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森保監督のメンバー選考、「入れるべきだった」選手はいたか?鎌田大地という希望

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:ロイター/アフロ)

 5月20日、サッカー日本代表の森保一監督は、6月の代表戦に向けて28人のメンバーを発表している。

「想定内」

 顔ぶれを見て、それが率直な感想だろう。ブンデスリーガ、シュツットガルトでシーズン新人王候補になる活躍をした左利きセンターバック、伊藤洋輝を初選出する一方、エースの扱いをしてきたヴィッセル神戸のFW大迫勇也を不調で外した。この二つはトピックだったが、それも驚きには値しない。

 もっとも、サプライズを与えるのが代表監督の仕事ではないだろう。

 その点、森保監督は選ぶべき選手を選んだと言えなくない。3、4人は疑問符がつく選考もあったが、そこは指揮官の自由裁量。過去、代表での実績のほうが直近のプレー内容よりも重く、「ポイント制」のようになっているのだろう。

 何かと批判を浴びる森保ジャパンだが、選手選考で色が出るのは当然だ。

合理的なメンバー選考

 例えば、鹿島アントラーズのFW鈴木優磨の選出を待望する声もあった。個人的にも、彼が持っている不敵さとクレバーさのバランスは魅力だと考える。しかしながら、鈴木が代表に選ばれないとおかしいか、と言うと、そこは沈黙せざるを得まい。

 FWでは、古橋亨梧、前田大然(セルティック)、上田綺世(鹿島アントラーズ)、浅野拓磨(ホーフム)が選出されたが、鈴木を入れるには誰かと入れ替える必要がある。古橋、上田は外せないだろう。前田もセルティックで結果を残し、ユーティリティ性も高い。残るは浅野になるが、スピードと献身は森保監督好みだ。

 客観的に入れ替えるなら、前田と浅野はタイプが似ているだけに、最後の浅野になるが、そこは監督の特権(サンフレッチェ広島時代からの教え子)だろう。

 そうやって整理していくと、”納得がいく”メンバー選考になっている。

 酒井宏樹(浦和レッズ)がケガで戦線離脱される中、オランダリーグ、AZで定位置をつかみ取った菅原由勢を久々に招集した。堂安律も東京五輪が終わった後はケガや不調でメンバーからも外したが、それによってコンディションを回復させてオランダリーグ終盤にゴールを量産し、必然的に復帰となった。

 後者には監督との不仲説が流れたが、そんな事実はなかったようだ。

原口を選べば、奥川は…。

 他にブンデスリーガ、アルミニア・ビーレフェルトの奥川雅也も、招集に値する活躍ぶりだった。ブンデス8得点は、バイエルン・ミュンヘンのドイツ代表トーマス・ミュラーと同じ。個人的には、そのドリブルは十分に武器になる、という意見で「代表に入れるべきでは」という考えだ。

 しかし、左のアタッカーとしてはストライカータイプで南野拓実(リバプール)がいて、三笘薫(サンジロワーズ)も崩し役からゴールも狙える選手として台頭しつつある。伊東純也(ヘンク)、久保建英(マジョルカ)、原口元気(ウニオン・ベルリン)もオプションとなるだろう。

 彼らを外さないと、奥川は入れられない。

 例えば原口は地味だが、戦術面のポリバレントさは捨てがたい選手だろう。ヨーロッパのスカウトも「監督が手元に置きたい選手」と口を揃える。攻撃だけでなく、守備での強度を出せて、サイドアタッカーだけでなく、ウィングバック、トップ下、インサイドハーフと複数のポジションで持ち場を守れるだけに、交代のカードとしても有力だ。

 誰かを立てれば、誰かは立たない。そのズレに不快感が出るのは、避けられない選考の本質だろう。擁護するわけではないが、森保監督はそれぞれのプレーを評価し、過不足なく選手を選出している。

 しかし、不人気の本当の理由は戦い方にあるのだ。

森保ジャパン、期待感の反動

 選出した選手をいかに束ねて、どんなプレーデザインで相手を打ち負かせるか。そのイメージが、今のところは伝わってこない。もしくは、期待感が乏しいのだ。

 森保ジャパンが発足した時、実は希望に満ちていた。長谷部誠、本田圭佑、香川真司が引っ張ってきた時代からメンバーを刷新。強豪ウルグアイを撃破するなど、若い選手が自由に躍動する気配があった。

 その期待感の反動で、今の風潮が生まれたのはあるかもしれない。

 森保ジャパンは試合を重ねるたび、慎重を期するあまりか、消極的なプレーが多くなった。これでチームがダウンサイズした。エース格に台頭していた中島翔哉の不調も影響したかもしれないが、意外性がなくなったのだ。

<負けを恐れる>

 その本音が透けて見えてしまった。創意工夫に欠け、「ハードワーク」というお題目に縋る。結果、固定化したメンバーの”老朽化”を引き起こした。大迫、長友、柴崎岳などベテラン勢のパフォーマンスが低下したにもかかわらず、切り捨てることができなかった。

 頑迷な指揮官の様子に、多くの人が辟易したのだ。

鎌田という希望

 どうにかワールドカップ本大会出場は決めたが、及び腰で戦った代償は高くついた。代表人気の低下さえ囁かれるほどだ。

 森保ジャパンは、このままワールドカップ本大会で惨敗するのか?

 希望はある。

 森保監督が、相手を嫌がらせる、という負けない算段に固執せず、選手のストロングポイントに立ち戻ってチームを組むことだろう。さもなければ、”素材の良さを生かしきれない料理”になる。例えば、攻撃は鎌田大地や南野という突出した選手の良さを徹底的に引き出すべきだ。

 鎌田はフランクフルトのヨーロッパリーグ優勝で大車輪の活躍だった。シャドーの一角で、攻撃をけん引。左サイドのフィリップ・コスティッチとの連係は阿吽の呼吸だった。スペインの強豪バルサを奈落の底に突き落としたパスは、その技術の高さを示していた。ウェストハム、レンジャースとの準決勝、決勝でも風格すら漂った。

「セビージャ、トッテナムの獲得リスト入り」

 そんなニュースも出ているが、スター選手の仲間入りを果たしたと言える。

 その鎌田を、直近の代表に森保監督は選んでいなかった。丁寧な言い方で「謎」である。使いこなせなかったと言われても仕方ない。

 森保監督が日本の戦力を使い切ることができれば――たとえ、ドイツ、スペインが相手でも希望はある。

 それは、ELで優勝の立役者になった鎌田が示している。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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