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コロナ禍で広がる支援の取り組み 「年越し大人食堂 」、「コロナ村」など全国各地で

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
(写真:k.k/イメージマート)

年越しに向けて広がる支援の取り組み

 年末年始を迎え、新型コロナの影響を受けて生活に困っている人々を支援する取り組みが活発になっている。

 貧困問題に取り組む支援団体が結成した新型コロナ災害緊急アクションは、12月31日に東池袋中央公園(東京都豊島区)にて緊急相談会を行い、1月1日と3日には聖イグナチオ教会(東京都千代田区)にて「年越し大人食堂2021」を開催する。

 この「年越し大人食堂」は、私が代表を務めるNPO法人POSSEが始めた取り組みであり、生活に困っている方々を主な対象に栄養バランスを考慮した温かい食事を無料で提供するとともに、利用者からの生活相談を受け付けるイベントである。

 昨今、「子ども食堂」の取り組みが全国に広がっているが、子どもが貧困に陥る背景には親の貧困がある。それにもかかわらず、子どもの貧困と比べると、「大人」の貧困は自己責任と捉えられ、十分な社会的な支援が行われない傾向にある。

 そこで、「大人」が困ったときに気軽に相談できる場所を作るために始めたのが「大人食堂」だ。「大人食堂」というネーミングには、「大人」への支援の必要性を社会に訴えていきたいという思いが込められている。 

 今回の「年越し大人食堂」では、食事の配布や生活相談のほか、東京都が提供する一時的な宿泊場所の利用に向けた支援や、その他の公的支援制度の利用に向けたサポートも行われる。

参考:年越し大人食堂(年末年始緊急相談会)

 東京都新宿区の大久保公園では、12月29日と30日に「年越し・支援コロナ被害相談村」(コロナ村)が開催され、食事の提供、少額生活費の給付、「TOKYOチャレンジネット」の申請手続きのサポートなどが行われた。

 

 「コロナ村」は、新型コロナの影響で仕事や住まいを失った方々の年越しを支援しようと、労働組合や弁護士の呼びかけにより開催されたものだ。年明けの1月2日にも同じ場所で開設されることになっている。

参考:なんとか年越しを…「コロナ被害相談村」を都内で開催(2020年12月29日 東京新聞)

 自立生活サポートセンター・もやいは、1月2日に都庁前(東京都新宿区)で新宿ごはんプラスと共同で食料配布と相談会を開催するほか、オンライン相談も実施している。

 相談会では、必要に応じて緊急の宿泊費や生活費の支援を行うとともに、希望者には年明けに生活保護等の支援制度利用のサポートを実施するという。

参考:【お知らせ】〈もやい〉年末年始の相談会(12/29~1/3)

求められる公的制度の利用支援

 紹介しきれないが、同様の取り組みは全国各地で行われている。

 年末年始には、日雇いの仕事が少なくなってしまい、収入を得られなくなってしまう方が多く、また、行政の窓口も休みになってしまうため、このような民間団体による支援活動が特に重要になる。とりわけ今回の年越しは、新型コロナの影響で例年以上に厳しい状況にあると考えられる。

 こうした状況を踏まえ、行政も対策を講じている。例えば、東京都は、2020年12月21日から2021年1月19日までの間、新型コロナの影響による失業等によって住まいを失った方等に対し、区市と連携して年末年始の一時的な宿泊場所を提供している。

参考:「TOKYOチャレンジネット」ホームページ

 ただ、こうした支援制度の情報は当事者には届きにくく、支援者によるサポートなしには制度利用に結びつきにくい。そこで、民間団体の役割が重要になる。

 上に紹介したように、民間団体の支援活動では、生活困窮者の相談に応じ、行政の支援制度の利用をサポートする取り組みがなされている。食料の提供などの一時的な支援にとどめず、生活相談を行い、個々の状況に合わせて行政の支援制度や福祉制度に結びつける取り組みが行われているのだ。

コロナ・ショックが日本の市民社会を変える?

 新型コロナの影響が広がった2020年は暗い話題ばかりが目立ってしまったが、その一方で、苦境に陥った人々を助けるために多くの個人や団体が行動を起こしていることはもっと注目されるべきだろう。

 ニュースなどで深刻な実態を知り、「自分にできることはないか」とボランティア活動を始める若者も多い。日本は海外に比べてNPOなどの非営利セクターの活動規模が小さいが、コロナ・ショックはこうした状況を変えるきっかけになるのかもしれない。

 困っている人々や支援団体を資金面で支えようという動きも広がっている。春頃には「自分には必要ないから」と特別定額給付金の10万円を支援団体などに寄付する動きが目立った。

 例えば、公益財団法人東京コミュニティー財団が設立した「新型コロナウイルス感染症:拡大防止活動基金」には、12月30日時点でおよそ8億7千万円もの寄付が集まっている(READYFOR株式会社のホームページより)。

 こうした寄付は全国の支援団体の活動資金となり、支援の現場で奮闘する人々の支えとなっている。そして、支援者の活動によって多くの人々の命や生活が救われている。

 こうした市民相互の社会連帯や助け合いが、一時的なものにとどまらず、自治の精神をもって地域社会を運営していく動きにつながっていくのであれば、これからの社会を作っていく大きな推進力になるのではないだろうか。

 コロナ禍で生まれ変わりつつある市民社会の動きに今後も注目していきたい。

無料生活相談窓口

NPO法人POSSE

電話:03-6693-6313

メール:seikatsusoudan@npoposse.jp

受付日時:水曜18時~21時、土日13時~17時、メールはいつでも可

*2020年12月30日から2021年1月5日まではお休みです。

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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