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森保ジャパンを「救った」4-3-3の中身。Jリーグ王者・川崎フロンターレと同じか?

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 正念場のオーストラリア戦、日本代表を率いる森保一監督は思い切って舵を切った。これまで主に採用していた4-2-3-1(4-4-2)を捨て、監督自身がサンフレッチェ広島時代に”愛用”していた3-4-2-1でもなく、4-3-3の布陣を選択。結果は、2-1と劇的な勝利を飾っている。

「Jリーグ王者である川崎フロンターレが採用する4-3-3をコピーしただけ」

 そんな声も少なくない。言外には、”反・森保”が滲み出ていた。中盤のインサイドハーフに田中碧、守田英正の「元川崎コンビ」を起用したことも論拠だったかもしれないが…。

 森保監督の用いた4-3-3と、川崎の4-3-3とはコンセプトが対極的だ。

<守りを固めることで、攻撃につなげる>

 良くも悪くも、森保監督らしい決断だった。

対極にある二つの4-3-3

 一口に4-3-3と言っても、大きく二つに分類できる。監督のコンセプトと起用する選手のキャラクター、もしくは全体の連係度によって、まるで違うものになる。一方は攻撃的で、能動的、もう一方は守備的で、受け身的。それほど別の顔である。

 まず、川崎が採用している4-3-3の基本は、風間八宏監督の時代から“ボールありき”にあるだろう。究極的に言えば、「自分たちがボールを持っている限りは失点しない」が理念となっている。ラインは高く保って、ボールを回して運び、スモールスペースを切り崩し、サイドからぶん殴る。FCバルセロナ、アヤックス、マンチェスター・シティなどが信奉してきた形に近い。

 GKとバックラインはボールを扱うことにストレスがない選手で構成。中盤中央の3人はとくに技術的に高く、周りと連携でき、ポゼッションにおいて有利に立つ。前線とバックラインは緊密にラインを保ち、パスの角度やコースを作り出し、ボールを動かし、相手を動かす。サイドにはリオネル・メッシに象徴される崩し役。万力のように攻め立て、セカンドボールを拾い、攻め続ける、超攻撃様式だ。

 一方、森保監督が選んだ4-3-3は、4-1-2-3と言う方が適切だろう。前線のプレスでしつこくパスコースを切って、極力、相手の選択肢を狭めて、自由にさせない。遠藤航がアンカーとしてバックラインの前に陣取って、中央の守備を補強。サイドも錠前を下ろし、堅固なディフェンスを出発点にしていた。

 これは森保監督本人が認めたように、南アフリカワールドカップで岡田武史監督が選択した布陣と重なる。

フランス代表の4-3-3

 岡田ジャパンは当時、阿部勇樹がアンカーで”ふた”をした。センターバックの中澤佑二、田中マルクス闘莉王とトライアングルを作って、一番危険な中央の入り口に侵入させなかった。阿部の前では遠藤保仁、長谷部誠の二人が拠点ラインを構成し、前線3人、本田圭佑、大久保嘉人、松井大輔もプレッシングとリトリートで先手として戦いつつ、攻撃に転じた際には一気に相手ゴールへ迫った。

 世界では、レアル・マドリード監督時代のジネディーヌ・ジダンが好み、現在ではディディエ・デシャン監督が率いるフランス代表の4-3-3にやや近いだろうか。

 フィジカル強度の高い選手を主軸に、アンカーが危険なコースを遮断し、受け身に回った時に強さを発揮する。堅守からのカウンターが特長と言える。前線には走力に長け、エネルギッシュで、得点力があるアタッカーを配置。ポゼッション率に対する優先順位は低く、守りありきで一発に懸ける、効率性を重んじた戦い方だ。

 オーストラリア戦、森保ジャパンの主要な攻撃は守備を出発点にしたカウンターだった。

 田中碧が先制点は決めた場面は典型的だろう。まずは伊東純也が鋭い出足でセンターバックにプレスをかけ、ビルドアップを乱した。敵陣で日本は相手ボールホルダーを囲み、ボールを回収。左サイドを南野拓実が持ち上がり、切り返したところ、ファーに流れた田中へパスが通った。田中は的確にコントロールし、右足で逆サイドに突き刺した。

 また、決勝点も通ずるものがあった。交代で入った浅野拓磨は、裏抜けを得意とするスピードスターで、一発を狙っている。終了間際、うまく相手の脇を取って、吉田麻也からのロングパスを受け、トラップから思い切って足を振った。このシュートを相手GKが処理できず、オウンゴールを誘ったのだ。

 伊東、浅野は、このシステムでは欠かせない選手と言える。一発のパスに抜け出る、あるいは鋭いプレッシングを懸けられる。森保4-3-3の寵児だ。

もう一つの4-3-3

 そもそも、攻撃型の4-3-3は戦術的に運用が難しい。

 インサイドハーフはピッチを縦横にカバーし、ボールを失わず、プレーメイクし、時にはエリア内に入る能力が求められる。また、サイドアタッカーはゴールゲッターと崩し役と二つの資質が条件で、人材は限られる。インテンシティの勝負に持ち込まれると弱く、守備に回ると強くはない。お互いのスペースを補完し合うのも実は呼吸が難しく、諸刃の剣だ。

 4-2-3-1や4-4-2はその点でオーソドックスで、わりと持ち場は決めやすい。当然、選手の役目も明白。誤解を恐れずに言えば、デフォルト的なシステムだ。

 石橋を叩いて渡る森保監督は、攻守におけるバランスを重んじた結果、守備型の4-3-3を選択した。負けにくいシステムであり、勝ち筋を探しつつ、それに適した選手を当てはめたと言える。同じ戦いを貫くこと、もしくは2トップや3バックにする布陣も選択肢だったわけで、最善ではなかったにせよ、一つの答えを出したのは間違いない。

 11月、ベトナム、オマーンとの戦いでは、攻撃型の4-3-3も一つのオプションかもしれない。その点、堂安律、久保建英が完調の場合はサイドの筆頭候補だし、三笘薫や三好康児を抜擢するのも一手だろう。インサイドハーフとしては、橋本拳人を強く推す。チームにダイナミズムを与えられるだろう。また、1トップは周りを輝かせ、ゴールの脅威も与えられる上田綺世が有力だ。

 もっとも、慎重な森保監督が「もう一つの4-3-3」を用いる公算は低いだろう。特にベトナム戦は4-2-3-1に戻し、鎌田大地、古橋亨梧を用いるだけのマイナーチェンジになるのではないか。森保監督らしいと言えば、その通りだが、はたして・・・。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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