保育園の園長や介護の施設長は、なぜ過重労働になるのか?

11月21日、野党4党によって長時間労働規制法案が罰則規定を強化して再提出された。昨年12月に過労自殺した電通の新入女性社員(当時24)が労災認定されて以来、過重労働を防止するための取り組みが各所で続いている。

だが、労働相談の現場では一向に過重労働が減る気配を見せていない。特に最近深刻化しているのは、介護・保育業界の管理職の労働者たちである。

管理職の労働時間が長いことは以前からの問題だが、保育園の園長先生や介護施設長は、これまでとは違った状況で長時間労働を強いられている。

そこで、本記事では介護・保育業界の「管理職」の実態を紹介しながら、この問題の背景と対処法を紹介していこう。

「管理職=残業代なし」の多くは、違法

初めに、多くの人が持っている「管理職は残業代が出ない」という一般的なイメージとは裏腹に、実は、ほとんどの管理職に対して企業は残業代の支払い義務を負っている。

残業代が発生しない管理職のことを、法的には「管理監督者」といい、ほとんど経営者と同じように労務管理を行い、他の労働者の労働条件や労働時間を決めるなど、他の労働者の仕事を監督する立場にある人のことを指す。

「管理監督者」に当てはまるかどうかは会社ごとの「役職名」ではなく、具体的な仕事内容や権限から決まってくる。主なものは次の通りだ。

1、経営者と同じように時間に捉われず職務を遂行しなければならないような立場

2、従業員を採用したり解雇したり、部署を作ったりする重要な事柄を決められる権限がある

3、労働時間が決められておらず、自分に労働時間に裁量がある

4、賃金等がその地位にふさわしい待遇

これらの条件を満たすことは容易ではない。1~4の基準を満たしている「管理職」が、みなさんの職場にどれだけいるだろうか? 実際には「管理職だから」という簡単な理由で残業代は支払われない事例が少なくないが、その多くが違法状態にある。

では、介護・保育業界の「管理職」は具体的に、どのような扱いを受けているのだろうか。介護・保育ユニオンに寄せられた相談ケースから見ていこう。

介護施設の施設長、過労死基準の残業でも、残業代ゼロ

Aさん(40歳、女性)は介護職員として8年間働いてきた。キャリアアップのために株式企業の運営するデイサービス(高齢者通所介護施設)で施設長として働くことを決めた。面接の段階では好印象を持っていたAさんだったが、赴任してすぐに自分の前の施設長が過労のためうつ病になり働けなくなったことを知り、つよい不安を覚えた。そして実際に、考えていた以上の過重労働に愕然とすることになった。

主な原因は、スタッフがたりないことだ。施設の職員は、正社員としてAさんが1人、それ以外はアルバイト2人。アルバイトの出勤は少なく、結果としてほとんどAさん1人で業務を回さなければならなかった。

それにもかかわらず、利用者は1日あたり、およそ昼10人、夜10人もおり、一人一人の送迎もAさんがやらなければならなかった。利用者は全部で80名おり、一人一人の記録も彼女がとる。不定期で本部からの応援社員が来ていたというが、業務は明らかに過多だった。

Aさんは入社した最初の一か月を除き、毎日午前7時~午後8時までの13時間働いた。休憩は、もちろんゼロだ。

月の残業時間は90時間程度で過労死基準(月残業80時間)を超えるが、残業代は一切出ず、一律の月給27万5千円。それでも施設長(管理職)だからと我慢した。しかし、体がもたず、体調を崩すようになり、介護保育ユニオンの相談窓口を訪れた。入社から9か月目でダウンだった。

前述の「管理監督者」の基準に照らせば、Aさんの違法性は明らかだ。

Aさんの職務内容は、介護現場でサービスを提供することで、労務管理などは職務とされなかった。Aさんには職員の採用権限もなければ、労働時間の裁量もなく、有給すら使えない状態だったのだ。

園長先生なのに、決済権限は5千円まで

Bさん(45歳、女性)は、大手企業の経営する保育園の園長として、今年4月に赴任した。就職は保育専門の人材紹介会社を通して行われた。人材紹介会社は、Bさんに、豊かな経験を生かして、大手の新設の保育園の立ち上げに園長としてかかわるよう勧めたという。Bさん自身も大手なら安定しているだろうと思い、入社することを決意した。

ところがその言葉とは裏腹に、入社前はつくといわれていた管理職に対する手当が支払われず、そのことを求めても答えを先延ばしにし続ける会社の態度に不信がつのっっていった。

Bさんの労働時間は非常に長く、午前9時から午後6時が定時とされていたが、午前8時過ぎには出勤し、およそ21~22時まで働いた。休憩時間はほぼ取れず、月の残業時間はやはり過労死基準80時間を超え100時間以上になった。いつ倒れてもおかしくない労働時間である。

それだけ働いても給与は30万円程度。時給換算でちょうど1000円だった。

また、Bさんの場合、管理監督者の判断基準に明白に違反している点があった。園のお金を5000円までしか使えなかったのだ。それを超える物品の購入などはすべて本社の決済を取ることになっていた。職員の採用や人事考課の権限はもとより、採用面接することすらも許されなかった。

こうして労働条件がどうにもならず、Bさんは介護・保育ユニオンへ労働相談訪れたのだった。

「善意」につけ込む介護・保育業界

介護・保育業界における違法な「管理監督者」の事例を見ていくと、日本の産業全体と比較しても、非常に「稚拙なやり方」が多いことに気が付く。それにもかかわらず、介護・保育業界で違法がまかり通るのには、業界独自の「ケア労働」だという事情がある。

介護士や保育士が相手にしているのは、老人であり、子どもたちだ。労働者の多くは「利用者のためなら、多少自分が苦労しても尽くそう」と考えている。「管理職」に抜擢されるような方であれば、なおさらだろう。この働く人たちの「善意」が悪用され、法律違反が横行しがちなのである。

実際に、自分の労働条件よりも「利用者の受けるサービスの質」を気にして労働相談に訪れる方は少なくない。人員が足りないため、ネグレクト状態の子供がいる、職員がイライラして老人をぞんざいに扱ってしまっている、といった具合だ。

そうした相談を受ける中で、実は、「人手不足の穴は自分が埋めている」「サービス残業が蔓延している」などという実態が明らかになってくるわけだ。

どう対応すべきか

では、このように「善意」に依存している介護・保育の管理職は、どのように過重労働の状況を変えていけばよいのだろうか。

法的権利行使は「利用者のため」にもなる。この「考え方」の転換が、介護・保育の労働相談から見える改善の決定打である。

なぜなら、法律上の知識の周知を図るだけでは、現実の人手不足に直面する労働者、とりわけ管理職は「利用者のために」と考えてしまい、なかなか権利行使に進むことができないからだ。

考えてみれば、園長や施設長が身体を壊し、精神を病むような職場環境では本当に良い介護や保育は実践できない。

現場からの声が重なれば、良い保育、良い介護へと職場や業界が動くことになるはずだ。しかも業界を深く知る、園長や施設長が法律上の権利行使をはじめれば、一層状況の改善が進むだろう。

そもそも、労働基準法は労働者の健康や生活を最低限守るための法律だが、園長や施設長が違法な形で管理監督者とされ続けることは、ほぼそのまま過重労働の横行につながる。法律は、労働者を守ることだけではなく労働者の健康を守ることで職場環境をも維持しているのだ。

末尾に外部の無料相談窓口を記載しておいた。ぜひ活用し、権利の行使に役立てていただきたい。

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