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ツイッター社は日本で「大量解雇」できる? 外資系のリストラから身を守る方法とは

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
(提供:イメージマート)

 Twitter社が世界中を巻き込む形で大規模なリストラに乗り出している。アメリカの起業家イーロン・マスク氏がTwitter社を買収後、全従業員の約半数に当たる約3700人を解雇したという。詳細は不明だが、Twitter社の日本法人であるTwitter Japan株式会社にもリストラの波が押し寄せているとの情報もある。

参考:マスク氏の大規模解雇でツイッター混乱 社員提訴 広告主も撤退

 昨今、日本で従業員を雇用する外資系企業は増えているため、Twitter社に限らず、海外の本社が決定したグローバルなリストラ計画の影響を受けうる労働者も増加しつつある。

 そこで、本記事では、外資系企業に雇用される日本の労働者の雇用は、どのような法的規制・保護を受けられるのか、またリストラの対象となった場合にどのように対処しうるのかについて解説していきたい。

日本の法律は整理解雇を厳しく規制している

 まず前提として、日本の労働法は、マスク氏やTwitter社が本拠地とするアメリカの労働法と比べて、経営上の都合での解雇(以下、整理解雇という)を厳しく制限している。

 労働契約法16条は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定めている。

 つまり、正当性の無い解雇は無効とされるということだ。解雇に正当性があるかどうかは、整理解雇の場合、以下の4要件によって判断される。

  1. 人員削減は本当に必要か
  2. 解雇を回避するための努力を尽くしたか
  3. 解雇される対象者が合理的に選ばれているか
  4. 説明や協議を尽くしているか

 これらを満たさなければ、正当な解雇とは言えず、解雇は無効となる。

 具体的には、企業の収支や資産の状況、役員報酬の削減や新規採用の停止、希望退職など解雇を回避するための手段の実施状況、労組との団体交渉や従業員への説明の機会の有無や内容の如何等で総合的に判断される。

 Twitter社のケースに即して言えば、少なくとも経営者が代わって経営方針が変わったというだけでは、日本の法律に照らして解雇の正当性は認められない可能性が高い。日本法人の経営状況が具体的にどのような状態であるか、経営不振といえる状態にあるかどうか、によって日本法人での整理解雇が法的に見て可能かどうかが決まる。

どの国の法律が適用されるのか?

 ここまで日本の法律が適用されることを前提に議論を進めてきた。だが、外資系企業の場合には、そもそも日本の法律が適用されるのかどうかという点も検討する必要がある(労働契約の準拠法の決定)。

 「解雇自由」とも言われるアメリカの法律が適用されるのか、先に見た日本の解雇権濫用法理が適用されるかによって、労働者の有する権利は大きく異なってくるからだ(なお、ここでは詳述しないがアメリカの雇用も完全に「解雇自由」であるわけではない)。

 日本の法律が適用されるかどうかは、グローバル化が進む2006年に全面改正された「法の適用に関する通則法」(通則法)によって判断される。同改正法では、すでに今回のような事態を見越し、労働契約の準拠法について特別の規律を定めている。

 通則法7条は、「法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による」と規定しており、当事者自治の原則(準拠法選択の自由)を

宣言している。あらかじめ当事者間に約束があれば、それが優先されるのが原則だということになる。

 だが、実際には準拠法があらかじめ合意されていない場合も多い。そうした場合について同法8条は、法律行為の成立・効力は当該法律行為に最も密接な関係がある地の法(「最密接関係地法」)によると規定している。ほとんどの場合、実際に仕事をする場所が「最密接地」となり、その国の法律に従うということであり、日本で働いていれば日本の法律が「最密接地法」となる。

 一方で、航空会社の搭乗員のように、最密接関係地法が明白ではない場合には、雇入事業所所在地法(当該労働者を雇い入れた事業所の所在地の法)を最密接関係地法として推定すると規定している。

労働者側に与えられた権利

 さらに、労働者に対しては特別の保護規定が置かれている。通則法12条 1 項は、当事者が最密接関係地法以外の法を準拠法として選択した場合であっても、労働者が使用者に対し、最密接関係地法の中の特定の強行規定(これには解雇規制も含まれる)を適用すべき旨を意思表示した場合は、その強行規定をも適用すると規定しているのだ。

 要するに、日本以外の国の法律を適用することに労働者が同意していたとしても、労働者側は日本で働いている限り、日本の解雇規制の適用を使用者に求めることができるのである。こうした規定が設けられているのは、悪質な使用者が法整備の遅れた国の法律を準拠法にすることで、労働者の権利が守られなくなる事態が予測されるからである。

 他方で、重要な例外もある。日本法人の労働条件の決定権限や人事権をグローバル本社が掌握している場合には、使用者は労務提供地である日本の法律ではなく、グローバル本社の所在地の法が適用されうる。

 労働契約の履行地が日本であっても、契約の展開により密接な関連性を有するのが雇入事業所所在地であれば、使用者は、雇入事業所所在地法が最密接関係地法で

あることを立証して、海外の法律を適用させることができる。

 通則法では、労務提供地法(働いている場所の法律)を最密接関係地法とあくまで「推定」すると規定しているだけであるため、この「推定」を覆すほど、海外から直接的に管理されている場合には、日本の法律が適用されない場合もあり得るということだ。

 こうしたケースでは、人事権限を有するグローバル本社等の所在地の法が解雇についてどのように規制しているかを参照する必要が出てくる。

参考:土田道夫「外国人労働者の就労と労働法の課題」『立命館法学』2014年5・6号

 なお、ここまで見てきた労働契約法上の解雇規制の場合とは異なり、最低賃金法、労働安全衛生法、労災保険法等の労働保護法は、当事者の意思にかかわらず日本国内で働く限り必ず適用される「絶対的強行法規」にあたる。

 賃金支払いの原則、労働時間の上限、強制労働の禁止などの規定については、解雇規制の場合とはことなり、どのような状況においても日本の法律が適用されることに注意してほしい。

解雇ではなく退職勧奨された場合は?

 このように、グローバル本社が日本法人の労働者の人事権を掌握しているケースを除けば、日本で働く労働者には原則として日本の解雇規制が適用され、経営上の都合での解雇は他の日本企業と同じように制限される。

 そのため、企業が人員整理の方法として、解雇規制が適用される解雇ではなく、退職勧奨を選択するケースも多い。退職勧奨とは、使用者が労働者に対して退職を勧めて、労働契約を労使の合意の上で解消しようとすることであり、解雇規制の存在する日本では一般的なリストラの方法となっている。

 こうしたケースでは、安易に退職に合意したり、退職願・退職届などにサインしたりしないことが重要だ。退職勧奨を受けても退職に応じる義務は全くない。だから、本当に納得できるような退職条件が提示されているのでない限り、勧奨に応じる必要はない。

 退職勧奨による人員整理が計画通り進まない場合には、使用者が労働者に対し退職を強要し始めるケースもある。これは退職強要と呼ばれ、民法上の不法行為に当たり違法行為である。この場合もできる限り合意やサインには応じず、録音をするなどして退職強要の証拠を残すことが大事だ。

 また、退職勧奨にしても解雇にしても、労働者個人で対応するのは容易ではない。早めに労働組合や労働弁護士などの専門家に相談して解決を図ることが望ましい。

外資系企業の解雇・退職勧奨への対応方法

 とりわけ個人加盟できる労働組合は、駆け込みでも相談に乗ってもらえるため、リストラの際の相談先として有力な選択肢といえる。

 その一つである東京ゼネラルユニオン(東ゼン労組)の執行委員であるルイス・カーレット氏に具体的な解決事例と解決のポイントを聞いた。東ゼン労組には、多くの外国人労働者が所属し、外資系企業との団体交渉の実績も豊富である。

 カーレット氏によれば、外資系企業の多くは日本の労働法について十分に理解していないことが多いという。そのため、専門知識を持つ労働組合が交渉することで、法律の認識をただして解決に導くことができる。

 彼が交渉を担当したA社(縫製業・アメリカ)のケースでは、グローバル本社が日本法人の従業員をほぼ全員解雇する方針を示した。そこで従業員たちは東ゼン労組に加盟し、A社と団体交渉を行った。A社は従業員に対し十分な説明をせず、経営状況についても解雇が認められるほどの深刻な経営不振とはいえなかったことから、整理解雇の4要件を満たしていないため不当解雇に当たると組合は主張した。

 そうしたところ、A社は解雇を強行することはできないと判断し、退職に応じることと引き換えに解決金を支払うことを提案してきた。交渉の末、円満に解決することができたという。

 また、カーレット氏は、リストラをされる以前に労働組合に相談・加入することで、より良い解決が可能だともいう。労働組合と会社との労使交渉が定着していれば、会社は一方的にリストラを強行しづらいためだ。労使交渉で良い解決が図れたというケースを紹介しよう。

 コロナ禍で業績の悪化した語学学校を運営するB社(アメリカ)のケースだ。B社の日本法人は、コロナ禍で売上げ回復の目途が立たないため、人員を整理する方針を東ゼン労組に対して示した。

 B社は東ゼン労組との労使関係などから、日本の解雇規制について理解しており、また解雇を強行すれば労働組合が黙っていないことを理解していたことから、解雇ではなく希望退職を募ることにしたという。それなりの金額の特別退職金を支払うことを条件に退職希望者を募ったところ、計画していた人数に達したため、解雇は免れたという。

 このように、リストラに対して個人加盟労組による団体交渉は非常に有効な方法といえる。外資系企業で人員整理等が懸念される場合には、以下の相談先等を参考にして、ぜひ個人加盟労組に相談してみてほしい。

無料労働相談窓口

東ゼン労組 

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03-6804-7650(平日17時~21時 日祝13時~17時 水曜・土曜日定休)

公式LINE ID: @437ftuvn

*個別の労働事件に対応している労働組合。労働組合法上の権利を用いることで紛争解決に当たっています。

仙台けやきユニオン 

022-796-3894(平日17時~21時 日祝13時~17時 水曜・土曜日定休)

sendai@sougou-u.jp

*仙台圏の労働問題に取り組んでいる個人加盟労働組合です。

ブラック企業被害対策弁護団 

03-3288-0112

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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