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24時間営業が助長する過労死 サンクス・コンビニ店長のケース

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
(写真:アフロ)

 セブンイレブン南上小阪店(東大阪市)のオーナーが「このまま24時間営業を続ければ、私が倒れるしかない状態だった」と時短営業を始めて1ヶ月が経った。

 当初セブンイレブン本部側は、24時間営業を続けなければフランチャイズ契約を解除し違約金1700万円を請求するとしていたが、世論がオーナーの味方についたこともあり、本部は、オーナーに契約を解除せず違約金も請求しないと告げている。

 とはいえ、セブンイレブン本部は今回の措置は例外的で、24時間営業の原則は維持すると主張している。実際、日本全国に約5万8000店も存在するコンビニのほとんどは、いまだ24時間営業を続けていると考えられる。

 しかし、この24時間営業を続けることが、オーナー、店長、そして学生バイトにも多大な負担を強いていることは、これまで繰り返してきたとおりだ。

 参考:24時間のコンビニが「ブラック化」する構図

 そして、実際にコンビニで働く人の過労死も頻発している。それにもかかわらず、「ブランド力」の維持などを理由として、「原則24時間営業」は必要だとの論調が根強いのが現状だ。

 そこで今回は、東京都内のサンクスで働いていた過労死した男性のケースを紹介しながら、いかに24時間営業が「ブラック労働」を促進しているのかを、改めて見ていきたい。

サンクス店長過労自死事件

 この事件は、都内にあるサンクスの店舗で店長を勤めていた当時31歳の男性が、過重労働によって精神疾患を発症し2009年1月に自死したというものだ。

 この男性店長は、株式会社シー・ブイ・エス・ベイエリアという、2010年時点で東京都と千葉県においてコンビニ128店を経営する企業が運営するサンクスで働いていた。

 コンビニのフランチャイズというと個人オーナーが夫婦で経営しているものだと考える人が多いが、中には株式会社がフランチャイズ契約を本部(セブンイレブンやローソンなど)と結び、複数店舗運営するという形式もある。男性が働いていた会社は後者の形態だ。

 男性は2002年に入社し、副店長を務めた後に、2007年から亡くなった店舗の店長として、日々の接客や商品発注業務のほかに、シフトの作成、アルバイトの給与計算、アルバイトの採用・面接業務、副店長の教育など、非常に多岐にわたる業務を担当していた。

 その結果、慢性的な人手不足もあいまって、店長の労働時間は際限なく伸びていった。

 2008年1月から6月までは毎月120時間の残業が続き、最も長い月は163時間48分も残業していた。国の定める「過労死ライン」は一ヶ月あたり80時間の残業であり、男性店長はその倍も働いていたということだ。

 さらに、20日間一日の休みもなく働いていた期間もあるという。24時間営業のため、当然夜勤シフトも何回も行っていた。業務日報に「休みが取れていない状況です。モチベーションがあがりません。」と記載するほど、男性店長は追い詰められていた。

 後に遺族が労災認定を求めて起こした裁判で、裁判所は「競合店との厳しい競争の中、本件会社から売上げの増加及び廃棄率の低下を強く求められるとともに、人件費の軽減が課題とされ、おのずと店長である(男性)の勤務時間が増加していった」と店長が亡くなった原因をまとめている。

 長時間労働以外にも、店舗の売上げや廃棄率のノルマが設定されており、それらを達成できなければ、退職や店長からの降格を上司から明言されていたと遺族側は主張している。こういったプレッシャーも加わったことが男性を死に追いやったと言えるだろう。

必ず誰かにしわ寄せがくる24時間営業

 これほどにまで男性店長の労働時間が長くなったのは、やはり、24時間365日必ず誰かがシフトに入っていなければいけないという24時間営業に原因がある。

 そして、彼は店長という立場から、アルバイトを見つけられなければ自分がシフトの穴埋めをしなければならなかった。男性の遺族の主張によれば、アルバイトがいないので自分が夜勤に入ることが多く、生活のリズムが崩れていると男性は遺族に話していたという。

 24時間営業に加え、このような事態に陥った直接の原因は、会社がギリギリまで人件費を抑制しようとしていたからである。

 裁判記録によれば、社長が店長会議の中で、「売上げが上がる見込みがないのに人件費が上がるのはマネジメントの能力がない、人を増やさなくてもいいようにきちんとワークシフトを作らなければならない」と話している。

 ここからは、24時間営業を実施するにもかかわらず、同時に「できるだけアルバイトなどに頼らないということ」が経営方針となっていたことがうかがえる。

 できるだけ利益を上げるために、人手をギリギリまで絞れば、そのしわ寄せは必然と店長や副店長などの役職者にくる。場合によっては、店長などがシフトに入っても人手が足りないということもありうるだろう。

 どうしても人手が足りない場合、新たに派遣社員をその日だけ雇うことや、予めアルバイトをたくさん雇っておいてプールしておくというやり方もあるだろう。

 しかし、この企業ではその方法さえも、「人件費がかかってしまう」としてなるべく避けるように指示していた。

 男性の上司にあたるスーパーバイザーは対処法について以下のメールを送っている。

 「クリスマス、年末年始のシフトですが、バイトの希望どおり作ると穴があきますよ!従業員にもっと責任感をもたせてください。人件費を社長が削減しろと言っている折、イベントだからバイトが入りませんでした。派遣を使います。は通用しないと思います」

 要するに、アルバイトの希望を無視してシフトを作れとこの上司は指示しているに等しい。これは人手不足で学生アルバイトが「休めない」「やめられない」というブラックバイトに典型的なケースだ。

 もし亡くなった店長が一ヶ月あたり163時間の残業をしたくなければ、アルバイトの希望を無視してシフトを組む以外に方法はなかったのだろう。

 まさに、私が以前の記事(24時間のコンビニが「ブラック化」する構図) で指摘したように、「オーナー・店長→アルバイト」という流れで24時間営業の負担が押し付けられている。

 店長にせよ、アルバイトにせよ、「人員をぎりぎり」の状態にして、24時間営業を遂行する。これによって最大限の利益を稼ぎ出すという経営戦略の下で、「ブラック化」しているのである。

24時間営業に歯止めをかけるために

 結局、24時間365日お店を開けておかなければいけない限り、アルバイトであろうが、店長であろうが、オーナーであろうが、誰かがシフトを埋めなければいけない。つまり、根本的には24時間営業のあり方そのものにメスを入れる必要がある。

 そのためには、まず24時間営業の「被害」を受けている学生アルバイトや正社員店長が、休む権利を求めたり、これまで未払いになっている残業代を請求することで、問題提起を行うことが有効だ。

 というのも、会社が24時間営業で多大な利益を稼ぎ出せるのは、社員に残業代を支払わずにタダ働きさせているケースばかりだろうと考えられるからだ。

 残業代を請求して、経営的に24時間営業が不利になれば、本部やフランチャイズ企業も営業方針を見直さざるを得ないだろう。

 なお、アルバイトや店員が自分の権利を主張しようとすると、どうしてもオーナー店長や正社員店長がよりいっそう過酷な労働を強いられることになってしまう。

 そこで、こちらの記事でも紹介したが、コンビニ店員が自身の権利(休んだり、残業代を請求すること)を主張することに加えて、オーナーがコンビニ本部に対して24時間営業を見直すよう求める動きを応援することも重要だろう。

 参考:オーナー問題に苦悩するコンビニ店員 できることは何か?

 オーナー、社員、アルバイト、すべての利害関係者が「まともに働ける」状況を実現するために、本部は彼らと話し合い、営業のあり方を変化させてほしいと思う。

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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