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森保ジャパンの限界と可能性。理想の布陣とは?

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 森保一監督率いる日本代表の評判は決して良くはない。昨今の話で言えば、はっきり「悪い」と断じられる。

 今や、何をしても森保監督は責められる。采配は非難殺到だが、それだけではない。試合前に涙を流しても非難を浴びる。試合後にゴール裏に声援を返して炎上する。違う人がやったら、温かい言葉が送られていることも、生理的に近い反発を受ける状況だ。

 より冷静な視点で見つめた時、浮き彫りになる森保ジャパンの本性とは――?

森保ジャパンの根幹

「いい守りがいい攻めを作り出す」

 それは森保監督自身が好んで使うフレーズで、そのまま森保ジャパンのスタンダードになっている。つまり、ソリッドな守備にこそ、森保ジャパンの目安はあるのだ。

 その点でいえば、森保監督は一定の成果を上げてきた。

 もちろん、必ずしも指揮官の功績とは言えない。やはりプレミアリーグ、セリエAを戦うディフェンダー、吉田麻也の存在は大きいだろう。

「(吉田の)指示は厳しく、叱りつけられるようだが、どれも適切」

 中盤の選手たちは言うが、吉田が立ち位置も含めてディフェンス全体を引き締めている。経験と集中力を伝播させ、中盤とサイドの守備が崩れることは苦戦を強いられる中でも少ない。守備の乱れは、どちらかと言えば前線の守備の強度が弱いところに出ている。

 吉田と冨安健洋が組んだセンターバックは、アジアナンバー1と言っても過言ではない。右サイドの酒井宏樹を加えたバックラインは世界でもトップレベルだろう。左サイドの長友佑都は衰えを見せ、先日のオーストラリア戦は負けていたら戦犯になる判断がいくつかあったが、経験値は高いし、勝負どころのプレーはまだ頼りになる。

 バックラインは、アジアでは無双の感がある。

 森保監督は、そこをよりどころにしているし、それはベトナム、オマーン戦でもモノを言うだろう。

結局は守備のソリッドさ

 4-3-3を続けるか、という議論が取り沙汰されているが、フォーメーションは変わっても、「守備のソリッドさ」というコンセプトそのものは変わっていない。

 オーストラリア戦で採用した4-3-3も、遠藤航をアンカーに置くことによって守備を補強し、成功を収めていた。その発想の出発点は、「より強固な守備」だった。川崎フロンターレのようなポゼッションありきの攻撃型4-3-3ではない。

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20211024-00264400

 インサイドハーフの二人は強いプレッシングを見せ、ボールを運ばせず、敵の攻撃をノッキングさせていた。それがカウンターにつながり、ボールを持つ時間も増え、いい守りがいい攻めを作った点で、森保監督らしい変更だったと言える。

 実際、ディフェンスが安定することで中盤の仕事は明確になった。田中碧、遠藤も機能。そして攻撃はカウンターを含めて好転した。

 しかしシステムは所詮、システムにすぎず、その枠組みのようなものに頼ってもうまくいかない、ということを忘れないでおくことだ。

ベトナム戦は試金石

 ベトナム戦を、ベトナム陣営の立場で考えてみた場合、日本がブラジルやスペインの胸を借りる気分に近いかもしれない。

 ベトナムは好選手がいるし、組織的にも最近は鍛えられている。しかしながら戦力的には、J2クラブの中位程度。もちろん勝負はどう転ぶかわからないが、日本代表とはかなりの差がある。

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20211104-00263536

 そこで焦点となるのは、守備の重鎮である吉田、冨安、酒井、そして田中、遠藤がいなくてもチームは機能するのか、という点かもしれない。

 一つ言っておくが、ベトナム、オマーンとの連戦を同じような面子で戦うとすれば、かなり苦しくなる。アウエーでの連戦は思った以上に体力を使う。その点で、コンディションは懸念材料だ。

 ホームでのオマーン戦、守備は崩れなかったが、コンディションの悪さが出たことによって守り全体が弱くなった。結果として、攻撃も弱体化。あえなく一発に沈んでいる。

 その失態を繰り返すことは、長い目で見ても森保ジャパンの限界と言える。

 東京五輪代表は本大会前、フル代表と対戦している。その試合はテストの要素が強く、前半は吉田や遠藤が不在だった。結果は、全くチームとして機能していない。守備が安定しなかったことで、相手に先手を取られ、ろくに攻撃もできず、サンドバックのようだった。後半になって遠藤を投入し、ようやく戦いの形を取り戻したが…。

 それだけ、森保ジャパンは何人かの選手のキャラクターが根幹を担っているのだ。

いくつかのバリエーション

         大迫

南野       鎌田     伊東

     遠藤     田中

長友    冨安    吉田   酒井

        権田

 これが現時点での森保監督の主力だろうが、ワールドカップ予選もワールドカップも連戦になるだけに「もう一つのチーム」をターンオーバーで考えるべきだろう。少なくとも消耗が激しい中盤は入れ替えができないと、東京五輪のような尻切れトンボになる。疲弊した選手は、プレーレベルが自ずと下がってしまうのだ。

 そこでベトナム戦は、思い切ってJリーグ連覇の川崎フロンターレの系統選手で11人を組むのも一つの策だろう。

        上田

三笘              堂安

      守田   旗手

         田中

中山    谷口    板倉   山根

         谷

 これで家長昭博、小林悠、橘田健人でも入っていたら、そのまま川崎の戦いを志向できる。

 もっとも、森保監督は石橋を叩いて渡る指揮官だけに、この博打を打つ可能性は低い。また、代表チームの指揮官が単一チームの選手をピックアップするなら、自身の存在意義の問題となる。そして国内の単一チームの選手で世界に勝てるはずもない、というのも真理だ。

 けが人という条件を除けば、個人的に推したい11人もいる。

        上田

三笘      鎌田      久保

     田中    橋本

中山    冨安   吉田   酒井

        権田

       古橋(堂安)

三笘    田中   橋本  久保

       遠藤

中野    冨安  吉田   酒井

       谷

 しかし、これは一人の「理想」に過ぎない。

 そうなると、小柄な選手が多いベトナムに対し、パワーとスピードを重視した次のような編成が落としどころか。

         上田

三笘       古橋      伊東

       田中    守田

中山     冨安   吉田    酒井

         権田

 批判を受ける森保ジャパンだが、こうして選手を並べてみても、個々の実力でベトナムは凌駕できる。吉田、冨安、酒井は外しがたいが、たとえ名采配を振らなくても、勝利できるだけの陣容ではあるのは分かる。だからこそ、守備は堅固さを保ちつつ、戦い方のバリエーションを増やすことが必要だ。

 誰をどう使い、結び付けるか、やはり指揮官の用兵が焦点となる。試合の中でも変化させられるか。その柔軟性も含めてだ。

          上田

        古橋   鎌田

長友    遠藤     田中     伊東

    冨安    吉田   酒井

          谷

 システムとしては、3-4-2-1も十分に選択肢として考えられる。伊東がウィングに近い形でプレーし、酒井が近くでフォローする形になったら、攻撃色は増す。ベトナム戦は攻勢を強める展開が予想されるだけに、戦いの中で柔軟な方策も視野に入れるべきだ。

 4-3-3で勝てる、というのは幻想だ。

 来るべきベトナム戦、森保ジャパンは勝利を手にできるだろう。「いい守りがいい攻めを作る」。それは不動で、大きなアドバンテージと言える。ただ、戦い方のバリエーションを見せ、チーム力を今後に向けても引き上げられるか――。

 オマーン戦を含め、森保ジャパンの限界と可能性を探る戦いだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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