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休業支援を「妨害」する企業が続出? 現場から見えてくる「制度の不備」

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
(写真:アフロ)

国に「見捨てられた」労働者たち

 新型コロナウイルスの感染者数が全国的に過去最大数を記録し、再度の感染拡大が不安を広げている。国による休業者の支援はますます必要性を高めている。

 すでに6月12日に成立した第二次補正予算では、「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」を創設しており、申請受付が始まって1ヶ月が経とうとしている。

 この制度では、新型コロナウイルスの影響によって休業になったにもかかわらず、企業から休業手当が支払われない労働者に対して、国が直接、給与の8割を補償する。

 だが、この制度を適用されない労働者も多い。第一に、大企業の労働者は対象外なのである。この致命的な論点については、筆者は先日説明したばかりだ。

参考:国に「見捨てられた」のか? 「不公平」な休業支援に怒りの声

 ほかにも、この制度には重大な「抜け穴」がある。そこで本記事では、改めて休業支援金の限界を整理しながら、「第二波」を見据えた労働者の休業補償の要求方法について紹介していきたい。

例え6割未満でも、既に休業手当が払われた人には払われない

 休業支援金から大企業の労働者が対象外であることは既に述べたとおりだ。次に、休業支援金の限界として挙げられるのは、会社から既に休業手当が払われた人は対象外であるということだ。

 しかも、労働基準法26条に定められた会社都合の休業に対する最低限の支払い義務がある「6割」と異なり、休業支援金のは「8割」が支給される。

 また、労働基準法上の「6割」は、計算方法の問題で実質的にはそれまでの賃金の4割ほどにしからない。休業手当と休業支援金では、元の給与の4割近い差が生じてしまい、不公平という指摘は避けられないだろう。詳しくは下記の記事を参考にしてほしい。

参考:休業手当は給与の「半額以下」 額を引き上げるための「実践的」な知識とは?

 さらに言えば、休業支援金は、会社からあらかじめ払われていた休業手当が6割未満でも対象外となる。もし会社が、「うちには休業補償を払う法的義務はない。だが3割だけならあげても良い。法的義務はないから違法ではない」などと言い張った場合には、休業支援金の対象から外れ、3割で我慢することになってしまいかねない。

 このように、企業が既に休業手当を払っている場合、返って金額上では「損」することになってしまうのだ。

会社が「事業主の指示」を認めてくれない

 次に、休業支援金の支給要件として、「事業主の指示」で休業したという証明が必要であることが、実務的なハードルになっている。

 労働者は「支給要件確認書」の事業主記入欄の「申請を行う労働者を事業主が命じて労働者記入欄1の期間に休業させましたか」という項目において、企業から「はい」のチェックをもらわなければならない。会社がこれを認めないというケースが続出しているのだ。

 ただ、考えてみてほしい。「事業主の指示」による休業なのであれば、もともと労働基準法上の休業手当の支払い義務があるということになり、それを払っていない時点で労働基準法違反ということになる(なお、後述するように休業手当を支払った場合国から雇用調整助成金が支給される)。

 会社は、休業手当を払わなかった理由として、みすみす自らの違法行為を認めるだろうか。「シフトが未定だったから会社都合の休業ではない」「テナントとして入っている商業施設が休館になったから、不可抗力の休業だった」などと主張をしているケースもある。

 このように、休業手当を払う義務はないと主張していた会社が、労働者から今度は休業支援金の申請を受けたばあい、「やはり会社の指示による休業だった」と、見解をひっくり返さなければならなくなる。

 そのため労働相談の現場では、「会社が休業を指示をしたわけではない。国の書類に虚偽を書くわけにはいかない」と会社が支給要件確認書の記載を拒否するケースが起きている。

 もちろん、違反であることを素直に認めた上で、資金難のみを休業手当不支給の理由とするケースもあるが、上のようなじたいに陥ってしまうのは制度上の欠陥だということになるだろう。

 休業支援金は、会社が休業補償に応じてくれない場合に、個人で国に休業補償を請求できる制度という触れ込みであった。実際、筆者が代表を務めるNPO法人POSSEにも、「会社と対立したくないから」と、スムーズな休業補償として休業支援金に期待する労働者の相談が多かった。しかし、結局は会社の協力が必要であり、休業手当を払わない会社が休業支援金の申請に応じない可能性は残念ながら低くないのである。

「第二波」に備えるためにも、企業に休業手当の請求を

 低額の休業手当が既に払われていた場合、その金額で我慢するしかないのだろうか。会社が「支給要件確認書」に協力せず、「事業主の指示」だと認めない場合、休業補償はもうあきらめるしかないのだろうか。

 まず考えられるのは、政策的な解決である。労働基準法上の休業手当については、法的義務の割合を上げるなり、計算方法を変えるなりすべきだろう。また、休業支援金の支給手続きの改善も検討する必要がある。

 一方で、企業に対して、全額の休業手当を直接要求するという方法がある。実際に、個人加盟の労働組合・総合サポートユニオンでは、緊急事態宣言の期間中、商業施設の休館を理由に1ヶ月分の休業補償を一切払わなかった派遣会社から、営業再開後の営業時間や人員の削減による減給分も含めて、全額補償を認めさせたケースがある。

 同社は当初「法的義務はなく、休業は不可抗力である」という主張を盾にしていたが、その論点は最終的に不問のまま、全額補償となった。労働組合の交渉であれば、行政の制度ではないので、「法的義務」の議論を回避しながら、柔軟な対応が可能となる。

 企業が休業手当を払うために、国が企業を助成する雇用調整助成金の特例措置もある。厚労省は、コロナによる休業補償に対する雇用調整助成金の特例措置の期限を9月末までとしていたが、12月末まで延長する方向で検討すると報道されている(他方、休業支援金の対象期間は現時点では9月末までだ)。

参考:雇調金の特例延長へ 9月末期限、厚労省 年末軸検討

参考:「申請できない」はウソ! 整備進み、雇用調整助成金の活用が「急増中」

 この延長が実現すれば、「第二波」の休業に対しても、しばらくは会社からの休業手当の後ろ盾が得られることになる。

 政府の政策が整わない中では、手当が十分に支払われない労働者は、企業に対して声を上げていく以外に手はない。休業補償をしっかり受けるために、ぜひ専門家に相談してみてほしい。

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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