迫る非正規の「5月危機」 雇用と住居を守るための「制度」を解説する

写真はイメージです。(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 年度始めの4月に雇用された非正規労働者が、新型コロナの影響で6月末の雇止めをその1ヶ月前の5月末に通告されるケースが大量に引き起こされる、「5月危機」が迫っている。

 すでに厚生労働省は、5月20日時点で新型コロナ関連の解雇や雇止めが1万人に迫っていることを明らかにした。2008年末のリーマンショック以来の雇用危機が危惧される。

 リーマンショックの際には、主に製造業に従事していた派遣・請負労働者が100万人規模(推定)で雇止めに遭い、寮住まいの労働者多かったために、生活の糧と住居を同時に失った。この「派遣切り」によって、多くの人たちがホームレス状態に陥ってしまったのだ。

 今回の危機で雇用と住居を失いそうになったとき、どうしたらよいのだろうか。

コロナ危機ですでに進行する「派遣切り」

 私が代表を務めるNPO法人POSSEには、新型コロナの影響で「派遣切り」されてしまったことで、生活に困窮し住居を喪失した人たちからの相談が次々と寄せられている。

 神奈川県の46歳男性Aさんは、派遣で菓子製造の工場に勤めていたが、コロナの影響で人員整理の対象となり、雇止めされた。会社寮に住んでいたので住居も失い、手持ちのお金でネットカフェに宿泊するしかなかったという。

 しかし、すぐに所持金も尽きてしまったため、県が緊急宿泊場所として用意した武道館に宿泊場所を移した。とはいえ、こちらもGW明けに緊急措置が終了し、行政からは自立支援センター(コロナ以前からホームレスの方向けに用意された宿泊施設)を斡旋された。

 ところが、行政が斡旋した自立支援センターは2段ベッドを1部屋に複数設置した「大部屋」。感染リスクを恐れ、AさんはPOSSEに相談を寄せたのだ。結局、スタッフが役所に同行し、ビジネスホテルに宿泊しながらの生活保護受給を受けることができた。

 貧困者向けの劣悪な集合住宅(いわゆるスラム)は「感染拡大」の要因としてパンデミック危機の度に専門家によって指摘されている。行政自らが感染拡大を引き起こすような対応をしてしまっていることには、重大な懸念を持たざるを得ない。

 しかも、国や都道府県レベルではビジネスホテルの提供を奨励しているにも拘わらず、予算の節約のためか、徹底しようとしない自治体が存在するようなのだ。

 もう一人の例を見てみよう。東京都の33歳男性Bさんは、派遣で山梨県の観光ホテルで働いていたが、コロナの影響でホテルが休業すると同時に派遣切りにあい、住居も失った。その後、上京し、ネットカフェに宿泊しながら仕事を探した。

 しかし、コロナの影響で求人が激減しており、仕事に就けなかった。Bさんも所持金がなくなり、ネットカフェにも泊まれなくなったため、東京都のTOKYOチャレンジネットに相談し、現在は借り上げられたビジネスホテルに宿泊している。

 TOKYOチャレンジネットとは、東京都がネットカフェなどで寝泊まりしている不安定就労者や失業者に対して、一時的な宿泊場所を提供し、生活支援、居住支援、就労支援を行う事業だ。

 ところが、同制度では現金給付がないため、社会福祉協議会が実施する緊急小口資金を申請しようとしたが、住民票を移しておらず、借りられなかった。そのため、「最後の手段」として生活保護を申請することになった。

 以上の二例のように、「派遣切りと同時に住居を失い、ネットカフェなどで寝泊まりするも、コロナで仕事が見つからないので、所持金が尽きて生活保護申請に至る」というケースが増えている。「5月危機」は非常に現実的な問題として差し迫っているのだ。

アパートの初期費用も支給される生活保護

 住居をすでに失うなど、本当に切迫した状況においては、生活保護制度の他に生活を安定させる決定的な支援策はない。

 生活保護は、ホームレス状態で住民票がなくても、現時点で寝泊まりしている地域で申請が可能だ。申請すれば、審査を経て原則14日以内に決定が出る。

 安価なビジネスホテルやネットカフェなどに宿泊しながら保護を受けることも可能である。利用料も支給される。

 本来の制度上は、それらの宿泊場所で待機しながら、アパートの初期費用(敷金、礼金、仲介手数料など)や引越し業者の費用が支給される。国もコロナ対策の観点から、そうした「個室」で原則対応することを、自治体の窓口に指示している。

 (ただし上記の例のように、行政からは大部屋の施設への入所を求められるなど、各自治体の運用が国の方針と異なることが少なくないのが現実だ。大部屋の施設に入所させられたり、アパートの初期費用を出してもらえない場合は、末尾の相談窓口に問い合わせてみてほしい)。

雇用と住居を失う前にできることがある

 もう一つ、住居を失う前に確認してもらいたい制度がある。2008年のリーマンショック期には、派遣会社や製造工場の「社員寮」から「派遣切り」、「非正規切り」された労働者が大量に路上へと放り出された。その際にも、実は、法的な救済が受けられるのだ。

 そもそも、雇止めは法的に規制されており、それ自体の正当性を争うことが重要だ。労働契約法では、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」は雇止めが認められない。

 具体的には、(1)過去に何度か契約更新されており、雇止めが無期雇用の解雇と同視できる場合、(2)契約が更新されるものと期待することに合理的な理由がある場合、とされている。

 雇止めが無効であれば、当然住居を失うことはないし、少なくとも雇止めの正当性を争っている間には会社寮から追い出すことはできない。

 実際にリーマンショックの際には、雇止めとともに退寮を求められた期間工や派遣社員が労働組合に加入し、会社と団体交渉を行い、多くのケースで次の居所が見つかるまでの間、部屋を確保したり、新居への引っ越しにかかる費用を会社側が補填している。

 だから、まずは雇止めされたとしても、労働組合を通じて雇用と住居を維持するための交渉をすることをお勧めしたい。

できるだけ早い段階に専門家に相談を

 そもそも、会社の都合で簡単に首を切れる有期契約の非正規雇用や、あるいは派遣先企業が直接の雇用責任を負わない派遣という働き方があまりにも大きく広がってしまっている。労働者の生活を極度に不安定化する働き方自体が見直されるべきだ。このような雇用の不安定さの弊害が、コロナ危機で再び露呈している形だ。

 確かに、今回のような危機において、不安定な非正規雇用を「雇用の調節弁」として活用できるメリットが企業にはあるのかもしれない。だが、働く人々にも生活があり、「非正規切り」の広がりは社会不安を拡大させていくだろう。

 安易な解雇や雇止めを防ぐ趣旨で、国も雇用調整助成金を拡充してきている。雇用を維持した上で、休業補償を行う際に国から助成が出るわけだ。国の制度を活用し、雇用と住居を守る「社会的責任」(CSR)を企業は果たすべきだ。

 その上で、すでに雇用と住居を失ってしまっている労働者には、生活保護などの国の福祉制度を活用してほしい。来週には、労働組合や市民団体などで構成される「生存のためのコロナ対策ネットワーク」でホットラインを開催する。解雇・雇止めに直面した方は、ぜひ相談してほしい。

休業補償・解雇・倒産電話相談ホットライン

日時:5月31日(日)10時~20時、6月1日(月)15時~21時

全国の労働・生活相談を抱えている方。学生や外国人労働者の方も対応可能です。

電話番号

代表:0120-333-774

※回線の混雑が予想されます。各地方のダイヤルや生活相談ダイヤルもご利用ください。

共同開催団体

さっぽろ青年ユニオン/仙台けやきユニオン/みやぎ青年ユニオン/反貧困みやぎネットワーク/反貧困ネットワーク埼玉/日本労働評議会/首都圏青年ユニオン/全国一般東京東部労働組合/東ゼン労組/総合サポートユニオン/首都圏学生ユニオン/ブラックバイトユニオン/NPO法人POSSE外国人労働サポートセンター/新潟地区労会議/新潟NPO越冬友の会/ヘルプの会/名古屋ふれあいユニオン/反貧困ネットワークあいち/大阪全労協/連合福岡ユニオン/外国人労働者弁護団

無料生活相談窓口

NPO法人POSSE

電話:03-6693-6313

メール:seikatsusoudan@npoposse.jp

受付日時:水曜18時~21時、土日13時~17時、メールはいつでも可

*社会福祉士や行政書士の有資格者を中心に、研修を受けたスタッフが福祉制度の利用をサポートします。