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エステでのHIFU施術が本格禁止へ 美容施術のコスパ計算の正解は?

近藤須雅子美容エディター・コラムニスト
(写真:イメージマート)

 若い女性を中心に、“小顔施術”として人気の高いHIFU施術。ある程度の痛みを伴うとはいえ、メスも注射も使わず、すぐにメイクができ、エステでは数千円から受けられることから、「手軽でラクに小顔美肌になれる最新トリートメント♪」と、絶大な人気を誇る。

 その一方で、10年近く前から顔面神経麻痺や熱傷などの事故が報告されており、今年3月29日には消費者庁が実態調査の最新結果を発表。これを受けて消費者安全調査委員会が厚生労働省消費者庁に監視強化を提言するにいたって、エステでの施術が規制される方向へ動き出している。ホットペッパービューティーなど、エステ紹介の情報サイトやフリーペーパーも2024年からエステでのHIFU施術の掲載禁止を決定した。

 こうした動きに、HIFU施術を主力メニューとするサロンに激震が走っている。対照的に、主な利用者である一般女性には、エステでの施術規制はもちろん、HIFUのリスク自体、いまだほとんど知られていない状態。「頬がこけたり、かえって老けるみたいだよ」「体験した友達が、肌が硬くなったって言っていた」等、マイナスの噂がちらほら聞かれるようになってきたくらいで、このギャップの大きさには戸惑ってしまう。

皮膚の奥深くに効かせるHIFU、

そもそもはガン治療からの展開

 ちょっと話を急ぎすぎたよう。

 まず、『HIFUとはなんぞや』から仕切り直そう。

HIFUとはHigh Intensity Focused Ultrasound=高密度焦点式超音波の略で、レンズで焦点を絞るように超音波を一点に集めて照射し、狙ったエリアを加熱する技術。この技術を使ったHIFU機の施術自体もHIFUと通称されている。マシンの外見や施術法などが似ていることからレーザー治療器と誤解されがちだが、レーザーではなく超音波。もともとガン治療などに用いられていたものだ。

 ガン治療ではガン細胞がターゲットだったが、美容施術では肌のハリや弾力感と深く関わる真皮層やスマス筋膜、また瘦身目的では皮下の脂肪層に照準を合わせる。HIFUの熱エネルギーで適度なダメージを与えて組織の再生(たとえばコラーゲン生成等)を促し、肌のたるみをキュッと引き締めたり、皮下脂肪を減らして小顔や痩身を目指す。

エステを中心にやけどや肌トラブル、

顔面神経を痛める事故報告が

 皮下組織に焦点を合わせるため、適切に使用すれば肌表面に影響をほとんど与えず、術後は軽い腫れや赤みが残る程度で、一見、何もダメージを受けていないように見える。そのため、“肌に優しい安全な施術”と思っている女性は多いが、もちろん皮下組織にダメージを加えることで再生を促しているわけだ。当然、ダメージを的確にコントロールできなければ、組織を必要以上に傷つけ深刻なトラブルにつながりかねない。

 消費者庁には美容施術としてHIFUが浸透してきた8年前から、主にエステでのHIFU事故が報告されており、なかには顔面神経の障害といった深刻なケースもある。2015年以降、主要エステティック団体は自主的にHIFU施術を禁止しているが、それでも事故の報告は増える一方。2021年からはまさに急増だ(グラフ①)。

グラフ① HIFUにおける事故報告数の推移(消費者庁の発表より)
グラフ① HIFUにおける事故報告数の推移(消費者庁の発表より)

事故の9割以上が女性、7割が顔

典型例は30代女性の顔トラブル

 事故の内訳を見ていくと、2022年5月までに消費者庁に寄せられる報告の97%が女性によるもの(グラフ②)。なかでも30代が突出している(グラフ③)。

グラフ② 事故件数の性別(2022年5月までの110件)
グラフ② 事故件数の性別(2022年5月までの110件)

グラフ③ 年齢別の事故件数(2022年5月までの110件)
グラフ③ 年齢別の事故件数(2022年5月までの110件)

具体的な内容は、熱傷(やけど)や色素沈着などの皮膚障害が大半。顔面の麻痺や引き連れ等の神経・感覚の障害も少なくない(表4)。

表④ 事故件数
表④ 事故件数

事故の登録件数は7年間で135件。ただし、これはあくまでも消費者センターなどに寄せられた件数だ。トラブルが起きても、消費者センターに連絡されなければ当然ながらカウントされない。どこに相談すればいいのかわからないままの人も多いはずで、実際の件数はこの数倍になると考えられている。

神経の位置や皮膚構造に

無知な施術が横行している

 HIFUをはじめ医療用レーザーなど、美容医療マシンの第一人者、クロスクリニック銀座・石川浩一院長によると、

「美容医療用のHIFUでもウルセラに代表される高機能で安全性に優れた機種もある一方、機能が劣る安価な機種も多くあります。クルマと同じで高級車もあれば、小型車もあるし、“医療機器ではない”HIFUもあるのです」

 医療機器ではない?

 「エステ等で使われているHIFUは、医療機器ではなく美顔器の一種。医師や看護師ではないエステティシャンや一般の方は、クリニック用の医療HIFUを使えません。エステやセルフエステなどで使用されているHIFU機は、事故を防ぐためにパワーを低く調整してあるはずです」

 照射ターゲットのすぐ近くには神経や血管が走っており、医学的な解剖知識はもちろんHIFUのメカニズム等の理解は必須。また、HIFU機自体の性能も重要だ。角質層の厚みは0.01~0.03mm、表皮層は0.1~0.3mm、真皮層は1~3mmとごく薄いため、ミリ以下で正確に焦点を定め照射できる高い機能が求められる。

 消費者庁の調査では、エステで使われているHIFUは医療レベルのハイパワーであったり、逆に正確に照準を定める機能が低かったり、と不適切なマシンが少なくないとういう。また、施術者のHIFU理解が低く、知識や技術が不足したまま行っている例も多数確認されている。たとえば目や口の周りは比較的浅い部分に神経が走行しており、慎重に照射すべきだが、エステで「目もとのシワやほうれい線はしっかりケアしますね♪」と、むしろ重ねて照射する等、危険な施術も珍しくない。

美容家電としてのHIFU美顔器や

セルフエステでは、さらに不安が

 エステティシャンによる施術以上に不安要素が多く、実態がつかみにくいのが、セルフエステや自宅でのセルフケアだ。消費者庁の注意勧告を受けて販売店は激減したとはいえ、家庭用HIFU美顔器(11月末日現在、楽天市場ではFIHUと銘打った美顔器が10品以上販売されている)があれば、セルフエステ(サロンやスポーツクラブに美顔器等が用意されていて、自身で施術するシステム)や自宅で自由に使用できる。ほとんど知識も技術もないまま毎日のように(医療機関では3か月以上間隔を空けるのが一般的)、気になる部分に繰り返し照射する可能性も高く、低出力のマシンでも不安は残る。

 ローラー美顔器ReFaや電気刺激で筋肉運動を促すSIXPAD等で知られる美容機器メーカーMTG上席執行役員 本橋良さんは、「メーカーとして、HIFUは自宅で誰もが安全に使用できる美容機器の範疇を越えていると考えています。ですので、当社では生産していませんし、発売予定もありません」と、家庭用HIFU美顔器に否定的だ。さらに「HIFUに限らず、医療用と一般用の区別や差別化があいまいで、家庭用にはリスクが高い美容機器が発売されていることもあります。他社製品とはいえ、問題意識を持っていますし、業界として自主的に安全基準を定めるよう働きかけているところです」と言う。それでも、製造元さえ不明(説明文の日本語が極端に不自然なことから、海外製と考えられる)な製品が大半で、まだまだ混乱は続きそうだ。

エステでの施術広告禁止で

HIFUリスクは一件落着?

 こうした状況の中、冒頭のとおり、消費者庁はHIFU施術を医師などに限定する法規制を提言。ホットペッパービューティー等の情報誌ではエステのHIFU施術広告の掲載停止が決まっている。これでエステでのHIFU事故は激減する見通し──と言いたいところだが、そう一筋縄ではいかないようだ。

 情報誌が停止したのは、あくまでもエステのHIFU施術広告であって、施術自体の停止や禁止ではない。また消費者庁や厚労省からの通達も、注意喚起や自粛勧告であって、法律でエステでの施術が禁じられたわけではないのだ。

 HIFUを主力とするサロンに今後の対応を伺っても、「ホットペッパービューティーから掲載禁止の連絡が来たときはびっくりした。今後はインスタグラムや TikTokといったSNSで集客していく予定だ」、「HIFUが掲載中止になると、どこのエステでHIFUができるのかわからなくなって、お客さんが困るだけ」等と施術をやめるという回答はほとんどなく、「実態が見えにくくなるだけ」という意見が大勢だ。

施術者の倫理観と良心頼みの

現状には、ダークな無法地帯も

 そもそもエステのHIFUだけが危険で規制すべき、というのは利益を独占するための職業差別からの発想だという声もある。複数のエステを経営する男性は「エステでの事故総数は多いとはいっても、施術数自体が圧倒的に多いのだから、事故率はクリニックのほうが多いんじゃないですか。HIFUを扱うにあたって僕たちは機械のメカニズムも勉強し、エステティシャンの指導も徹底している。たいていの医者は機械の仕組みもわかっていないし、メーカーのマニュアルどおりに施術しているだけでしょう。厚労省がお仲間の医者の利益を守るため、エステを締め出そうとしているとしか考えられない」と憤りを隠さない。

 確かに、ほとんど診察もせず看護師にHIFU施術を丸投げする医師もいれば、的確な施術で高い効果を引き出す熟練エステティシャンもいる。ただ、渋谷を数分歩いているだけで「1時間HIFU打ち放題1万円」といったホントなら危険、ウソなら詐欺まがいといえる看板を出すサロンを何軒も見かける現状では、なんらかのルール作りは必要だろう(中国では医者や看護師以外の施術は禁止される方向に進んでいるという)。

施術費はHIFU機自体の価格も反映

あまりに安すぎる施術には慎重に

 ルールが整うまでは、HIFUを受けるなら、リスクやダメージを理解したうえで、信頼できる施術者を選択するしかない。施術費などの相場観をつかんでおくのも、ひとつの助けになるだろう。

 たとえば、アメリカFDA(日本の厚労省のような政府機関)が効果と安全性を認めている上位の美容医療用HIFUの場合、1回使い捨てのカートリッジ(正確に焦点を絞るためのもの)だけで数万円。マシン本体の価格も高額だし、治療費は1回30~40万円が相場だ。かなり安価な韓国製マシンの場合でも治療費は15~20万円が中心。これより、あまりにも安すぎる場合は危険性と効果のどちらか(または両方)を疑ってもいいだろう。

●消費者庁がHIFU事故について警告。
簡単にまとめた動画がこちら↓
https://www.caa.go.jp/policies/council/csic/report/report_022/
●消費者庁によるHIFU事故のレポート
https://www.caa.go.jp/policies/council/csic/report/report_022/assets/csic_cms101_230329_01.pdf

美容エディター・コラムニスト

美容・ヘルスケアを中心に、容姿・モード・肉体をめぐるモノやコトがテーマです。『VOCE』(講談社)、『Precious』(小学館)等、女性誌を中心に活動。主な著書に、『9割の人が間違っている化粧品「効きめ」の真実』、『プチ整形の真実』(講談社)等。

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