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マスク着用と外出自粛でわき起こった「美容整形でお直し」ブームの行方。好機なはずが、意外な誤算も……。

近藤須雅子美容エディター・コラムニスト
治療跡が目立たないマスク生活はチャンス!?(写真:WavebreakMedia/イメージマート)

 昨年2月、リモートワークで在宅勤務の友人が増えるにつれて、Zoom宴会で盛り上がるようになった話題が「お直しするなら、チャンスじゃないの♪」だ。この場合の「お直し」とは、美容皮膚科や美容外科などのクリニックでシミやシワ、たるみなどを治療すること。本人が自分本来の顔と考える状態、つまり20代、30代の頃の顔へ原状復帰するための「お直し」だ。

 なにしろ、頬のあたりに小さな絆創膏を貼っていたり(レーザー照射後の処置)、法令線の位置に針跡(ヒアルロン酸やコラーゲンの注入跡)があれば、女同士なら何をしたのかは一目瞭然。「整形したな」と悟られる。そのため通常ならGMや年末年始が、術後の腫れや内出血などが続くダウンタイムを誰にも会わずこっそりやり過ごせる、お直しのハイシーズンだ。けれど、在宅勤務中にすませれば、大切な休日を無駄にしなくていい。

お直しブーム自粛を日本美容医療協会が“お願い” 

 誰しも(でもないか)考えることは同じで、早くも3月には一部で「お直し」ブームがわき起こった。それもレーザー治療や注射で注入といったソフト施術だけでなく、フェイスリフトや眼瞼下垂など、かなりハードな手術の希望者が急増。思いがけない展開に、4月3日には公益社団法人・日本美容医療協会(JAAM)が、「美容医療は不急の医療であり受診は自粛して」との“重要なお願い”を発表したほどだ*1。

 当時は、感染防御ガウンはもちろん、消毒液や医療用マスクまで不足していた時期。貴重な医療資源を美容医療施術(ごとき)で消費すべきではないという世間の風に加え、美容外科医からも「備蓄の消毒用アルコールやガーゼを、新型コロナの治療にあたっている医療機関に提供すべき」(高梨真教氏のFacebookより)との呼びかけもあった。はたしてステイホーム期間には、多くのクリニックが休診や時短診療へと切り替え、お直しブームはいったん、カームダウンする。

初の自粛明けからは美容熱はじわじわ再燃へ

 とはいえ、ステイホーム期間が明けると、休診していたクリニックも診療を再開し、お直しブームはじわじわと再燃。個人的には、この頃から女性誌の『美容クリニックでのお直し企画』の原稿依頼を毎月のようにいただき(全部、受けたわけではありませんが)、テレビでも美容整形ネタのバラエティ番組が目立つように。あらためて美容モチベーションの高さに驚かされた。

 一方、当の美容クリニックでは、もともとヘビーな手術は限定的なため、最初の波が収まると手術の件数は減少傾向に。さらに定期的に来院して高額施術を受けるロイヤルカスタマーのシニア層と海外富裕層(主に中国人)の来院が途絶えたこともあり、一時は厳しい状況に陥るケースもあった。インバウンド頼りの経営が厳しいのは、美容医療でも同様だ。

アジア富裕層の手術希望者は洗練された日本を目指す

 ちなみに美容外科手術は韓国が先進国とのイメージがあるが、手術件数において日本はアメリカ、ブラジルに次いで世界第3位。アジアでトップ10に入っているのは3位の日本、7位のトルコ、9位のインドで、一般的な印象とは違う。*2

 確かに顎やエラの骨切りといったハードな手術の術数は韓国に多く、優秀な骨切りドクターが多いと言われるが、韓国風の“いかにも直しました”的な仕上がりを嫌う人はアジア富裕層に多い。その点、手術跡を悟られないナチュラルな仕上がりは日本の得意とするところで、日本への美容メディカルツーリズム客は近年右肩上がりだ。こうしたニーズに応え、有名クリニックの多くが中国語の通訳を兼ねる看護師やスタッフを置くようになっている。

誤算や想定外もいろいろと。賞味期限の確認も忘れずに

 閑話休題。現在は徐々に国内シニア患者は戻っているが、まだまだ元どおりとはいえない状態。それだけに30~40代読者が多い女性誌のお直し企画ラッシュは、美容クリニックにとっては恵みの雨かもしれない。

 一方、「今こそチャンス♪」との企みは、蓋を開けてみれば、想定外の事態の連続だ。

 シミ治療のダウンタイムは大きめのマスクをすることで、かなり楽にクリアできるのは目論見どおり。けれど、実際のシミはマスクでカバーされない位置に多いというのは盲点だった。

 また海外からの受診者が減りシニア層も感染を怖れて来院をひかえているぶん、有名クリニックや人気ドクターの予約が取りやすい、というのは予想外のメリット。けれど、シワ取りで人気のボトックスやヒアルロン注射は、徐々に効果が薄れるので、受診のタイミングが重要に。緊急事態宣言が解除されたとはいえ、まだまだ自粛生活が続く今、自由に人と会えるようになった頃には効果が薄れ、賞味期限切れになっているかもしれない。

 となると、治療を計画している方は、感染収束予想と突き合わせ、受診時期もじっくり検討した方がよさそうだ。特に美容医療初心者の皆さん。リモート会議で自分の老け顔に驚き、初めてクリニックの扉を叩く男性も増えているが、美容クリニックは美容室やエステとは決定的に違う。クリニックで行われるのは、「美容」目的とはいっても、まぎれもなく「医療行為」。費用対効果だけでなく安全性を優先し、慎重に行動してほしい。

美容エディター・コラムニスト

美容・ヘルスケアを中心に、容姿・モード・肉体をめぐるモノやコトがテーマです。『VOCE』(講談社)、『Precious』(小学館)等、女性誌を中心に活動。主な著書に、『9割の人が間違っている化粧品「効きめ」の真実』、『プチ整形の真実』(講談社)等。

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