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6月末でのコロナ「非正規切り急増」の危機 「賃下げ」の横行も

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
(写真:アフロ)

 私が共同体表を務める「生存のためのコロナ対策ネットワーク」が、5月末に労働問題や生活困窮を抱える人たちに向けに、ホットラインを実施した。同ホットラインでは、「4月から、休業手当が一切払われていない」、「昨日、6月末で契約更新をしないと言われた」。こういった相談が相次いだ。

 参加団体は、各地の労働組合を中心に21団体で、全国から383件の相談が寄せられた。多くは、休業補償や解雇・雇い止めに関する切迫した相談である。今回の記事では、このホットラインの相談結果を報告するとともに、新たな傾向として見えてきた、「コロナ後」を見据えた会社の対応についても指摘しておきたい。

 後で詳しく説明するように、労働・生活問題の焦点は、「休業補償」から、「解雇・雇止め」を経て、緊急事態宣言解除後の「労働条件の引き下げ」に移りつつあるのだ。

【参考】生存のためのコロナ対策ネットワーク、参加・協力団体

(なお、本記事で紹介するホットライン結果の報告は、本日21時から放送されるNHKスペシャル「令和未来会議 危機をどう乗り越えるか?コロナ時代の”仕事論”」でも報告する予定です)

7割以上が休業補償「ゼロ」

 5月31日、6月1日の2日間に寄せられた383件のうち、最も多い相談内容は、「会社都合の休業」であった(256件)。筆者は、2月後半からコロナ関連の労働相談を受けてきたが、この傾向は今日まで一貫している。

 「休業になったが、会社から何の説明もなく、2ヶ月無収入の状態」、「正社員には6割支給されるようだが、アルバイトには出ないと言われた」といった相談が引き続き多い。ただし、今回のホットラインで目を引くのは、会社が「あまりにも」休業手当を払っていない、ということだ。

 会社都合の休業に関する256件の相談のうち、金額がわかる158件についてみると、「全額補償されている」というものは、わずか1件であった。多くは全く払われておらず、74.7%にも上った。また、6割が補償されているものも18.4%で、2割にも届かなかった。

 このように、全く、あるいはわずかな金額しか休業手当を受け取れず、家賃の支払いが困難になるなど、生活が困窮する人も後を絶たない。

「6月末切り」も増加

 次に相談内容で多かったのは、解雇や雇い止めに関するもので、109件に上った。私たちのネットワークでは、5月初めのゴールデンウイーク中にも同様に相談ホットラインを実施したのだが、そのとき解雇・雇い止めに関する相談は57件であったから、コロナを理由にした解雇が、以前よりも増加傾向にあることがうかがえる。

図:相談内容の割合の比較(上段が5/2-5/3のHL、下段が今回の5/31-6/1のHL)
図:相談内容の割合の比較(上段が5/2-5/3のHL、下段が今回の5/31-6/1のHL)

 今回、雇用形態別には、「派遣労働者」からの相談が多く、そのほとんどが、6月末での雇い止めを宣告されてしまった、という相談であった。

図表 雇用形態別相談件数
図表 雇用形態別相談件数

 「コロナの影響で売り上げが悪いから」、「申し訳ないが、こんな状況だから」など、新型コロナの影響を理由に契約が更新されず、さらに、派遣会社から新しい派遣先も紹介されずに困っている、という相談が数多く寄せられたのだ。

 そして、雇い止めだけでなく、それ以前から休業しており、その際の補償が払われていないという「休業補償ゼロ」と「雇い止め」の問題がセットになっていることも多く、労働者たちに大きな打撃を与えている。

 また、小売業を中心に、数十人から数百人単位で人員を削減する動きも見られる。ある免税店では、外国人観光客の減少が影響してか、希望退職を400人も募っているという。スーパーの試食販売員を派遣する会社でも、50~60人が契約を切られてしまった。今後も、業種ごとに偏りは出るだろうが、同様に、一定規模での「コロナ切り」が行われる可能性が高い。

【参考】「派遣切り」の多くは違法? 「本当」は厳しい派遣法を読み解く

休業していなくても、出勤減で生活苦

 そして、今回のホットラインで特徴的であったのは、「会社は完全休業していないが、勤務時間が減らされ、収入が減ってしまった」といった相談が多いということだ。

 宴会での配膳を行う女性(パート)は、「週5~6日勤務だったが、3ヶ月前から週3~4日勤務になり、賃金がかなり減ってしまった」といい、百貨店の食品売り場で働く女性(パート)も、「コロナの影響で予算がないからと、月150時間の契約が、90時間に変更された」という。

 小売店や飲食店など、緊急事態宣言の解除を受け、少しずつ再開する動きもみられるが、それでも、東京では再び感染拡大が指摘されており、客足は遠のいたままだ。こうした状況に対応するように、契約内容を下方に変更される事態が広がっているのである。

 なかには、「これまで1年契約をくり返してきたのに、コロナを理由に、3ヶ月契約に変更されてしまった」(貿易会社)という女性からの相談もあった。非正規労働者の雇用期間をより短くして、会社の状況によっていつでも切れるようにしておこう、という会社側の思惑が露骨に表れている。

「従わなければ解雇」

 また、こうした労働条件の変更には、本来は労働者の合意を得ることが必要となるが、「従わなければ解雇する」というような会社側の強硬な姿勢もうかがえる。

 ある卸売業で働く女性は、会社から売上が下がったことを理由に、来月から給料を5万円下げることに合意しろ、と要求され、同意書にサインしなかったところ、即日解雇を言い渡されたという。

 そのほか、製造業で働く女性(パート)も、もともと週5日の契約を結んでいたが、来月から週2日に減らされ、「不満があれば、辞めてもらって結構だ」と言われてしまったという。

 このように、「コロナ下」を理由に、あるいは「コロナ後」を見据えて、多くの労働者が不利益変更を余儀なくされ、それに応じなければ、雇い止めをちらつかされる、というような問題が、増加している。

 非正規雇用労働者のなかには、シングルマザーの方や、これまで非正規雇用でさまざまな職場を転々としてきた女性労働者など、貯蓄も十分にできず、家賃の支払い困難など、生活困窮に直結してしまうようなケースも見られ、かなり厳しい状況に置かれている(なお、今回のホットラインでは、6割以上が女性からの相談であった)。

 だが、たんに「コロナだから」という理由で、会社が一方的に労働条件を変更することはできないはずだ。労働者が同意しなければ、使用者側は勝手に労働契約の内容を変えることはできない。さらに、上記の例のように、合意しなかったことを理由に解雇することは、その正当性が疑われ、法的に争う余地が十分にあると考えられる。

 最後に、今回、全国各地で受け付けた相談を、整理・集計したのは、学生ボランティアや労働組合員の有志である。多くの人が、休業補償が支払われずに困っていたり、解雇を通告されている状況を、社会に発信し、またさらに困難を抱えている人に支援の手や情報を届けるために協力してくれた。NPO法人POSSEでは、こうした労働者の権利を守る取り組みに関わりたいというボランティア(学生・社会人を問わず)も募集している。

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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