカードを契約したりすることがほとんどできなくなったりするといった不利益もありはするが、これ以上債務に追われなくても済むようになる、多額の借金やいくつもの会社や機関から借金をしている多重債務者にとって大きなメリットのある仕組みだ。

 ただし、多くの人は二の足を踏んでしまう仕組みでもある。自己破産をすれば生活に大きく影響が出てしまうのではないかという不安があるからだ。相談の現場では、「自己破産すればブラックリストに載ってしまう」「子どもが大学に行けなくなる」「家が借りれなくなる」「家族に迷惑がかかる」という不安の声がよく聞こえてくる。

 しかし、よく言われるこれらの心配には誤解が多く含まれている。いくつか解説しよう。

「ブラックリスト」 

 まずは「ブラックリスト」の話だ。これは、貸金やローンの申込をしたときにだけ、業者がみることができる情報に、債務整理をしたという情報が一定期間登録されるという意味である。そのため、それ以外の関係者、例えば学校関係者や不動産業者が見ることはできない。自己破産をしてしまうとローンが一定期間組めなくなったりすることはあるだろうが、進学ができなくなったり賃貸物件を借りれなくなるとうことではない。

 家を借りる際に、賃貸保証会社が必要な契約で賃貸保証会社の審査に通らないということはあるかもしれないが(保証会社はその情報をみることはできる)、それも「可能性」という話であり、債務整理をしたら確実に通らないというわけではない。

「家族にも迷惑がかかる」

 次に、「家族にも迷惑がかかる」という話だ。自己破産をすれば、家族の財産も処分の対象になると思っている人もいる。しかし、これも誤解だ。破産をしたときに「自分が持っている財産」は処分しなければならないが、あくまで「自分の」である。家族で住んでいる家があったとして、その名義が「自分」でなければ、その家は処分しなくてもよい。自分の配偶者や子どもには収入があり資産があったとしても、その資産には手を付ける必要はない。ついでに言えば、処分する「財産」は、「売って20万円以上のもの」が対象となる。それ以下の価値しかないものは売り払う必要はない。

 ただし、注意が必要なのは、奨学金を借りている場合だ。奨学金を借りる際に、機関補償ではなく保証人や連帯保証人を用意して借りた場合は、自分が自己破産しても保証人や連帯保証人となっている親や祖父母に請求が行ってしまう。奨学金を抱えている人は、弁護士等に相談したうえで保証人らに対してどのように対応するかも考える必要があるだろう。

自己破産を推奨する理由

 以上のような正しい知識を踏まえて考えれば、今回のコロナの特例貸付などを借りていて返済に苦しむ世帯にとって、自己破産という選択肢がよりよい選択肢となる人もいるだろう。

 そもそも、債務を放置すれば利払いなどで生活はいつまでも改善できない。労働・生活相談の中では雪だるま式に拡大していき、働いても働いても返せないことでメンタルヘルスを病んでしまい、ついには働くことさえできなくなってしまったという話に出会うことが非常に頻繁にある。

 また、返済のためにダブルワーク・トリプルワークなど無理な働き方をして倒れてしまったという事例も多い。この場合にも結局は働くことができなくなってしまう。

 債務の整理は健全な生活を取り戻し、社会参加していくための有効な方法なのである。それは個人単位においても、社会全体においても、より合理的な選択だといってよいだろう。

 さらにいえば、先にも紹介した事例のように、コロナ過で増えた借金は休業手当の不払いなど企業の違法行為に端を発している場合も多く、借金を抱えた人たちは被害者にあたることも多い。また、そもそも生活苦に陥った人たちへの支援を借金で行うという国の施策が妥当なのかも疑問がある。

 特例貸付だけではなく、奨学金が返せないという問題など、借金による「支援」は機能不全に陥っている。無理なダブルワークや「ブラック企業」のような過酷な労働を広げる役割を果たしてきた側面も指摘せざるを得ない。

 以上のことを踏まえると、コロナの特例貸付を返せないという人たちを「自己責任」と切り捨てることは妥当ではない。

 年末に向けて、全国各地の支援団体が生活や借金についての無料相談会を開く予定だ。コロナの特例貸付の猶予や償還についても自分が対象になるのかどうかなども気になる人がいるだろう。ぜひ弁護士などの専門家に相談してみてほしい。

年末の債務解消無料相談会~コロナ特例貸付や奨学金、カードローンなどの債務でお困りの方へ~

日時:12月24日・25日の両日、13時~17時

電話番号:022-711-6225(相談無料、秘密厳守)

主催団体:仙台POSSE、フードバンク仙台、みやぎ青葉の会、ブラック企業対策仙台弁護団、反貧困みやぎネットワーク

年末なんでも相談会

日時:12月27日(火)10時~18時

場所:フレンディア(川口駅前キュポ・ラ本館4階)

主催:年末なんでも相談会実行委員会(問い合わせ:埼玉総合法律事務所 048-862-0355)

【無料相談窓口】

NPO法人POSSE

03-6699-9359

soudan@npoposse.jp

*筆者が代表を務めるNPO法人。訓練を受けたスタッフが法律や専門機関の「使い方」をサポートします。

POSSEの奨学金相談窓口

03-6693-5156

soudan@npoposse.jp

フードバンク仙台

活動日 (月)・(木)・(金) 10:00~16:00

食糧支援申込・生活相談用 070-8366-3362(活動日のみ)

*食料や活動資金の寄付も受け付けています。

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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