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自粛・首都封鎖で学生アルバイトも深刻化 「知っておいてほしい」休業制度の知識

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
写真はアルバイトのイメージです(写真:アフロ)

 新型コロナの影響が広がるなかで、飲食店を中心に休業や営業時間の短縮が相次ぎ、シフトを削減された学生アルバイトたちの生活が脅かされている。首都封鎖ともなれば、その影響はさらに甚大なものとなるだろう。

 学生のアルバイトなのだから、少しの間収入が減ったところでそれほど困らないだろうと思う方もいるかもしれない。しかし、拙著『ブラックバイト 学生が危ない』(岩波書店、2016)でも論じたように、アルバイトの収入によって自らの学費や生活費を賄っている学生は近年非常に多くなっている。

 現在の状況が続き、アルバイトの収入を長期間失うようなことになれば、多くの学生の生活が破綻しかねない。その上、雇用保険に加入していない学生は、通常、雇用調整助成金の対象にもならないから、会社から休業手当すら支払ってもらえないケースが少なくない(なお、誤解されていることもあるが、事業主は国から雇用調整助成金を受給していなくても休業手当の支払いは必要である)。

 実際、私が代表を務めるNPO法人POSSEの労働相談窓口にも、「会社に休業手当を請求しても、支払ってもらえなかった」という労働相談が数多く寄せられている。

 そのようなときに、個人の力によって休業中の賃金や休業手当の支払いを会社に求め、実現させるのは容易なことではない。学生だからといって軽視し、労働法を守らない経営者が少なくないのだ。

 この記事では、休業を余儀なくされ、困っている学生アルバイトの皆さんのために、休業時の賃金・休業手当を手に入れる方法を紹介していきたい。

シフトの削減も「休業」といえる

 まず、学生の方々に知っていただきたいのは、シフト制の場合でも賃金や休業手当を請求できるということだ。

 多くの学生はシフト制で働いているが、この場合、あらかじめ勤務日が定まっているわけではないため、「休業」に当たるのかどうかを疑問に感じる方が多いようだ。普段からシフトが増減することはあるから、シフトが削減されても、すぐに「休業」とは認識されにくいのだ。

 しかし、シフト制だとしても、労働契約において勤務日数が労働条件として定められているならば、雇用主の都合で就労する日数を減らされた場合に賃金や休業手当を請求できる。

 例えば、労働条件通知書において「週4日勤務」などと定められているのに、週に1日しか働かせてもらえなかったという場合、3日分の賃金や休業手当を請求することが可能だ。

 また、契約書に「シフトによる」などとしか書かれておらず、勤務日数が明確になっていないような場合でも、一定の勤務実績があれば、それをベースにしてシフトカットされた日の賃金や休業手当を請求することができる。

請求の法的根拠と請求できる金額は?

 コロナの影響でシフトを削減された学生アルバイトが休業中の賃金や休業手当を請求すると、次のような言葉が返ってくることがある。

「働いていないのにお金をもらおうなんておかしいよね」

「お店も被害者なんだから我慢してよ」

「こんな大変な時に自分のことだけ考えるのってどうかと思う」

 確かに、現状では、もちろん経営者も大変な状況にある。だが、アルバイトにも「生活」がある。アルバイト代が入らないと学費や家賃が払えないという深刻な状況に置かれている人も少なくないだろう。

 そのため、アルバイト側が一方的にシフトを減らされて給与を支払われないのは、法的には「不公平」だと考えられるのだ。

 配慮の乏しい経営者に負けずに「アルバイト側の権利」を主張するためには、請求の法的な根拠を知っておく必要がある。簡単に確認しておこう。

 民法536条2項により、使用者の「責めに帰すべき事由」(故意・過失またはこれと同視すべき事由)がある休業の場合、労働者は休業中の賃金を全額請求できる。労働者に何の落ち度もないのに雇用主側の都合で働くことができなかったということであれば、労働者は賃金を請求する権利を失わないということだ。

 新型コロナに関連する休業の場合、雇用主にそこまで責任が認められないということもあるだろう。このようなときは賃金全額を請求することが難しいケースもあるが、そのような場合でも、労働基準法26条に基づき、休業手当(平均賃金の60%以上)の支払いを求めることができる。雇用主が休業手当の支払義務を免れるのは、かなり限定的なケースだけだ(天変事変など不可抗力による場合のみ)。

 全額請求できるのか、休業手当しか請求できないのかは自分では判断できないことが多いと思う。そのようなときは、まずは全額を請求し、雇用主がそれに難色を示す場合には、話し合いによって決めていけばよいだろう。

 後述するが、勤務日数が少ない方の場合、休業手当の金額は非常に少なくなってしまう。休業手当が得られたとしても、額が少なすぎて生活していけないという方は、その実状を雇用主に話し、全額の支給を求めていくのがよいだろう。

 それぞれの法律の規定内容は下表のとおりである。学生アルバイトにもこれらの法律は、正社員と同じように適用される。詳しい内容を知りたい方は次の記事を参照してほしい。

〔参考〕「6割しか請求できない」は嘘? 休業時の生活保障に関する

画像制作:Yahoo!ニュース
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 まずは、このような法律を根拠に、会社に対して請求を行ってみるとよい。対面で話しても取り合ってもらえない場合は、書面にして郵送すると、請求の意思が重みを持って伝わる効果がある(書面の書き方などは、相談機関や支援団体にアドバイスをもらうとよいだろう)。

自分で交渉してもうまくいかない場合に取れる手段は?

 このような知識を持っていても、実際に賃金や休業手当を会社に支払わせるのは容易なことではない。雇用主と学生アルバイトの間には大きな力関係の格差があり、個人による交渉ではなかなか解決しないことが多い。

 そのような時には、労働基準監督署(以下「労基署」)に法違反の申告をすることができる。休業手当の支払いは労働基準法上の義務なので、これを怠ると、会社には罰則が課せられる。労基署は、労働者からの申告に基づいて会社に対して臨検を行い、指導や是正勧告を行う権限を持っている。

 また、個人による交渉で解決できなくても、労働組合の力を活用することによって状況を改善させられる可能性がある。労働組合には団体交渉権などの権利が認められているため、交渉の場を作り、シフトを元に戻すことや休業時の賃金・休業手当の支払いを求めることができる。

 ここからは、それぞれの方法について説明していこう。

休業手当を計算する際の「思わぬ落とし穴」

 労働基準監督署(労基署)は、労働基準法違反を罰する権限を持っている。逆にいうと、法違反にならないものについては手出しすることができない。労働基準法は、平均賃金の6割以上の休業手当の支払いについては罰則をもって強制しているが、それ以上のことは定めていない。

 そのため、労基署で申告できるのは休業手当のみだ。全額を請求したいという方はこの方法では実現することができない。

 実は、週や月ごとの勤務日数が少ない方の場合、休業手当の金額を実際に計算してみると非常に少ない金額になってしまうから注意が必要だ。

 休業手当の金額を算出する際に計算の基となる「平均賃金」は、原則として、休業した日以前の3か月間に受け取った賃金の総額をその期間の総日数で除すことによって算出される。

 このため、アルバイトで毎月6万円稼いでいたという方の場合、1日当たりの平均賃金は約2000円となる。休業手当は平均賃金の60%以上だから、雇用主は1日当たり1200円程度を支払えばよいことになってしまう。

 このようなことを踏まえ、労働基準法には最低保障の規定がある。日給制、時給制などの場合、休業した日以前の3か月間に受け取った賃金の総額を「その期間中に労働した日数で除した金額の100分の60」で最低保障額が計算され、原則の計算と比べて高い方が平均賃金の額となる。

 しかし、この計算方法でも算出される金額は非常に小さくなる。平均賃金を算出する段階で100分の60を乗じ、さらに休業手当を算出する段階で100分の60を乗じるからだ。つまり、働いた場合に得られていた賃金の3〜4割程度になってしまうことが多いということだ。

〔参考〕平均賃金の算出方法(神奈川県かながわ労働センター)

労基署への申告により休業手当を請求する方法

 少ない金額でもいいから請求したいという方は、次の3点の資料を揃えて、労基署に申告するとよい。労基署は行政機関だから、客観的な状況を示す一定の資料がないと動いてもらえないことが多い。

【休業手当を請求する際に必要な資料】

1 所定労働日・労働時間を示す資料

 勤務日や勤務日数が明確になっていないことが請求する際の障壁になることが多い。書面で労働条件を明示されていないケースや書面が交付されていても「シフトによる」などと曖昧な記載しかないケースが多いからだ。このような場合でも、過去の勤務実績をもとに休業手当が認められることがある。

 そこで、契約書や労働条件通知書はもちろんのこと、過去のシフト表や給与明細をできるだけ集めよう。手帳など、自分で書いた記録でもよい。

2 平均賃金を算出するための資料

 平均賃金を計算するために、過去3ヶ月分の賃金や働いた日数がわからないといけない。過去3ヶ月分の給与明細(ない場合は通帳のコピーなど)や契約内容(賃金)がわかる書類(契約書や労働条件通知書)を準備しよう。また、シフト表や手帳など、過去3ヶ月間の勤務日数がわかる資料があるとよい。

 

3 会社の一方的な指示で休業に至ったことを示す資料

 会社と労働者との合意によって勤務日数を減らしたとみなされる場合、休業手当を請求できないことがある。このため、会社から一方的にシフトを削減されたことを書面やSNS上のやり取りで示すことができるとよい。お店であれば、臨時休業の旨が書かれた貼り紙の写メやホームページのスクリーンショットなどでもよいかもしれない。

 これらの資料を持って会社の所在地を所管する労基署に行き、窓口で「労基法違反の申告をしたい」と伝えよう。ただし、資料が揃っていたとしても、必ずしもうまくいくわけではないので注意が必要だ。

 というのも、もともと人員不足が指摘されている労基署に、現在の状況のなかでどれだけ動ける余裕があるのか分からない。少なくとも、雇用主からの支払いが実現するまでに時間がかかる可能性が高い。

 以上のように、客観的な状況を示す資料が揃っている場合で、かつ、少ない金額でも受け取れればよいという方は、労基署の活用によってそれを実現できる可能性がある。一方で、労基署への申告には、上に述べてきたような多くの障壁があることには留意していただきたい。 

労働組合の交渉によって請求する方法

 もう一つの方法である労働組合による交渉であれば、ここまで述べてきた障壁を乗り越えられることも多い。

 労働組合には団体交渉権が認められているため、雇用主は、労働組合から申し込まれた交渉を正当な理由なく拒むことができない。交渉の場をセッティングすることができるのだ。

 職場に労働組合がない場合にも、個人で加盟できる労働組合(一般に「ユニオン」と呼ばれる)に加入すれば団体交渉を行うことができる。ブラックバイトユニオンなど、学生アルバイトを支援するユニオンは各地に存在するので、困った時には調べてみるとよい。

 

 職場に同じ思いを持った同僚が入れば自分たちで労働組合をつくることもできるが、雇用主との交渉を有利に進めるためには、ノウハウのあるユニオンに加入した方がよい。ユニオンには交渉のエキスパートがいることが多いので、交渉の進め方について助言を受けたり、交渉の場に同席したりしてもらえるのが一般的だ。

 団体交渉では、労働条件に関するあらゆる事項を話し合うことができる。休業中の賃金について、平均賃金の6割を超えて全額の請求をすることもできるし、本当にシフトを減らさなければならない状態なのかを確認するために、会社の経営状況に関する情報の開示を求めることもできる。

 労働契約において勤務日数などが明確になっていないケースでも、きちんと労働条件を明示していない雇用主側の責任を問い、休業中の賃金や休業手当を請求することができる。

 交渉がうまくいかない場合は、インターネット等で社会的発信をすることもできるし、様々なメディアを通じて外部にアピールすることもできる。社会的な評判を気にする企業であれば、交渉に前向きになる可能性が高い。

 このような点を踏まえると、ユニオンによる団体交渉は、最も迅速で現実的な方法といえるかもしれない。実際に、新型コロナを理由としたシフトの削減を撤回させたユニオンもある。

〔参考〕コロナウイルスの影響を理由とした大幅シフト削減を全面撤回させました(飲食店ユニオンのブログ)

自分の生活を守るために遠慮なく請求しよう

 以上のような知識を持っている方でも、実際に請求するときには、「確かにコロナの影響でお客さんが少ないし、売上も減っているから、支払われなくても仕方がないのかも」という気持ちが生じて、躊躇ってしまうこともあると思う。

 しかし、これまで、会社や店舗のために一生懸命働いて貢献してきたアルバイトの方も多いはずだ。近年は、人手不足と言われるなかで、学生アルバイトを戦力化し、基幹的な労働力として活用する企業が増えている。

 それにもかかわらず、営業不振になった途端、容赦なく切り捨てるというのは、やはりおかしなことではないだろうか。雇用主側にも大変な事情はあるだろうが、はじめから自分の生活を犠牲にする必要はない。

 経営者側に最大限の配慮をさせるべく、「交渉」していくことが大切なのだ。

 残念ながら、正社員の賃金は保障するけれども、パートやアルバイトには休業手当すら支払わないというケースもある。このような不当な扱いを受け入れる必要もない。

 特に、生活に支障をきたしている方は、労働組合などに相談し、諦めずに賃金や休業手当の請求をすることをお勧めしたい。

 新型コロナの影響は長期化する様相を呈しており、今後、経営状態が悪化する会社や店舗が増え、休業の問題が中途解約や雇止めの問題に発展する可能性は少なくない。特に、学生アルバイトは軽視され、不当な扱いを受ける傾向があるため、真っ先に契約を解除される恐れがある。このような可能性も踏まえ、あらかじめ労働組合に加入しておくことも有効な対処法だといえるだろう。

コロナ不況関連 解雇・休業 労働・生活相談ホットライン

日時:2020年3月28日(土)13~17時、3月29日(日) 13~17時

主催:NPO法人POSSE

電話番号:0120-987-215

※相談料・通話料無料、秘密厳守

外国人向け 新型コロナウイルス 労働相談ホットライン

日時:2020年3月29日(日) 13~17時

主催:NPO法人POSSE外国人労働サポートセンター

電話番号:0120-987-215

メール:supportcenter@npoposse.jp(ホットラインの日に限らず24時間受付)

※英語・日本語対応可

※相談料・通話料無料、秘密厳守

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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