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森保監督続投へ。カタールW杯で、日本サッカーは本当に進化したのか?

小宮良之スポーツライター・小説家
グループリーグでの久保建英と鎌田大地(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 12月5日、アル・ジャヌーブ・スタジアム。クロアチアとのPK戦では、ピッチ脇にいたフォトグラファーたちが手ぐすねを引いて待っていた。

<PK戦だけに選手全員が肩を組み、一体感が生まれ、ひと蹴りごとに感情を露わにする>

 わかりやすい1枚をイメージした。しかし、とんだ肩透かしを食らう。一人一人が思い思いに喜び、悲しんでいたものの、全員が一つになって喜怒哀楽を共有する構図にはならなかった。2010年南アフリカW杯の時のようなギリギリ感は生まれていない。

 それは、そこに立つ選手たちの多くが、すでにそれに匹敵する緊張感のある舞台に立っていたからか。森保一監督が率いた代表の実像は、そこにあるのだろう。

 カタールW杯で、日本サッカーは進化したのか?

森保ジャパンが残した結果

 森保ジャパンが残した結果は、掛け値なしに素晴らしい。W杯優勝国であるドイツ、スペインを倒して限りなくベスト8に近づいたことは、控えめに言っても快挙と言える。批判する余地などない。

 しかし、中身の検証は必要だ。

 森保監督は、自らが選んだ選手たちの多くの力を引き出している。前田大然、浅野拓磨の二人は、まさに申し子だった。前田は常軌を逸したような回数のスプリントをかけ、相手をとことん消耗させた。そのバトンを受けた浅野が、献身的プレスを継承しつつ、何度も裏を狙って走り、得点につなげている。二人とも器用な選手ではなく、ポストワークは目を覆うほどの技量だったが、最高のチームプレーヤーだった。

 老練な選手で組んだバックラインも機能していた。権田修一、吉田麻也、長友佑都、酒井宏樹は経験豊かな振る舞いで、要所を押さえた。そのおかげもあってか、若手の板倉滉は目覚ましいディフェンスを見せたし、冨安健洋もコンディションの問題を抱えながら堅牢さを示した。中盤も遠藤航は攻守の軸だったし、守田英正、田中碧もそれぞれ持ち味を出したと言える。

 しかし、「守りありき」の戦いが土台だったことで、お尻は重かった。攻撃は「個」に頼りきり。ボールを高い位置へ運び、そこから崩しに入るコンビネーションは捨てていた。

 その証拠に、ボールを預けられた形のコスタリカ戦は、攻撃をほとんど生み出せていない。チームとしての意思疎通がまるでないだけにバラバラ。トップに抜擢された上田綺世は、裏にボールを呼び込もうと走ったが、そこには出てこない。鎌田大地も、珍しいほどコントロールやパスのミスを連発。攻めることを求められたとき、無様なほど手立てがなかった。

 それはチームの本質を映していた。

活躍できた選手と悔しさを抱えた選手

「今日の交代は予想していなかったので、個人的には悔しかったです。ボールが足元に入ったら、とられる感じはしなかったので」

 スペイン戦後、先発したが前半で下げられた久保建英は、正直な気持ちを吐露している。ドイツ戦に続いて、消耗戦を行うための捨て駒にさせられていた。その結果、「前半交代で、何もできていない」と批判されるのは、本意ではなかっただろう。

「前半は捨てたような格好になりましたが。ドイツ戦と違い、やるべきことはやれた気がします。やっぱり、前半で交代させられないような結果を出すしかないんだと思います。体は切れていたし、これからという矢先だっただけに悔しくて」

 久保は決意を語っていたが、高熱でクロアチア戦を欠場し、呆気なく大会は終わった。レアル・ソシエダでのプレーを考えたら、もっと怖さを与えられただろう。然るべきポジション、役目は与えられなかった。

 森保ジャパンは、久保の才能を生かせていないのだ。

「多少なりとも、悔しい思いを抱える選手、活躍できて嬉しい選手がいて、みんなそれを見せずにチームのために戦った。W杯だからこそ、やっていたというか」

 鎌田はそう洩らしていたが、真実の言葉だろう。一部の選手を犠牲にして成立していたサッカーだ。

ボールを持たないサッカーで「新しい景色」を見られるのか

 森保監督は、欧州のトップクラブの監督が引き出している日本人アタッカーの力を最低限しか引き出せなかった。それが事実である。「石橋を叩いて渡る」迎撃戦は、選手の奮闘によって成功を収めたが、結果以外に残ったものは少ない。

 堂安律はスペイン、クロアチア戦で得点につながるプレーを見せ、チームMVPに近い輝きだった。三笘薫もジョーカーとなって、活躍度としては一番目立っていた。そして鎌田もドイツ戦では金星の殊勲者になった。

 しかし3人とも犠牲を払いながら、限定的な活躍だ。

「ボールを持つ」

 それが土台にないから、どうしても空回りした。

 我慢比べの戦法は、2010年の南アフリカW杯で決別したはずだった。それでは、限界があったからである。ベスト4に勝ち上がったクロアチア、モロッコなどは堅守が土台だったが、いつでも攻めに転じられる陣容を組んでいた。

 日本の選手たちは、すでにプレミアリーグ、リーガエスパニョーラ、ブンデスリーガ、リーグアンなどトップリーグのクラブの主力となっている。欧州チャンピオンズリーグ、ヨーロッパリーグと欧州カップ戦での活躍も目立つようになった。かつてない欧州組の隆盛だ。

 にもかかわらず、森保ジャパンの戦い方は旧態依然だった。

 結果は称賛に値する。しかし、それは進歩や進化とイコールでは結べない。ロシアW杯のベルギー戦の方が、日本サッカーは組織として攻守の着地点を見出し、個人が躍動していた。カタールW杯後も、その試合が最高到達点だったことは変わっていない。

「新しい景色」

 代表チームはそれをスローガンの一つに掲げたが、多くの選手はすでにその景色を日常的に見ている。本来、力む必要などはない。

 PKで敗れたクロアチア戦は、勝てる試合だった。そのもどかしさがあったからこそ、ギリギリ感が出なかったのではないか。焦りで追い込まれ、空回りした。「PKの技術が低かった」という結論で、そこを掘り下げても、本質からは遠ざかるだけだ。

 繰り返すが、勝てた試合だった。

 日本サッカーが後退しているとは思えない。選手の成長は目覚ましいと言える。しかし結果だけでジャッジした場合、とんでもない方向へ舵を切ることになる。

 森保監督続投で本当に良いのか?

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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