コロナ問題で「外国人」に何が起こるのか? 借金を抱えて大量帰国のリスク

(写真:アフロ)

 新型コロナウイルスの感染者は日本でもすでに946人(2月29日午後8時半時点)が確認されており、感染拡大は一向に止まる気配をみせていない。感染拡大を防ぐために、政府は3月2日から全国の公立学校を休校とするよう呼びかけた。

 新型コロナウイルスに関して様々な報道がなされているが、その中でもあまり報じられていないのは、日本で働く外国人労働者が抱える生活上の悩みや職場でのトラブルだ。

 外国人労働者は、ただでさえ日本での法的身分が不安定であり、外国人技能実習生などはたびたび「奴隷労働」などと批判されてきた。そのため今回のコロナウイルスも、非常に深刻な影響を与えている。

 そこで、筆者が代表を務めるNPO法人POSSEに寄せられた労働相談の事例も見ながら、新型コロナウイルスの蔓延が外国人労働者に与える影響や法的対処法について考えていきたい。

コロナウイルスの影響を最も受けやすい外国人労働者

 ここ数日でPOSSEには日本人労働者から、「売上が減少し、解雇された」、「出勤停止になった場合、何か手当を受けられるのか?」などの相談が相次いで寄せられている。様々な産業で働く方から不安の声が寄せられているが、その中でも特に被害が大きいのは、観光産業に関わっている労働者だ。

 渡航制限で海外からの観光客が激減したことで倒産に追い込まれた宿泊施設もあるように、海外からの観光客に依存している産業はすでに大きな打撃を受けている。

 POSSEにも、中国からの観光客がメインのターゲットになっている観光ツアーや宿泊施設、さらには空港バスの運行などに関する仕事に就く方からの相談が寄せられている。

 実際に、外国人労働者のうち約20万人が「宿泊業、飲食サービス業」に従事しており、日本で働く外国人の8人に1人(約12.5%)がホテルや飲食店などで働いている計算になる。(厚生労働省「外国人雇用状況」2019年10月末現在

 とはいえ、影響は観光業だけにとどまらない。すでに外国人は工場からコンビニ、休校が話題になっている学校・塾・予備校の語学教師まで、あらゆる日本の産業を支えており、日本人全体が「休業」や倒産の影響を受ける中で、同じように多大な影響を受けているのである。

コロナウイルスで「シフトが削られた」

 具体的に、外国人労働者からコロナウイルスに関して寄せられた相談事例を見てみよう。

フィリピン人、工場勤務、女性

「コロナウイルスが蔓延しているので安全のためにできれば休みたいけれど、休んだら収入が減って生活に困ってしまう。その上、休めたとしても、職場復帰させてもらえずに解雇されるかもしれない。」

外国人英語講師、男性

「語学学校で教えているが、生徒がクラスをキャンセルしたため予定されていたシフトがすべてなくなった。シフトがなくなって給料が支払われないと生活に困ってしまうが、会社から補償については何も話がない」

 上記の相談はどちらも英語で、「POSSE外国人労働サポートセンター」に寄せられた。サービス業では、語学学校教員のケースのようにシフトが減らされたり、最悪の場合、解雇されたりするといった事態も予想される。また、それ以外の産業で働く外国人も、「休みたくても休めない」といった不安を抱えていることがわかる。

 ではこのような場合、法的にはどう考えられるだろうか(尚、基本的な対応方法は日本人の場合と同じだが、後述するように、外国人には「独自の問題」も発生する)。

 まず、会社から休むよう命じられた場合、出勤しなくとも休んだ日分の給料の最低でも60パーセントを受け取る権利が労働者にはある(労働基準法26条)。

 なお、60パーセントというのは労働基準法で定められており、「この水準を下回ったら違法」として国家が罰則を科す基準であるため、労働者としては、労働契約に基づいて、働く予定だった日分の給料を全額請求する権利があると考えられている。

 とはいえ、休業手当を出そうとしない会社やそもそも解雇してしまおうとする会社もある。これに対しては、政府は「特例措置」として休業手当の費用を補助するなどの政策を打ち出している。末尾で紹介する相談窓口からユニオンに加入し団体交渉することで、これらの制度を使い、解雇や休業手当の未払いを避けるように会社と交渉することができる。

 次に、自分の判断で休む場合は、2つの方法がありうる。一つは有給休暇を使って休むというパターンだ。有給は労働者が休む時期を基本的には自由に決めることができるので、会社が拒否することはできない。有給を使えば会社に行かなくとも当然給料は支払われる。

 しかし、もう有給が残っていない人もいるだろう。その場合はもし自分自身が病気にかかったのであれば、休んでいる間、給料の3分の2を受け取ることができる「傷病手当金」という給付を使うことができる。

 「仕事に就くことができないこと」や、「連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと」などが要件となるが、詳しい条件については担当の協会けんぽのホームページ等でご確認いただきたい。

 〔参考〕全国健康保険協会(協会けんぽ)ホームページ 

 以上の対応方法は基本的に日本人と同じだ。新型コロナウイルスに関して起こりそうな労働問題の対処法については、以下でもまとめているので、ぜひこちらもご覧頂きたい。

 参考:新型コロナでひろがる出勤停止  知っておきたい「休業時の生活保障」の知識

 参考:症状があるのに出勤を求められたらどうする? 多様なコロナ問題と法的「対処法」

外国人にも届くように情報発信の見直しを

 ここからは、外国人に「独自の問題」を考えていこう。 

 まず、当然であるが日本語が流暢ではない外国人が、職場で起こった問題を解決するための情報を入手することは簡単ではない。そのため、特に弱い立場にある外国人労働者にとっては、違法なことであっても泣き寝入りせざるを得ない状況が蔓延している。

 例えば、会社がシフトを一方的に減らす場合、労働基準法は会社に対して最低でも給料の6割を手当として支払う義務を課しているが、上で紹介した語学学校の講師の例のように、会社が一切支払うことをしないという違法な対応をとることがまかり通っている。

 あるいは、休業手当を支払わずにすぐに解雇してしまおうとする会社もある。そこで重要なのは、必要な情報を外国人労働者が分かる形で提供するということだ。

 このことは当たり前だと思われるかもしれないが、これがほとんどなされていない。政府のコロナウイルスに関する外国語での情報発信ですら、機械翻訳が使われており意味が全く通らない文章になっていたという批判を受けている状況だ。

厚労省HP、新型肺炎の外国語情報で誤訳多発 「手洗い重要」が「トイレ重要」(毎日新聞 2月7日)

 企業も、休業補償や有給、そして傷病手当金など、いままさに使うことができる制度などについて、きちんと労働者に労働者の分かる言語で情報を提供しなければならないだろう。

 また、もし同じ職場で外国人が働いていれば、彼ら/彼女らが休業中の補償についてきちんと把握できているかどうか、そもそもコロナウイルスの情報にアクセスできているか、確認し合うことが大切だ。

 そして、もし困っていることがあったら、専門機関に相談するよう促すことが重要になる。もし休業補償や有給などについて自分自身で確かなことが言えなくとも、無料相談窓口などを紹介して相談することを勧めることや、言語がハードルになっているのであれば代わりに連絡するという「助け合い」が大切だ。

今後起こりうること 「強制帰国」や「入国拒否」

 次に、新型コロナウイルスによる休業や業績不振が続いた場合に引き起こされる、深刻な外国人の労働問題について。警鐘を鳴らしておきたい。

 外国人労働者は特に今回のような「想定外の事態」の影響を受けやすい。それは、日本人とは異なり、法制度上日本での生活にさまざまな制約がかせられているからである。

 もし感染拡大の影響でアルバイトや正規の仕事を休まざるを得なくなり、そして会社側が(違法の可能性が高いが)休業補償の支払いを拒否し続けると、多くの外国人労働者は生活に行き詰まってしまう。

 例えば留学生のケースを考えてみよう。留学生の多くはコンビニや飲食店などでアルバイトをしながら生活費や学費を負担している。日本語学校の留学生の場合、学費は一ヶ月あたり5万円以上になるケースが多い。

 留学生の大半は借金を背負って来日しており、学校が紹介する就労先で働くことが前提になっている場合も多い。

 もしアルバイト収入がなくなってしまうと、学費負担ができなくなり学校を除籍され、借金だけを抱えたまま、母国に帰らざるを得ない状況にまで発展する可能性がある。

 また、技能実習生に関してはもっと深刻な事態が起こる可能性がある。これから来日予定だった人たちが、そもそも空港で入国拒否に遭い、やはり、渡航費用に充てた借金だけ背負って来日すらできないという可能性が生じる。

 さらに、日本国内ですでに働く技能実習生も生産が落ち込み自宅待機を命じられる可能性がある。しかし、彼らは日本で働くために必要な在留資格上、ある特定の会社で働くことが決められているため、「自宅待機」になったからと言って別の仕事を見つけることは法律的に許されておらず、自宅待機中の補償が特別にあるわけでもない。

 経済的に困窮し、「自主的に」帰国を迫られる可能性もある。この場合にも、日本への渡航費などの「借金」だけが残ってしまうことになるのだ。

 さらに、一般のいわゆる就労ビザや永住などの在留資格で働いている外国人も例外ではない。英会話講師は塾そのものが休校になりシフトをカットされる可能性が高く、また、薬局や家電量販店でよく見かける外国人観光客の対応が専門の外国人スタッフも、客足が遠のくことで自宅待機になる可能性がある。

 

 永住など身分に基づく在留資格であれば転職や副業は可能だが、いわゆる就労ビザの場合はその就労ビザで認められている職種の範囲内でしか転職が認められないため、例えば、「仕事がなくなった英語講師が、1ヶ月だけコンビニでアルバイト」ということはできない。

 別の仕事に就くためには別の在留資格を取得する必要があり、休業補償が適切に支払われなければ短期間で生活に困窮する可能性が高い。

 なお、永住者であれば生活保護を受けることができるが、外国人は基本的には生活保護を受ける法的権利もないので、困窮したらまさに帰国を迫られてしまう。コロナウイルスによる休業や解雇は、外国人にとっては日本人以上に死活問題なのだ。

 このような状況を受け、POSSEでは下記の日時で、外国人労働者ための相談ホットラインを開催することにした。ホットラインは、英語と日本語で受け付けており、また、外国人が読みやすいようにできるだけやさしい日本語で紹介している。

 ぜひ困っている外国人が理不尽な状況を変えられるよう、支援をしていく体制を整えていきたい。多くのボランティアの方の応募もお待ちしている。

外国人向け 新型コロナウイルス 労働相談ホットライン

日時:2020年3月1日(日)14時~17時、3月4日(水)17時~20時

電話番号:0120-987-215(通話無料)※英語・日本語対応可

メール:supportcenter@npoposse.jp (ホットラインの日に限らず、24時間受付)

※相談料無料、秘密厳守

主催:NPO法人POSSE外国人労働サポートセンター