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「3密職場」を保健所も労基署も指導してくれない 全国一斉ホットラインに悲痛な声

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
写真はイメージです。(写真:アフロ)

 本日5月2日、全国の労働相談、貧困相談を抱えている人を対象として、「新型コロナ労働・生活総合ホットライン」が行われた。

 全国の労働・生活相談に対応する労働組合やNPO、弁護士が共同で結成した「生存のためのコロナ対策ネットワーク」が実施したものだ(筆者も発起人の一人である)。明日3日も、13時から20時まで開催される。本記事では、本日寄せられた相談の傾向を速報していきたい。

 相談から見えてきた重要なポイントは、以下のとおりである。

 (1)4月は10万円の給付と、3月までの給与で「息継ぎ」ができている

 (2)緊急事態宣言の延長で、先行きが見通せなくなった企業からの相談

 (3)「3密職場」には、パチンコ屋と違って行政の指導がまったく行われていない

10万円の定額給付金は「息継ぎ」?

 4月中旬に弁護士や労働組合らが実施した生活・労働相談ホットラインでは、2日間で数万件の電話が寄せられ、5000件以上の相談に対応したものの、多くの電話に対応しきることができなかった。

 それを踏まえ、今回のホットラインには、全国で約50名の相談員が構えていたものの、ふたを開けてみると、現在のところ、予想したほどには相談が殺到していない(そのため、明日も開催する今回のホットラインは専門家の助言を受けることができるよい機会となるので、積極的に利用してほしい。末尾に相談窓口の詳細)。

 その背景には、タイミングの問題があったと考えられる。そもそも、今回のホットラインを5月2日、3日の開催としたのは、ゴールデンウィーク中に様々な相談窓口が閉まってしまうことを想定しての設定だった。

 一方で、ちょうど4月30日に国会で補正予算が成立したことを受けて、5月1日以降、全国の自治体で1人10万円の「特別定額給付金」支給の申請手続きが続々と始まっている。先のホットラインでは、その相談内容の多くがこの給付金に関するものだったのだ。

 もちろん、客足の減少や、緊急事態宣言を受けた営業自粛によって、休業や解雇に見舞われた「補償なし」の労働者は増え続けている。ただ、4月中に、まだ勤務があった3月分の賃金や休業手当が支払われている人も少なくないというわけだ。

 むしろ、生活に本格的な影響が出る時期は、4月の賃金が払われるはずだった5月以降であると考えられる。1人10万円の給付金は、自治体によっては5月中に支給される予定だが、これがとりあえずの「息継ぎ」になっていると考えられる。

10万円ではカバーできない不安

 とはいえ、今回の相談は、すでに「10万円の給付」ではどうにもならないことを見越して寄せられている。

 

 すでに10万円の支給日まで所持金が持たず、今月の生活すら送ることができないという切迫した相談や、失業中で働ける見通しがないという相談が複数寄せられた。

 例えば、3月まで長期失業していた男性は、4月から保育園の補助職員として就職が決まっていたが、保育園が休園となってしまい、入社を待たされている状態という。園から休業手当は払われておらず、現時点で所持金が300円しかない。

 また、高齢の男性は、3月末まで契約社員で仕事をしていたが更新されず、4月からの雇用先が見つからない。現在の所持金では2ヶ月生きていくのがやっとの状態だという。夫婦で持ち家に暮らしているため、生活保護を受けることもできない。

緊急事態宣言の期間延長が先行きの不安を増幅

 さらに、長期化する休業や事実上の解雇による、これからの不安を訴える相談も多く寄せられている。特に不安に拍車をかけているのが、当初5月6日までとされていた緊急事態宣言について、政府が1ヶ月程度の期間延長を明らかにしていることである。こちらの影響についても、本日の相談事例を紹介しよう。

 公共施設に勤務する派遣社員の男性は、3月からは営業時間の短縮に伴って時短勤務となったが、労働時間削減分の補償がないままだった。さらに4月からは緊急事態宣言によって施設が閉館となってしまい、完全に休業状態になった。その休業手当も支払われず、上司からも「休業手当は払えない」と明言されてしまっている。

 また、百貨店内のテナントで、生活必需品ではない品物の販売店している非正規雇用の女性は、緊急事態宣言を受けて、百貨店が営業自粛となってしまい、店舗が休業。休業補償を全く払われていない。それどころか、会社からはほかの仕事を探すように言われてしまった。

 いずれの例も制度上は、雇用調整助成金を利用すれば、会社が労働者に休業手当分を払うことは可能なはずだ。しかし、「緊急事態宣言による休業は会社の都合でないから休業手当を払う義務はない」などの理由で、休業補償を払わない企業が続出しているのが実態である。こうした相談は、今後の増加が確実であると考えられる。

 参考:政府の助成金を使って「コロナ解雇」を回避してほしい 声を上げ始めた労働者たち

「うちの職場よりパチンコ店の方がマシ」「うちの職場にも休業要請を出してほしい」

 

 相談のもう一つの傾向は、職場の新型コロナウイルス感染対策の不足である。ここ数日、大阪府をはじめとした全国の自治体が、営業自粛に応じないパチンコ店の店名を公表していることが話題になっている。一方で、職場の「3密」解消には、何の行政による強制力も働いていないのが実態だ。

 その象徴的な業界の一つがコールセンターである。コールセンターの労働問題については、筆者もすでに記事で警鐘を鳴らしてきた。

 参考:「もう、みんな休もう」 「クラスター化」するコールセンターの労働者が訴え

 今回のホットラインでも、コールセンターの「3密職場」に関する労働相談が全国で相次いだ。

 ある非正規雇用の女性は、コールセンターで働いているが、200人が部屋に押し込められているという。「3密」状態で、隣の人との間が50センチメートルほどしかなかった。ところが、自治体や保健所にも相談してみたも、何も対応してくれなかった。

 営業自粛で問題になっているパチンコ店のニュース映像を見たら、上部の窓が開閉されおり、自分たちの職場よりまだましだったという。「コールセンターにも休業要請を出してほしい」という悲痛な声がせられている。

 ほかにも、「3密」職場からの悲鳴のような労働相談が多く寄せられている。保健所だけではなく、労働基準監督署に駆け込んで「3密」の改善を訴えたという労働者もいた。

 しかし、上記の相談にもあるように、行政は労働現場の「3密」に対しては、立ち入り調査を行ったり、企業名や店名の公開をしたりすることはできない。制度上は、保健所も、労働基準監督署も、「3密」をどうすることもできないのである。

 現状では、現場の労働条件を変えるには、働いている労働者が声を上げるしかないのである(制度的に介入する仕組みを政府は一刻も早く検討するべきである)。社外の労働組合であれば、一人でも加入すれば法律上の「団体交渉権」が成立し、企業側は交渉を拒否することができなくなる。

 すでに「3密職場」について労使で話し合いをし、補償を前提として休業することをきめたり、対策を強化した事例も出始めている。

 参考:「利益より人命を優先してほしい!」 カフェ・ベローチェで労働者たちが改善を要求

 以上のように、国や自治体が進める月10万円の給付金や、「3密」対策は、人々の生活や命を守るにはまだまだ不十分だ。困っている方は、ぜひ専門家に相談してほしい。上記のホットラインは明日3日も開催される。

新型コロナ労働・生活総合ホットライン

5月3日(日)13〜20時

対象:全国の労働・生活相談を抱えている方。学生や外国人労働者の方も対応可能。

※通話無料、相談無料、秘密厳守

◆相談ダイヤル

○代表:0120-333-774

※回線の混雑が予想されます。各地方のダイヤルや生活相談専用ダイヤル、業種・職種別の相談窓口もご利用ください。

各地方の相談窓口(メールの返信は数日要する場合もあります)

【北海道】

さっぽろ青年ユニオン TEL:080-3262-6023 MAIL:seinenunion_sapporo@yahoo.co.jp

【東北】

仙台けやきユニオン TEL:022-796-3894 MAIL:sendai@sougou-u.jp

みやぎ青年ユニオン MAIL:miyagi.union@gmail.com

【関東甲信越】

首都圏青年ユニオン TEL:03-5395-5359  MAIL:union@seinen-u.org

全国一般東京東部労働組合 TEL:03-3604-5983  MAIL:info@toburoso.org

総合サポートユニオン TEL:03-6804-7650 MAIL:info@sougou-u.jp

日本労働評議会 TEL:03-3371-0589(両日とも13時~17時)

【東海】

名古屋ふれあいユニオン TEL:052-526-0661(5/2のみ)

【関西】

大阪全労協 TEL:06-4793-0735

【九州】

連合福岡ユニオン TEL:092-273-2114、092-273-2161 MAIL:fukuuni@hyper.ocn.ne.jp

【生活相談の専門窓口】

反貧困ネットワーク埼玉:048-864-1622(4回線・代表番号)

【外国語対応の相談窓口】

英語・フランス語対応:東ゼン労組 TEL:090‐9363‐6580  MAIL:info@tokyogeneralunion.org

英語対応:POSSE外国人労働サポートセンター TEL:03-6699-9359 MAIL:supportcenter@npoposse.jp

【学生アルバイトの相談窓口】

首都圏学生ユニオン TEL:03-5395-5359  MAIL:syutokengakuseiunion@gmail.com

ブラックバイトユニオン TEL:03-6804-7245 MAIL:info@blackarbeit-union.com

【業種・職種別の労働相談窓口】

飲食店ユニオン TEL:03-5395-5359 MAIL:restaurant.workers.union@gmail.com

自販機産業ユニオン TEL:03-6804-7650 MAIL:info@sougou-u.jp

介護・保育ユニオン TEL :03-6804-7650 MAIL:contact@kaigohoiku-u.com

日本労働評議会(クリーニング) TEL:03-3371-0589(両日とも13時~17時)

総合サポートユニオン(コールセンター) TEL:03-6804-7650 MAIL:info@sougou-u.jp

日本労働評議会(産業廃棄物) TEL:03-3371-0589(両日とも13時~17時)

私学教員ユニオン TEL :03-6804-7650 soudan@shigaku-u.jp

日本労働評議会(タクシー) TEL:03-3371-0589(両日とも13時~17時)

美容師・理容師ユニオン TEL:03-5395-5359 MAIL:ribiyou@seinen-u.org

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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