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「コロナ休業」をした人は必見! 「過去」分の休業支援金・給付金が申請できる?

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 この度、コロナ対策の業支援金・給付金の運用がおおきく改善された。厚生労働省が10月30日に発表したものだが、あまり大きく報じられず、必要な方に情報が行き届いていないように思われる。そこで、制度の概要とともに、どのような改善がなされたかを解説していく。特にシフト制や登録型派遣で働く方々には有益な情報であるため、ぜひお読みいただきたい。

 すでに不支給決定を受けている方でも改めて申請できる場合があり、休業手当も休業支援金も受け取れていないという方には、自分が当てはまるかどうかを改めて確認していただきたい。

休業支援金・給付金とは?

 休業支援金・給付金の対象となるのは、次の2つの条件に当てはまる方だ。

(1)2020年4月1日から12月31日までの間に、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた事業主が休業させた中小企業主に雇用される労働者

(2)その休業に対する賃金(休業手当)を受けることができない方

 これらの条件に当てはまる方には、休業の実績に応じて、休業前賃金の8割(日額上限11,000円)が支給される。労働者本人が申請することもできるし、事業主が従業員の分をまとめて申請することもできる。

 4月から9月までの休業についての申請期間は今年の12月31日までとなっている。緊急事態宣言が発令されていた4、5月の休業についても、まだ申請することができる。

 この制度は、今年7月に新しく作られた制度だ。厚生労働省は、労働者の生活の安定を図るために雇用調整助成金という企業向けの助成金を拡充し、企業が少ない負担で労働者に高率の休業手当を支払うことを可能とする仕組みを整えてきたが、それでも資金不足などを理由に休業手当を支払わない事業主が少なくない。

 そこで、休業手当を受け取ることができていない労働者が自ら申請でき、労働者に直接支給される制度が作られたという経緯だ(なお、雇用保険被保険者の場合は「支援金」、雇用保険に入っていない方の場合は「給付金」という名称になっている)。

 

何が改善された?

 休業支援金・給付金の支給に当たっては、原則として、労働者と事業主が共同して作成した「支給要件確認書」によって、支給の対象となる「休業」があったことを確認している。

 問題になっていたのは、労働者が「休業」だと認識しているのに、事業主がそれを認めないケースだ。この場合、支給要件確認書によって休業の事実を確認できず、労働者から申請があっても支給を決定できない。

 そこで、他の方法でも休業の事実を確認できるように運用の改善がなされた。以下のいずれかのケースであれば、支給の対象となる「休業」として取り扱われるようになる。

(1)労働条件通知書に「週○日勤務」などの具体的な勤務日の記載がある、申請対象月のシフト表が出ているといった場合であって、事業主に対して、その内容に誤りがないことが確認できるケース

(2)休業開始月前の給与明細等により、6か月以上の間、原則として月4日以上の勤務がある事実が確認可能で、かつ、事業主に対して、新型コロナウイルス感染症の影響がなければ申請対象月において同様の勤務を続けさせていた意向が確認できるケース(新型コロナの影響以外に休業に至った事情がある場合を除く)

 これにより、事業主が休業させたことを認めない場合であっても、労働条件通知書、シフト表、給与明細といった客観的資料を用いて支給手続を進めることができる。

 支給要件確認書から休業の事実を確認できない場合には、これまでと同様に労働局が事業主に対して確認を行うが、「提出された労働条件通知書やシフト表は正しい内容か」、「コロナの影響がなければ、その労働者は同じように勤務を続けていたか」を確認すればよいだけなので、事業主への確認ができずに支給手続が進まないというケースは大きく減少するものと思われる。

 非正規雇用の場合、労働条件通知書に勤務日数の記載がない場合も多く(シフト制の場合など)、(1)を満たさないケースは多いと思われる。しかし、(2)については、週1日の勤務を半年以上続けていれば要件を満たすことになるから、比較的ハードルは低い。周知が徹底されれば、多くの労働者が救済されるだろう。

 もう1点重要なのが、すでに申請をしていて不支給の決定通知を受けている方も、上記のケースに該当する場合には改めて申請することができるという点だ。この場合は、申請書類を提出する際に不支給決定通知書の写しを併せて提出すればよい。

参考:厚生労働省リーフレット「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金の対象となる「休業」についてお知らせします」

どうして運用が改善された?

 なぜこのタイミングで運用が改善されたかというと、事業主が休業の事実を認めず、支給を受けることができない労働者が多いためだ。

 労働者が自ら申請する場合でも、原則としては、支給要件確認書の「事業主記載欄」への記載によって事業主に休業の事実を証明してもらう必要がある。

 事業主が協力してくれない場合にはその旨を記載して申請することができるが、この場合には、労働局が事業主に連絡をして休業の事実を確認することになっている。このため、事業主が休業を認めずに不支給になったり、事業主がなかなか回答しないために手続が進まなかったりといった問題が生じている。

 私たちNPO法人POSSEにも、「会社が申請に協力してくれない」、「協力を求めたら、休業を指示していないと言われた」といった相談が寄せられている。なぜ事業主は休業の事実を認めないのだろうか。

 典型的なのがシフト制の場合だ。ある月のシフトが組まれる前に休業が始まっていた場合に、「もともと働くことが予定されていたとはいえないから休業には当たらない」と事業主が主張するケースがある。

 休業手当を支払っていない後ろめたさが、そのような姿勢の背景にあるものと推測される。休業の事実を認めてしまうと、労基法違反である休業手当の不払いが問題になることを恐れているのかもしれない(なお、これは誤解である。厚生労働省は、支給要件確認書の記載が、労基法上の休業手当の支払義務の該当性について判断するものではないことを明言している)。こうした事情は登録型派遣や日々雇用の場合も同様だ。

参考:「休業支援、あと1週間で「打ち切り」! 菅政権は、即座に申請期限の延期を」

 このような事業主の姿勢が要因となり、休業支援金・給付金の支給はとても順調に進んでいるとはいえない状況であり、せっかく作られた支援策の効果が必要な人々に行き届いていない。10月22日時点の累計支給決定額は約293億円であり、予算5442億円のうち、わずか5%に過ぎない。

 そこで、今回、事業主が休業の事実を認めなくても、休業前の勤務実績などをもとに支援金を支給できるように運用の改善が図られたというわけだ。

 リンク先の東京新聞の記事にもあるとおり、改善のきっかけを作ったのは当事者たちの声だ。居酒屋やホテルで働く学生アルバイトが実情を訴え、支援する首都圏青年ユニオンなどの労働組合が行政や政党に働きかけをしたことが運用の改善につながった。

参考:「休業支援金の給付、「会社の協力」なくてもOK 厚労省が新基準づくり」(2020年10月23日 東京新聞)

申請の方法は?

 以上を踏まえて、労働者が自ら申請をする場合の流れについて説明する。

 必要な書類は、以下の5点だ。申請書等の様式は厚生労働省ホームページ内の特設サイトに掲載されている。郵送又はオンラインで申請する。

  • 支給申請書(特設サイトからダウンロード)
  • 支給要件確認書(特設サイトからダウンロード)
  • 本人確認書類(運転免許証、パスポート等の写し)
  • 振込先口座を確認できるキャッシュカードや通帳の写し
  • 休業前の賃金額と休業中の賃金の支払い状況を確認できる書類(給与明細や賃金台帳の写しなど)

 原則としては、支給要件確認書の「事業主記入欄」を会社に記載してもらい、休業の事実を証明してもらう必要がある。

 事業主に申し出たにもかかわらず、支給要件確認書への記載を拒まれた場合には、上記の5点に加えて、上述したように労働条件通知書、申請対象月のシフト表又は休業前の6ヶ月分の給与明細を提出する。そして、支給要件確認書の「事業主記入欄」の「事業主名」の部分に、事業主の協力が得られない旨を、事業主の主張その他関連する事情とともに記載する。

 ここで留意していただきたいのは、迅速かつ確実に支給を受けるためには、できる限り事業主に協力を求めるべきだという点だ。事業主の記載がない場合、労働局が事業主に対して確認を行うが、事業主から回答があるまでは審査ができず、その分申請から支給までに時間がかかってしまう。

 今回の運用の改善が現実にどこまで機能するかはまだ不透明であるため、できる限り確実性の高い方法をとることをお勧めしたい。事業主が拒む場合には、厚生労働省のリーフレットを示すなどし、申請しても事業主に不利益がないことを説明するとよいだろう。

参考:申請方法についてはこちらの動画が分かりやすい。厚生労働省「(労働者用)新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金 申請書の記入方法」

うまくいかない場合は団体交渉を

 以上のような運用の改善がなされたが、依然として残る課題もある。労働条件通知書に勤務日数の記載がなく、休業前に6ヶ月以上働いていない場合には、今回の運用では救済されない。大企業の労働者についても未だ対象とされていない。

 さらなる制度改善を求めていくことも必要だが、他方で、会社と交渉し、労働者の権利を実現していくことも重要だ。

 本来、会社に責任のある理由で労働者を休業させた場合、会社は平均賃金の6割以上の休業手当を支払わなければならない。休業手当が支払われていない場合、まずは雇用調整助成金を活用して高率の休業手当を支払うよう会社と交渉するべきだ。

 その上で、それができないのであれば、少なくとも休業支援金の申請には協力するよう求めていこう。休業支援金は国から労働者に支給されるものであり、事業主に負担はない。従業員を大切にする事業主であれば協力して当然であるし、それすらしない事業主を許すべきではない。

 会社と交渉する際には、労働組合による団体交渉が有効だ。団体交渉においては、休業手当の支払いや休業支援金の申請への協力を求めることができ、拒否する場合には、その理由を説明するよう要求することができる。法律上、会社は誠実交渉義務を負うため、説明を拒否することはできない。

 休業支援金については、申請することで会社が不利になると誤解している事業主も少なくない。そのような場合には団体交渉の席で制度について説明し、理解させることもできる。

 現在でもシフトの削減が続いているような場合は、シフトを休業前の状態に戻すように求めることができる。会社が経営状況を理由に拒否する場合には、経営資料を開示し、できない理由を説明するよう求めることもできる。

 休業が長期に及んだ場合には、こうした交渉により、失ってしまった高額の収入を取り戻せる可能性がある。コロナ休業によって収入が減ってしまったという方は、諦めずに行動していただきたい。

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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