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メーデーに「ブラック企業と闘う武器」を考える 「順法闘争」のすすめ

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

 今日はメーデー。「労働者の祭典」だ。各地で労働者のための集会も開かれている。

 そうは言っても、ブラック企業であれば、ゴールデンウィーク中に、ほとんど休みを取れないというのが実情だろう。

 「メーデー」の背後の無休、ブラック労働。こんなに皮肉なことはないだろう。

 以下では、労働組合がブラック企業の労働者にどう役立つのか。また、充実したゴールデンウイークを過ごすにはどうしたらよいのかを考えていきたい。

ブラック企業の法律違反

 ブラック企業は、十分な人員を確保しないまま、ゴールデンウィークの繁忙期に突入する。長時間労働や過密シフトなどが横行する。労働者にとっては、恐怖のデスマーチである。

 そして、ほとんどのブラック企業では、法律が守られていない。労働基準法はもちろん、安全衛生や消費者保護の関連法規にも違反していることが多い。

 そうだとすれば、私たちはブラック企業の違法行為に巻き込まれる義務があるのだろうか?

 答えは、もちろんノーだ。

 しかし、具体的にはどうしたらよいのだろうか?

 そこで、今注目を集めているのが、「順法勤務」である

ブラック企業VS「順法勤務」

 まず「順法勤務」について説明しておこう。「順法勤務」とはその名の通り、法律や会社規則、マニュアルを順守して働くことだ。

 そう聞くと当然のことのように思われるかもしれないが、先ほど述べたように、ブラック企業は、残業代不払い、休憩なし、労働災害隠し、消費者保護法違反など、法律違反のオンパレードである。「順法勤務」をできている人はまずいない。

 こうした法違反のブラック企業に対し、労働者が率先して、法律や業務マニュアルを順守するのが「順法勤務」である。具体的には、無理のないペースで働いて、休憩を1時間取り、サービス残業を拒否して定時で帰るということだ。

 これは、十分な人員を確保しないまま、ゴールデンウィークの繁忙期に突入するブラック企業への有効かつ合法的な対抗手段と言える。というのも、労働者は違法労働から解放されるのに対し、ブラック企業は違法労働を前提とした不当利得を得られなくなるからだ。

ユニオン×「順法闘争」のすゝめ

 だが、個人で「順法勤務」を行うことにはリスクもある。たしかに「順法勤務」は合法なのだが、ブラック企業が「順法勤務」を行った労働者に対して報復措置を行ってくる可能性があるからだ。

 それゆえ、「順法勤務」を行いたいのであれば、ユニオン(一人でも加入できる労働組合)に加入して、労働組合としての権利(争議権)を行使する形で実施するのが望ましいだろう。このように労働組合に加入し集団的に「順法勤務」を行うことを「順法闘争」と呼ぶ。

 労働組合の「順法闘争」は、労働組合法や憲法で保障された権利であり、これを行使したことを理由として、会社が労働者に対し報復措置を行うようなことがあれば、それ自体が違法行為となる。だから、会社は簡単には労働者に対し報復を行うことができない。

 また、個人で「順法勤務」を行う場合は、同僚に終わらなかった仕事のしわ寄せがいく可能性があるが、労働組合として職場の労働者の多数が「順法闘争」に参加すれば、会社としても対応せざるを得なくなり、不足していた人員が補充されることもある。

 5月1日のメーデーの日に、これほど労働組合の意義を、日本の労働者に確信させる「闘争」はないのではないだろうか?

ジャパンビバレッジでの「順法闘争」

 今、まさに争われている「順法闘争」の実例として、サントリーの子会社・ジャパンビバレッジホールディングス(以下、JB社という)のケースを紹介しよう。

 この間、「順法闘争」によって、JB社が運営するJR東京駅の自動販売機で売り切れが続出している(詳細は「労働組合が東京駅の自動販売機を空にした日」を参照してほしい)。

 もともとJB社では、長時間労働や残業代不払いなどの労基法違反が横行しており、多くの従業員が早期に退職に追い込まれていた。

 そうした状況を変えるため、二十名近い従業員がブラック企業ユニオンという労働組合に加入し、JB社と団体交渉を行っているという。また、ブラック企業ユニオンの組合員が、労働基準監督署に申告を行ったところ、昨年12月に労働基準監督署がJB社に対し、労働基準法違反の是正勧告を出している。

 ところが、JB社は、労働基準監督署への申告を行った組合員に対して、懲戒処分を検討しているという。これは、残業代を請求した労働者を狙い撃ちにした懲戒手続きである可能性が高い。

 また、JB社の多くの支店では、1日12時間にも及ぶ長時間労働が未だに続いており、サービス残業も現在進行形で発生している。

 こうした違法な労働環境や声を上げた労働者に対する不当な懲戒手続きへの抗議の意思表示と働き方の改善のために、ブラック企業ユニオンは、JB社での「順法闘争」を実施することを決意したのだという。

「順法闘争」の威力と効果

 JB社での「順法闘争」は、ブラック企業ユニオンの東京駅支店の組合員十数名によって、先月18日に開始された。

 「順法闘争」の初日や翌日には、JR東京駅の自動販売機で売り切れが相次ぎ、ネットメディアやSNSを中心に、大きな注目を集めた。(詳細は同上。「労働組合が東京駅の自動販売機を空にした日」)。

 その後、JB社は「順法闘争」に対抗するため、多くの補充人員を東京駅支店に集めたという。ブラック企業ユニオンは、もともと人員不足をJB社に訴えて、人員補充を求めていたが、奇しくも「順法闘争」によって、人手が補充されたことになる。

 実際、東京駅支店の組合員によれば、繁忙期のゴールデンウイークに入って以降も、休憩を1時間取得し、ほぼ定時に上がっており、いつになく余裕を持って楽に仕事ができているという。

 もちろん、JB社の対応は、「順法闘争」に対抗する形で東京駅支店に人員を補充してるにすぎず、多くの支店での長時間労働や労働基準法違反は改善されておらず、多くの問題が山積している。

 だが、「順法闘争」の効果に着目してみれば、法律と社内規則を順守するだけで、たしかに人員補充を勝ち取り、余裕を持って楽に仕事ができるようになったと言えるだろう。

「順法闘争」のすゝめ

 JB社のケースで見てきたように、労働組合の正当な権利の行使としての「順法闘争」は、ブラック企業に勤める多くの労働者にとって、強力な武器となり得るのだ。

 とりわけ繁忙期の「順法闘争」は、労働者にとっては大幅な負担軽減をもたらし、ブラック企業に対しては「懲らしめ」になる。

 来年のメーデーまでには、もしくは、次の繁忙期である夏休みまでには、働き方を改善したいとか、ブラック企業に一矢報いたいという人は、ぜひ労働組合での「順法闘争」を検討してみてほしい。

 なお、5月6日(日)18時から、「ストライキ×東京駅×自動販売機 ~私たちはブラック企業とこう闘った~」(主催:ブラック企業ユニオン)というイベントが開催されるが、そこで私は講師として「順法闘争」のやり方や、その他多くのブラック企業と闘うための「武器」を具体的に紹介する予定だ。

 自分も労働組合でブラック企業と闘ってみたいという人は、ぜひ参加してほしい。

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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