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GW10連休中に各所でストライキか!? 自販機や港で相次ぐ背景とは

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
争議で売り切れが続出する自販機

 昨年のゴールデンウィークは、サントリーグループのジャパンビバレッジ社の従業員がストライキを起こし、JR東京駅の飲料自販機で多数の売り切れが出たことが大きな話題を呼んだ。

大規模なストライキにもかかわらず、SNS上では好意的なリアクションが多いことが印象的であった。関係者のツイートはおよそ6万回リツイートされている。

 参考:ゴールデンウィークに東京駅の自動販売機でスト突入へ

 あれから1年が経ち、同じ飲料自販機業者の大蔵屋商事の従業員が労働組合に加入し、自販機産業ユニオンを結成した。

 そして、今年は、ジャパンビバレッジ社と大蔵屋商事の二社に対し、GW10連休中のストライキを実施予定だという。

 さらに、全国各地の港では、1万人を超える規模でのストライキも予告されている。今年のゴールデンウィークは、各所でストライキが発生する可能性がある。

昨年のジャパンビバレッジのストライキの成果

 昨年のJR東京駅でのジャパンビバレッジ社に対するストライキは、「ブラック労働」を改善する上で大きな成果があったという。

 このストライキの要求は、労働組合のリーダーに対する不当な懲戒解雇予告の撤回、長時間労働の改善、未払残業代の適切な支払いであった。

 ストライキの結果、労働組合のリーダーに対する懲戒解雇予告は取り下げられ、東京駅支店には多くの人員補充がなされ、休憩の一時間取得と定時上がりが実現した。

 また先日は、私立学校教員のストライキがパワーハラスメントや無駄な朝礼をなくし、非正規教員の「無期転換」の合意を結ぶことに成功している。

 参考:「傘連判状」・ストライキで、非正規教員の「無期転換」を合意へ

 

 このように多くの人の注目を集めることで、ストライキは労働環境の改善を実現できるということが、さまざまな場面で実感されつつある。

 他方で、ジャパンビバレッジ社の東京駅支店以外では、未だに長時間労働や休憩・有休が取りづらい環境があることや、過去の未払残業代の多くが支払われていないままになっているなど課題も多いという。

今年のGWの自販機業界でのストライキ通告の経緯

 そのため自販機産業ユニオンは、今年のGW10連休中に、ジャパンビバレッジ社と大蔵屋商事に対してストライキを行うことを予告している。その経緯と要求を見ていこう。

 まずジャパンビバレッジ社は、昨秋に報道された管理職による有休取得妨害(有休チャンスメール事件)や蹴りなどの暴行・パワハラについて事実関係を認めておきながら、加害者による謝罪と会社による補償には一切応じていないという。

 参考:ジャパンビバレッジ「有給チャンス」事件 「告発」の背景

 さらに、今年の春闘交渉では、組合側が月額5,000円のベースアップを要求したのに対し、ジャパンビバレッジ社側は月額500円しか賃上げをしないとの回答を譲らなかった。

 組合側がなぜ500円しか賃上げしないのかと問うたところ、会社側はその根拠を具体的に説明しなかった。

 月額500円の賃上げでは、今秋の消費増税分の補填にすらならない水準である。ジャパンビバレッジ社が、過去の未払残業代も支払っていない状況にあることを踏まえれば、ストライキの決行という選択にも納得せざるをえない。

 また、もう一つの飲料自販機会社である大蔵屋商事では、月に100時間以上の長時間残業が行われているが、96時間分に相当する固定残業代を導入して事実上「定額働かせ放題」で長時間労働を強いているという。

 裁判判例からみれば、96時間分に相当する固定残業代は無効であり、1日8時間、1週40時間を超える労働に対し割増賃金を支払う義務があるが、大蔵屋商事はその支払いに応じていない。

 そのため、ストライキ通告に踏み切ったという。

 参考:社会問題化する「固定残業代100時間」 自販機ベンダー業界からの告発

 こうした経緯から、両社で働く自販機産業ユニオンの組合員は、「8時間労働で生活できる賃金」を求めて、ストライキを通告したのだ。

 ストライキは、JR東京駅の飲料自販機だけでなく、両社の管轄する東京・千葉・埼玉の飲料自販機で行われる予定であり、各地の自販機で売り切れが発生する可能性があるという。

全国各地の港湾でもストライキの可能性

 さらに、今年のゴールデンウィークは、全国各地の港湾でのストライキが予告されている。

 すでに今月4月14日から16日にかけて、全国港湾労働組合連合会(1万6千人)が、48時間のストライキを実施し物流に大きな影響を与えているが、GW10連休中にもストライキを実施する構えだという。

 今年の春闘で、組合側は、業界の最低賃金を184,500円(日額8,022円)にまで引き上げるように求めてきた。

 最低でも月額184,500円という組合の要求水準は大変ささやかなものに思えるが、経営側は頑なに最低賃金を定めることを拒否したため、組合はストライキを行うことを決めたという。

 このまま経営側の譲歩が無ければ、GW10連休に、全国各地の港湾がストライキのため荷揚げ停止の状態に陥るだろう。

 そうなれば、店頭に一部の商品が並ばないなど、目に見える形で経済活動に影響を及ぼす可能性もある。

ゴールデンウィークにストライキが集中する理由

 ここまで見てきたように、今年のゴールデンウィークは、ストライキが全国各地で予定されている。それでは、なぜ、ゴールデンウィークにストライキが集中するのだろうか。

 実は、それには理由がある。日本では、年度末に春闘と呼ばれる賃上げ交渉を行う労使慣行がある。

 多くの場合は年度中に労使の合意が得られるが、交渉がまとまらずに年度をまたぐこともある。

 その交渉が決裂し組合側がストライキを行うことを決定するのが4月末頃であるため、ゴールデンウィークはストライキが発生しやすい時期なのだ。

 また、今回のストライキが、物流やサービス関係の業界で行われることにも注目したい。そもそもこれらの産業にゴールデンウィーク10連休は無い。

 私たちが当たり前のように連休中であっても享受しているサービスの多くは、連休中に働いている人の存在があってのことなのだ。

 近年、24時間365日を謳うサービスは増えるばかりで、大型連休中も働かなければならない人の割合は大きくなっている。

 ゴールデンウィーク中のストライキは、そうした私たちの社会を支えている物流やサービス業で働く人たちの苦労を可視化させてくれるものでもあるだろう。

 言い換えれば、ストライキは、経済的に不可欠な役割を担っているにもかかわらず、不当に軽んじられている労働者にとっての異議申し立ての手段なのだ。

 ストライキは自分たちの仕事の価値や存在感を経営者や世の中に示すための最良の方法とも言える。そういう意味では、ゴールデンウィークという注目の集まりやすい時期にストライキを行うことは理に適ったことだろう。

 ただし、これを「労働組合のある会社に勤める人たちだけの特権」だとは思ってほしくない。

 実は、個人で加盟できる労働組合(ユニオン)に加入し、会社とストライキ権を背景にして待遇改善の交渉を行うことは誰でもできることだ。

 実際、ここで紹介したジャパンビバレッジや大蔵屋商事の従業員は、ここ1、2年の間に個人で加盟できるユニオンに加入して、ストライキ権を行使するに至っている。

 勤務先の会社がブラック企業だと感じる方や、自分たちの仕事が不当に軽んじられていると感じる方は、ぜひユニオンに相談し、ストライキ権の行使も含め、会社と交渉してみてほしい。

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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