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カタールW杯、森保監督だけがつかみ取れる「日本サッカーの明日」

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

サッカーは生き物

 森保一監督は調子を落としていた大迫勇也の復調を喜び、再び代表招集する腹積もりだと言われる。2018年のロシアワールドカップ後、新体制発足から大迫をエースとして扱ってきただけに、容易に手放せないのだろう。Jリーグでは、今もポストワークはトップレベルなのは間違いないが…。

 4年の歳月は長い。

 多くのクラブが、代表が、選手たちが時間の流れの中で革新を迫られる。どんなプレー様式も爛熟した後、必ず退行する。隆盛と没落、成長と低迷、一つのサイクルがあるのだ。

「サッカーは生き物」

 そう言われるが、一つの真実と言える。

 かつて大迫、長友佑都、柴崎岳などは輝きを放っていた。しかし、4年前と同じではない。その4年でチームをアップデートできなかった重い事実が、のしかかっているのだ。

西野監督の成功

 筆者は、2002年の日韓W杯から、ドイツW杯、南アフリカW杯、ブラジルW杯、ロシアW杯と5度のW杯を現地取材してきた。一つだけ心に決めているのは、大会開幕までは辛らつなほどに批評し、できる限り最善を求めても、いざ現地に入ったら好意的にチームを追う、という姿勢である。さもなければ、W杯という祭典がつまらなくなる。

 だからこそ、ロシアW杯の前には選手からの求心力を失っていたヴァイッド・ハリルホジッチ監督への批判を強めた。解任に至ったのは必然で、結果論だとしても、西野朗監督が就任したことでチームは一枚岩になり、歓喜のベスト16進出を果たした。ベルギー戦は日本代表のW杯史上ベストゲームだったと言えるだろう。

 では、森保ジャパンはどうか?

 もはや、解任を叫ぶタイムリミットは過ぎた。いや、後任を据えられる強化部があって準備をしているなら、それも一つの手だろう。しかし、その気配は見えない。

 つまり、森保監督が采配を振るのだろう。どれだけ不人気で、どれだけサッカーの方向性が見えず、どれだけ面白みがなくても、それは変わらない。彼が決断したチームが勝ち筋を見つけるしかないのだ。

 大会まで3カ月を切ったわけだが、提言だけはできる。

4年で変わった選手たち

 4年の歳月で、多くの選手は少なくとも変化してきた。同じ選手はたった一人もいない。例えばヨーロッパでプレーする選手の数は、目に見えて増えた。それは日本サッカー全体としては緩やかであっても成長している証だろう。

 しかし森保ジャパンは、サイズダウンした印象がある。ベテランになった選手に縋り、台頭した選手の良さを生かせていない。どうにか、選手のポテンシャルの高さでアジアを勝ち抜いたが、輝きはなかった。4-3-3への変更を称賛する声もあったが、格下相手に守備を分厚くしただけ。歳月の変化の中、次の時代を感じさせるような発想の戦い方は編み出せていない。

 選手のほうが、チームの枠組みをはみ出し、成長を遂げている。

 4年が経って、鎌田大地、三笘薫、久保建英、堂安律などは、ヨーロッパでの戦いを重ねる。彼らは技術とひらめきとスピードをコンビネーションで融合させ、敵を脅かすプレーができる。彼らをかけ合わせることで、強力な武器になるだろう。南野拓実、古橋亨梧、上田綺世のいずれかのストライカー能力とフィットできれば、世界の強豪にも太刀打ちできるはずだ。

 例えば、久保が新たに入団したレアル・ソシエダは、4-4-2で中盤はダイヤモンド型という攻撃的なシステムを採用している。偽9番のように久保を2トップの一角に置き、絶えず流動的にボールに触らせ、攻撃のバリエーションを広げ、守備陣を崩す。左利き選手を多く配し、攻撃的キャラクターの選手を存分に生かした戦い方で、実に小気味よい。

 なぜ、森保ジャパンはこの発想で戦えないのか?

森保監督の決断

 無論、アグレッシブに強固に守ってカウンターを狙うという戦いを否定しているのではない。

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20220809-00309346

 例えばリーガエスパニョーラの開幕戦、ラージョ・バジェカーノはFCバルセロナを相手に5-3-2と防御ラインを敷いた。プレッシングでビルドアップをけん制しながら、リトリートでスペースを埋め、敵を通さない。そして2トップにはスピード、パワーのある選手を配置し、カウンターで脅かした。粘り強く、信念を持った戦いで、スコアレスドローに持ち込んだ。

 森保監督は「守りありき」で、フォーメーションは違っても、発想はこれに近いだろう。遠藤航のアンカー起用という答えの出し方は象徴的。サイドには南野、伊東純也という守備の強度のあるアタッカーを好んで用いている。

 しかし守備的に戦うとしても、どこか腰が据わっていない。南野が適材適所で持ち味を出せていないのは明白。もし守備的な戦いを貫き通すなら、原口元気や橋本拳人のように、完全に通路を塞げる選手を起用するべきだ。

 5バックも一計である。右から酒井宏樹、冨安健洋、吉田麻也、板倉滉、中山雄太というバックラインを組むことができたら、なかなかに堅牢堅固。高さにも強く、セットプレーの機会を得た場合、多くチャンスも生み出せる。

 ただ、森保監督も「守り重視」だと手持ちの選手が持ち味を出せない感覚があって、中途半端なチョイスになっているのではないか。

 日本サッカーが活路を開くには、攻撃的姿勢で挑むべきだろう。その中で、どれだけ守りで耐えられるか。そのために適材適所で選手の組み合わせを探るべきだ。

 4年前のサッカーをしても、日本は勝てない。世界のサッカーは、確実に進んでいる。ドイツ、コスタリカ、スペインを相手に、それぞれの試合でベストの布陣があるだろう。

 森保監督だけが、それをつかみ取れる。その選択は、日本サッカーの明日と同義語だ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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