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オーナー問題に苦悩するコンビニ店員 できることは何か?

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
(写真:アフロ)

 この間、コンビニオーナーの過重労働が大きな社会問題となっている。

 すでにいくつもの記事で指摘されているように、オーナーとコンビニ本部が締結しているフランチャイズ契約は、オーナーにとって非常に不利な内容になっており、過重労働と低収入に縛り付けられてしまう。

 他方で、私が代表を務めるNPO法人POSSEには、コンビニの正社員や学生アルバイトから苦悩の声が寄せられている。

 長時間のシフトを強いられる、休みが取れず学業に差し障る、残業代が支払われない、1日15~30分の賃金が切り捨てられて支払われない。どれも切実な問題だろう。

 彼らコンビニ店員もまたコンビニ本部が作り出したフランチャイズシステムの「犠牲者」なのである。そして、この間のオーナーの問題が浮上する中で、彼らは深く苦悩している。

 アルバイトや店員からすれば、オーナーこそが「雇い主」であり、過重労働や違法労働を追求する先は、本部ではなく「オーナー」だからである。

 そこで今回は、アルバイトや雇われ店長の置かれた実情を概観しつつ、彼らが「オーナー店長」と共に手を取り、本部の運営方針に影響を与えた事例を紹介していきたい。

オーナーだけじゃない。コンビニ店員も過酷・違法労働

 まず、コンビニの雇われ社員やアルバイトの労働問題を紹介していこう。

コンビニ正社員のケース

 はじめに紹介するのは、大手コンビニのフランチャイズ店で働く20代の正社員Aさんのケースだ。

 Aさんは新卒で入社してすぐに長時間労働を強いられた。毎日Aさんは8時〜22時頃まで働き、アルバイトが休んだり、辞めたりした際のシフトの穴は自分が埋めざるを得なかったという。

 しかも、過労死レベルの残業をしていながら、Aさんには残業代が一切支払われていなかった。これは当然違法行為である。

 こうしたことをPOSSEに相談したAさんだが、オーナー店長を責める気持ちにはならなかったという。というのも、オーナー店長自身も長時間労働をしているため、自分の労働時間を減らして、オーナー店長の仕事が増えることは望んでいなかったからだ。

 Aさんのケースは、オーナーの過労と社員の過労が「トレードオフ」の関係にあり、お互いが24時間営業の中で苦しんでいる実態が、よくわかる事例である。

コンビニバイトのケース

 次に、アルバイトの事例を見ていこう。

 大手コンビニのフランチャイズ店で働く大学生のアルバイト店員のBさんは、契約時に合意したよりも多くシフトに入ることをオーナー店長から何度も強いられた。

 そのため、すぐにでも退職したいが、なかなか辞めさせてもらえないとPOSSEに相談を寄せたのだった。

 一方で、Bさんは、オーナー店長は、学生バイトに対してそれなりには配慮しているとも感じており、人手不足やコンビニ本部の仕組みが原因でスタッフの負担が大きくなっているとの考えも、相談の中で口にしていた。

 また、オーナー店長が年に数日しか休んでいないことを知っているため、退職の意思を強く言い出しづらい面もあるという。

 正社員のAさんと同じく、アルバイトのBさんもやはり、オーナーに同情しながらも、自分たち自身の労働問題についてはオーナーに対して問題にせざるを得ないという中で苦悩していたのである。

オーナー店長が板挟みになる構図をどうすればよいか

 以上のケースから見えてくるのは、オーナー店長がコンビニ本部とコンビニ店員の間で板挟みになっている構図だ。

 上(コンビニ本部)からは、24時間営業と高い収益を求められ、下(コンビニ店員)からは労働時間の短縮、負担の軽減、残業代の支払いを求められる。

 まるで中間管理職のようである。

 紹介したように、すでに一部のコンビニ店員はこうした構図に気づいている。もちろん、なかには嫌味な店長やバイトを苛める店長もいるだろう。だが、ここで指摘しているのは、板挟みになっている「構図」である。

 どんな事情があっても残業代不払いやシフトの強要は許されないが、そうしたことが多発している原因は、コンビニ本部が作り出した仕組みにあり、その意味ではオーナー店長は「被害者」なのだ。

 それでは、こうしたオーナー店長が板挟みにされている構図を知った社員やアルバイトには、「解決」の手段はあるのだろうか?

 まず重要なことは、コンビニ店員は、多かれ少なかれ、違法な労働条件で働かされており、ただ我慢していても仕方ないということだ。

 いくらオーナー店長が可哀そうでも、サービス残業を強いられたり、辞めたくても辞められなかったりするのは不当な話だからだ。

 他方で、コンビニ店員の苦境だけを切り取ってみて、オーナー店長を攻撃ばかりしても、問題の「解決」にはならないだろう。

 実際に、そうしたことを実感しているコンビニ店員もいて、「ヤフー知恵袋」などで“オーナーを助けたい”という投稿もある。

 だが、「ヤフー知恵袋」では、本部に連絡しても、「かえってオーナーが本部から目を付けられ酷いことになるからやめておけ」といった「回答」にとどまり、解決策は見出されていないようだ。

 そこで、私が注目していることは、オーナー店長たちの労働組合であるコンビニ加盟店ユニオンの取り組みだ。

 実は、オーナーたちも、本部に対して「労働者」としての権利を行使し得るのだ。

 オーナーたちは形式上は経営者であるが、コンビニ本部との関係は非対象で、圧倒的に弱い立場に置かれていることなどから、東京都労働員会は、労働組合としてのコンビニ本部と団体交渉を行う権利があることを認めている。

 ただし、コンビニ本部側はその判断に不服を申し立てたうえ、行政の指導に従わない状態が続いている(争いは中央労働委員会を経て、裁判に持ちこまれる可能性が高いだろう)。

 実は、これと同じことが、アルバイトや正社員店員にも可能なのである。

 つまり、コンビニ店員も労働組合に加入し、コンビニ本部に労働条件の改善を求めて団体交渉を申し入れるということが、原理的には可能だということだ。

 たしかにコンビニ店員は、コンビニ本部と直接の雇用関係にはない。だが、コンビニ店員の労働条件が、コンビニ本部がつくっている仕組みによって規定されていることは間違いない。

 コンビニ本部が24時間営業を見直すだけで、コンビニ店員の長時間労働や過酷勤務が大きく緩和されることは明らかである。こうした場合には、直接の雇用関係がないコンビニ本部との団体交渉の権利が認められる可能性は全くないとは言えない。

 このようなことが実現するならば、コンビニバイトや社員がオーナー店長とともに、コンビニ本部に対して「法的に認められた交渉の場」において、今の仕組みを見直すよう求めることも可能になるだろう。

コンビニ本部への申し入れの成功例

 実は、すでにこうしたコンビニ店員とオーナーの「連携」の事例はすでに存在する。

 ブラックバイトユニオンという労働組合が大手コンビニチェーンの本部に「15分単位での賃金計算」を見直すよう申し入れたケースだ。

 ことの流れはこうだ。

 まず、適法に賃金が支払われていなかった高校生のアルバイトが、ブラックバイトユニオンに加入し、オーナー店長が経営する会社に団体交渉を行った。

 ただ、よくよくオーナー店長の話を聞いていくと、実はオーナーが「勝手に」15分未満の賃金を切り捨てていたのではなく、コンビニ本部が提供しているPCの勤怠管理システムが、15分未満の賃金切り捨てをできるようにしていたことが分かったのだ(賃金は1分単位で支払わなければ違法である)。

 そこで、ブラックバイトユニオンは、急遽、コンビニ本部へと申し入れをし、15分未満の賃金を切り捨てを可能にする勤怠管理システムを改善するように要求した。

 さらに、この問題が報道されたこともあり、コンビニ本部がこの点については改善に動く結果となった。

オーナー店長と共に声を上げる動きが現われた

 本日、ブラックバイトユニオンが「オーナー店長を助けよう!」という趣旨の声明文とキャンペーン画像を公開した。

 ブラックバイトユニオンには年間数百件のコンビニバイトからの相談が寄せられており、オーナー店長の苦境を見過ごしてはおけないという。

 

「ブラックバイトユニオン」の「コンビニ加盟店ユニオン」の交渉を支持するバナー
「ブラックバイトユニオン」の「コンビニ加盟店ユニオン」の交渉を支持するバナー

 ブラックバイトユニオンによれば、学生が強いられるブラックバイトも、オーナー店長が強いられる過酷労働も、原因は「人手不足」にある。

 ただ、「人手不足」といっても、それは単純に労働力が不足しているという意味ではない。

 本部に偏った利益配分ゆえに、オーナー店長が家族を支えるだけの収入を得るためには、人件費を削るほかないために「人手不足」になっているのだ。

 こうして、オーナー自身の過重労働か、従業員にブラックな働かせ方をするか、いずれかになってしまっているのが現状だ。そして、この「人手不足」に拍車をかけているのが、コンビニ本部が強要する24時間体制である。

 そのため、コンビニ店員とオーナー店長が手を取り合って、フランチャイズ店舗への利益配分と24時間営業を見直すことが必要だという。

 そして、それによって生まれた「余裕」を利用して、コンビニ店員の労働条件を改善すれば、コンビニで働きたいという人も増えて「人手不足」は解消し、「ブラックバイト」も減っていくというのが彼らの考えだ。

勇気あるオーナー店長に続いてアクションを起こそう

 これまでコンビニ店員の苦悩は、「板挟み」に遭っているオーナー店長の存在であった。自分が権利を主張すると、オーナー店長がいっそう過酷な労働を強いられるのではないかと。

 しかし、ついに、勇気あるコンビニオーナーが声を上げた。そして、多くの人々がこれを支持し、コンビニ本部も「24時間営業を一部で見直す」ことを検討するなど対応を迫られつつある。

 いまや、コンビニ店員が権利を主張することは、オーナー店長を「板挟み」にするものではなくなった。コンビニのバイトや社員が声を上げることは、オーナー店長の勇気ある告発への「加勢」という意義を持つようになったのだ。

 80万人前後がコンビニで働いており、その大部分がフランチャイズ経営の店舗で働いている。コンビニ店員80万人がオーナー店長に続いて、アクションを起こすことが、コンビニ業界を改善し、日本を良くすることにつながるだろう。

 自らの労働条件を改善したい、オーナー店長を助けたいと思う方は、まずは一度専門の相談窓口に連絡してみてほしい。

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*仙台圏で活動する「労働側」の専門的弁護士の団体です。

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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