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労基法は子役を守ってくれない? 児童労働の規制緩和が進行中

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

大手制作会社も見逃す過酷な児童労働

『週刊文春』2017年3月9日号に「朝5時まで違法撮影 WOWOWドラマ天才子役号泣現場」という記事が掲載されたことが話題となった。記事によると、WOWOWのドラマ撮影の現場において、六歳の子役の参加する撮影が、昼の十二時ごろから始まり、朝五時まで続いていたという。深夜三時すぎからだけでも、この子役に対して四〜五〇回の撮り直しがされていたとのことだ。

現場に同席していたプロデューサーは映画『海猿』シリーズなどを担当する売れっ子で、所属する制作会社は『踊る大捜査線 THE MOVIE』『永遠の0』など大ヒット映画を量産している大手とあり、同様の過酷な子役の労働があったのではないかと疑いが広がっているのである。

子役に限らず、芸能界の労働問題は近年注目されているが、発言力の弱い子供の労働問題はなかでも深刻だ。日本の労働基準法では、子役などの児童労働について具体的にどのように定めているのだろうか。

※尚、本記事は、筆者が代表として発行する雑誌『POSSE』35号(2017年6月発行)掲載の記事を、改稿・短縮したものです。NPO法人POSSEは年間1000件以上の労働相談を受け、学生・若手編集ボランティアが行政や当事者などを取材したうえ、労働問題について発信しています。

小学生の歌手は労基法違反?

まず、原則として労働基準法では、中学生以下の子供を働かせることは禁じられている(労働基準法56条1項)。ただし、児童の健康及び福祉に有害でなく、行政官庁の許可を受ければ、13歳から働かせることが可能となる。古くからの代表的な労働として、子供の新聞配達が挙げられる。さらに、映画の製作または演劇の事業であれば、13歳未満であっても働かせることが可能とされている(56条2項)。

だが、小学生や13歳未満の歌手やアイドルはどうなるのだろうか。彼らの仕事は見る限り、「映画の製作」でも「演劇の事業」でもなさそうだ。

厚労省に問い合わせてみると、13歳未満の歌手活動は労基法上、問題ないという。「映画の製作または演劇の事業」に「歌手活動」が含まれるというのが、厚労省の解釈だということだ。

「紅白」は合法で、「Mステ」は違法?

次に、深夜労働に対する規制はどのようになっているのだろうか。

例えば、深夜に及ぶNHK紅白歌合戦の2016年放送で、20時直前に出演した天童よしみのバックダンサーというかたちで、フィギュアスケート選手の本田望結さん(当時12歳)と、アイドルグループの中学生メンバー2人(当時15歳)が共演していた。

特に後者2人は、20時以降の出演ができないため、天童よしみとの共演になったという経緯が報道されていた。

この例からは、テレビ出演においては厳格に、中学生以下の20時の年齢制限が守られているかのようだが、実態はそうでもない。別の例を挙げれば、1986年放映開始で、毎週金曜日の20時からテレビ朝日で生放送されている「ミュージックステーション」(以下、Mステ)では、中学生や小学生のアイドルや歌手がしばしば出演している。

映画『崖の上のポニョ』の主題歌を歌った大橋のぞみさん(2008年8月出演)と、アイドルグループ・ハロープロジェクトのユニットで出演した鈴木愛理さん(2003年10月出演)の二人にいたっては、当時9歳である。

では、労基法は児童の深夜労働をどう規制しているのか。同法によれば、15歳から18歳の労働者は、条件付きで22時まで働かせることができる(61条1項)。厚労大臣の許可があれば、23時まで働くことも可能になる(61条2項)。

13歳から15歳までの労働者についても、行政官庁の許可を受ければ20時まで働くことができる。13歳未満の場合は、演劇の事業と映画の製作であれば20時まで働くことが可能である。さらに、いずれの範囲の年齢でも、厚労大臣が必要であると認めれば21時まで働くことが可能となると規定されている(61条5項)。

このように、Mステに中学生や小学生が出演する際は、厚労大臣の認可をその都度とっていると思われる。

1988年の労働規制緩和

しかし、Mステは昔、中学生を出演させていなかったという。1988年6月10日の放送では、アイドルグループ・光GENJIが出演したが、同グループのメンバー七名のうち、二名は中学生だった。そこで放送では、すでに高校生だったSMAPの中居正広や木村拓哉が代理で出演していた。なお同月には、中学生メンバーが深夜の歌番組に出演した疑いで、労働基準監督署がジャニーズ事務所に調査に入っている。

このように、かつては厳密に20時以降の出演禁止が守られ、61条5項の「厚労大臣が認める場合」には、歌手や演劇子役などは入っていなかったのだ。

そこに変化をもたらしたのが、同年に出された労働省(当時)の通達である。子供の深夜労働について、テレビ出演をするアイドルや歌手を「労働者」として認めず、労基法を適用しないという内容で、ジャニーズ事務所への労基署の調査後、1988年7月に出されている。

これによると、光GENJIの中学生メンバーが深夜にテレビに出演できない事態を解消するため、(1)相当の人気がある(非代替性)、(2)時間給でない(非時間給)、(3)個人事業主として独立した事業主体である(非拘束性)、(4)雇用契約でない(非雇用契約)、これらのすべてが認められる場合は「労働者」と判断されず、労基法による規制の対象外となると規定されたのである。

この条件を満たして判断を受ければ、中学生だろうと20時以降も働かせることが可能になった。過去に適用された事例として、光GENJI、SMAP、SPEED、モーニング娘。などがあるという(梅田康宏、中川達也『第2版よくわかるテレビ番組制作の法律相談』より)。これらのアイドル・歌手グループの一部メンバーは中学生や小学生の時点でもミュージックステーションなど夜の生放送の番組に出演していたが、この通達の適用となっていたようだ。

構造改革特区から労基法の解釈変更へ

ただし、この通達は誰でも適用されるわけではない。1999年12月に、大手プロダクションのホリプロに所属する十五歳の女性タレントが毎日放送の深夜ラジオ番組に出演したことで、ホリプロと毎日放送の社員が労働基準法違反で書類送検されるという事件が起こっている。2000年には国会でも議論され、当時の労働基準局長の発言によれば、彼女は「売り出し中」だったから、通達の適用にならなかったのだという。

このように、光GENJI通達で一部が規制緩和されるも、対象とならない芸能人との不明瞭な差は問題となっていた。

さらに不公平さを感じていたのは、演劇界だった。カーテンコール時点で深夜になってしまう演劇においては、重要な役割を果たす子役が20時までに仕事を終えて、最後まで舞台に残れないという不満があった。

演劇子役では、芸能人通達における「非代替性」が認められなかったのだ。そこで、横浜市と日本演劇興行協会が、小泉政権下の構造改革特区の一つとして、22時まで就労可能時間を延長する「モーニング娘。特区」を提案した。横浜市において労働基準法の規定を緩和し、児童の深夜労働を可能にしようというものだ。

しかし、当時の坂口厚労大臣は慎重な姿勢だった。労働基準法の緩和は一律であるべきであり、特区にはふさわしくないと主張したのである。その結果、2005年1月1日から、労基法の「解釈」を一律に変更し、61条5項の「厚労大臣が認める場合」を「演劇の事業」において「演技を行う業務」として、中学生以下でも21時までの労働を認めることとなったのだ。

その後、それが歌手などにも拡大して運用されるようになったものと考えられる(この経緯については、以下のブログを参照。小林利明「エンタテインメント業界の労働法~演劇子役の悲哀~」http://www.kottolaw.com/column/000893.html)。

おわりに

このように、18歳未満や中学生以下、13歳未満の子供については、80年代からの規制緩和で深夜労働が徐々に可能になっていった。だが、今回のような労働基準法違反の児童労働が大手制作会社のもとですら起きてしまうようでは、緩和にも慎重にならざるをえないのではないだろうか。

何も労働法は、子供のチャンスを奪おうというのではない。古い因習にとらわれたルールを作っているわけでもない。子供たちには就学時間や、健全な成長のための睡眠時間が求められる。そうした配慮のために、つまりは子供たちの「将来」のために、一定の規制が不可欠だと考えられてきたのだ。

中には親の期待や周囲の環境に流されて、過酷な労働に巻き込まれている児童もいるのではないだろうか?

大人たちに「働き方改革」が求められている中で、規制緩和が進んでいる子役の状況も見直される必要があるだろう。

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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