新規感染者数が連日過去最多を更新し、オミクロン株の脅威が広がるなか、業務中にコロナに感染する人が増えています。

 感染以外の影響も無視できません。陽性者や濃厚接触者が増えると、人手が足りなくなり、余裕が無くなった職場で労災事故が発生するリスクが高まります。医療従事者をはじめ、業務の負担が増えている職場では、過労による脳・心臓疾患や精神障害の発生も懸念されます。

 こうしたときに重要になるのが労災保険制度です。「労災」という言葉は知っている方が多いと思いますが、制度の内容についてご存知の方は少ないのではないでしょうか。

 以下では、よくある相談事例を踏まえ、意外と知られていない労災保険の給付について解説していきます。

どんなケースが「労災」だと認められる?

 労働者が仕事中に事故にあって怪我をした場合や、仕事が原因で病気になった場合には、労災保険法に基づく保険給付が支給されます。

 例えば、重いものを運ぶ仕事で腰痛を発症した場合、長時間労働が原因となって脳梗塞を発症した場合、パワハラが原因となってうつ病を発症した場合なども、労災保険給付の対象になることがあります。

 給付を受けられるのは、労働基準監督署(以下、「労基署」)が「業務災害」であると認定した場合に限られます。労基署が、怪我や病気が業務に起因するものであるかどうかを調べて、保険給付の対象になるかどうかを判断するというわけです。

 たとえ被災した労働者の注意不足によって労災事故が発生したとしても給付を受けることができます(故意や重大な過失がある場合を除く)。また、勤務先の会社に過失がなくても給付を受けることができます。

 労災保険は正社員だけでなく全ての労働者に適用されますので、パート、アルバイトなど、いわゆる非正規雇用で働く方でも、要件を満たせば給付を受けることができます。

労災のために会社を休んだら、どれくらい給付がもらえる?

 労災が原因となって仕事ができなくなってしまい、会社から給料を支払ってもらえなくなった場合には、労災保険から「休業補償給付」が支給されます。

 給付される額は、給付基礎日額の60%です。給付基礎日額とは、原則として、直前3か月間の賃金の総支給額を日割り計算したものです。

 これとは別に、「休業特別支援金」として給付基礎日額の20%が支給されます。合わせて、給料の約8割の給付を受けることができるということになります。

 ただし、労災保険から給付を受けられるのは、休業が4日以上になったときです。休業3日目までは労災保険からの給付を受けられませんが、労働基準法第76条1項に基づき、勤務先に平均賃金の6割の休業補償を求めることができます。

 休業補償給付を受けるためには、労働者本人が、勤務先を管轄する労基署に労災請求用紙を提出しなければなりません。申請にあたっては、勤務先で事業主の証明欄に記入してもらい、また、療養のために労働することができなかったことについて医師に証明してもらう必要があります。

労災保険の適用を受けない場合のデメリットは?

 業務災害による怪我や病気であるにもかかわらず、労災保険の適用を受けない場合には、労働者本人に様々なデメリットが生じてしまいます。

 まず、労災保険が適用された場合、治療費の負担は原則としてありません。一方、労災保険の適用を受けずに私傷病として取り扱われた場合、健康保険証を使って治療を受けることになり、原則3割の自己負担が発生します。

 次に、怪我や病気によって仕事を休んだとき、労災保険の適用を受けない場合には、健康保険から「傷病手当金」の支給を受けることができますが、給付される額は給料のおよそ3分の2になります。先ほど説明したとおり、労災保険が適用された場合には、給料の約8割の給付を受けることができますので、休業期間が長い場合には受け取ることができる金額に大きな差が生じます。

 給付を受けられる期間にも大きな違いがあります。傷病手当金の支給を受けられる期間は、支給開始日から「通算して1年6か月」です。これに対し、労災保険の休業補償給付は、症状が長期化した場合でも、治癒(症状が固定すること)するまで給付を受けることができます(療養開始から1年6か月を経過した場合、傷病補償年金に切り替わることがあります)。

 他にも、労災保険制度には、後遺障害が残った場合に支給される障害補償給付、不幸にも労働者本人が亡くなった場合に遺族に支給される遺族補償給付などがあり、被災した際のせめてものセーフティ・ネットとして大きな役割を果たしています。

 このように、労災保険が適用された方が多くの点で有利になるといえます。

会社が労災だと認めてくれないときはどうしたらいい?

 労災に関する相談を受けているなかで多いのが、「勤務先が労災申請の手続きに協力してくれない」というものです。事故の責任を曖昧にしたい、労基署の調査が入ってほしくないといった事業主側の事情から、「労災隠し」をする会社は後を立ちません。

 会社が協力してくれないからといって労災の申請ができないわけではありません。よく誤解されていますが、あくまでも労災を申請するのは労働者本人や遺族であり、会社ではありません。また、申請にあたって会社の承認は必要ありません。

 事業主は、労働者から労災保険給付を受けるために必要な証明を求められたときは、速やかに証明を行う義務を負っています(労働者災害補償保険法施行規則第23条2項)。

 会社から手続きへの協力を拒まれた場合には、まずはこうした規定を根拠に、会社に対して協力を求めましょう。個人で交渉することが困難な場合は、弁護士や労働組合を通じて交渉することで話が進展する可能性があります。

 それでも会社が応じない場合には、事業主の証明欄が空欄のままでも申請をすることができます。勤務先を管轄する労基署に事情を説明した上で労災請求用紙を提出しましょう。

 この場合には、労働基準監督署が会社に資料の提出を求めたりヒアリングを行ったりして、支給・不支給の決定を行います。

労災保険からの給付のほかに請求できるお金はある?

 事故が発生したことや労働者が病気を発症したことについて、会社が民事上の損害賠償責任を負うべき事情があると考えられる場合には、労災の申請とは別に、会社に対して損害賠償を請求することができます。

 会社が法律で定められている安全対策を実施していない場合や、十分な安全衛生教育をしていなかった場合には、会社の責任が認められる可能性が高いといえます。

 請求できるのは、治療費などの積極損害、休業損害や逸失利益などの消極損害、慰謝料などです。ただし、労災保険から給付を受けている場合には、保険給付によってすでに損害の補填がなされているとみなされるため、その分が会社に請求できる損害額から控除されます。

 例えば、休業損害については、労災保険から給付基礎日額の60%が給付されますが、全額が補填されるわけではないため、不足額として4割部分を請求できるということになります(給付基礎日額の20%が支給される休業特別支援金については、損害の補填とみなされないため、会社に請求できる損害額から控除されません)。

 また、労災保険では精神的損害に対する給付はなされないため、慰謝料については控除されることなく会社に対して請求することができます。

 損害賠償や慰謝料を請求するためには、客観的な証拠資料を用意できるかどうかが決定的に重要になります。証拠を集めたり請求の法的根拠を整理するためには専門的な知識が必要ですから、困ったときには弁護士や支援団体に相談してください。

※ 仕事で新型コロナに感染した場合の労災補償については、厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」をご確認ください。

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講師:四方久寛弁護士(大阪労災・労働法律事務所)

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【労災・過労死 無料相談ホットライン】

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主催:労災ユニオン

番号:0120-333-774(相談無料・通話無料・秘密厳守)

【常設の無料相談窓口】

労災ユニオン

03-6804-7650(平日17~21時/日曜・祝日13~17時/水曜・土曜定休日)

soudan@rousai-u.jp

*過労死・長時間労働・パワハラ・労災事故を専門にした労働組合の相談窓口です。

NPO法人POSSE

03-6699-9359(平日17~21時/日曜・祝日13~17時/水曜・土曜定休日)

soudan@npoposse.jp

*筆者が代表を務めるNPO法人。訓練を受けたスタッフが法律や専門機関の「使い方」をサポートします。

仙台けやきユニオン

022-796-3894(平日17~21時/日曜・祝日13~17時/水曜・土曜定休日)

sendai@sougou-u.jp

*仙台圏の労働問題に取り組んでいる個人加盟労働組合です。

ブラック企業被害対策弁護団

*「労働側」の専門的弁護士の団体です。

ブラック企業対策仙台弁護団

022-263-3191(平日10~17時)

*仙台圏で活動する「労働側」の専門的弁護士の団体です。