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ベトナム、オマーン戦で森保ジャパンはカタールW杯出場に近づけるか?

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:ロイター/アフロ)

 カタールワールドカップ・アジア最終予選、11月シリーズはアウエー連戦になる。森保一監督が率いる日本代表は、11日にベトナム、16日にオマーンと対戦。現在、2勝2敗でグループ4位(1、2位が自動的に本大会出場、3位はプレーオフへ)で、まだまだ負けられない試合が続く。

「森保監督解任!」

 正念場のオーストラリア戦、2-1と勝利を収めた後も、否定的な意見は鎮まっていない。

 一つ言えるのは、W杯に出場できなかった場合、日本サッカー界は壊滅的なダメージを受けるということである。それだけは避けなければならない。たとえ、誰が監督であったとしても、だ。

 もう一つ言えるのは、日本代表は戦力的に見て、アジアでは劣っていない。むしろ今も最強と言える。ヨーロッパの第一線に、これだけ選手を供給している代表はない。

 結論から言えば、森保ジャパンは本大会出場に近づけるはずだ――。

オーストラリア戦の検証

 オーストラリア戦、森保監督は4-3-3のシステムを初めて採用している。2-1と劇的な勝利。結果から言えば、この試みはうまくいった。

 何より、システムを運用した選手たちに拍手を送りたい。

 戦術面・技術面で、日本は確実にオーストラリアを凌駕していた。

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20211012-00262717

 前線からのプレッシングは強度が高く、南野拓実、伊東純也が相手のセンターバックを封鎖し、大迫勇也がボランチとバックラインのルートを遮断。インサイドハーフの田中碧、守田英正も連動してプレスをかけ、時には突出し、バックラインにプレッシャーをかけた。積極的な守備で試合を優位に進めたと言えるだろう。

 試合展開の中、ボールを持たれるときもあったが、リトリートした時にはスペースと人に自由を与えず、攻め込ませていない。無理して真ん中から攻めさせ、アンカーに入った遠藤航がことごとくパスカット。センターバックの冨安健洋、吉田麻也も力強い守備だった。右サイドバックの酒井宏樹は伊東との連係でサイドを圧倒し、左サイドバックの長友佑都は高い位置を取り、しばしば敵ゴールを脅かしていた。

 堅い守りは、攻めの効率性も高める好循環だった。良いポジションを取れることで、セカンドボールを拾えたし、切り替えもスムーズに行われていた。事実、先制点は敵センターバックのプレスから囲い込んでボールを奪い、左から持ち込んだボールを、右ファーで受けた田中が決めたものだ。

戦術成功によるデメリット

 もちろん、メリットだけでなくデメリットもあった。

 攻守両面、前がかりになり過ぎた。攻め急ぎというのか。

 例えば前半、吉田が少々無理なロングボールが左高い位置にいた長友へ蹴る。これは相手右サイドバックに簡単にクリアされた。このとき、左センターバックの冨安が左高い位置までボールホルダーに寄せようとし、あまりに遠かったことで躊躇し、その裏にボールを出され、決定機を作られてしまった。

 日本は守りでリズムを作ったが、裏目にも出ていた。

 同点にされたシーンは典型だろう。

 左サイドでボールを持たれた時、長友がハーフラインを越えて前を塞ぎに走った。南野がセンターバックを、守田がアンカーを封じた集団的プレスだとしても、タイミングは遅れていた。結果、背後にボールを出され、カバーも不在。冨安はスライドでカバーするには距離が離れすぎ、マーカーも捨てなければならず、前半のピンチも思い浮かんだだろう。結局、守備全体が後手に回ってFKを献上し、左足で叩き込まれた。

 しかし、最後のところは戦力差で上回った。交代で出た古橋亨梧、浅野拓磨のスピードはオーストラリアに打撃を与えていた。そして最後は吉田のロングパスを受けた浅野が思い切って足を振り、相手に当たってオウンゴールとなった。

 ベトナム、オマーンも、四つに組んで負ける相手ではない。

ベトナムとの戦力差は明白

 ベトナムはしっかり走れるし、ポジションもとれ、スキルの高い選手を擁している。同じグループの中国よりも、サッカーの質は高い。10番のグエン・コン・ファンなどボールを持てる選手で、ミドルも得意とし、攻撃の中心を担う。

 しかしながら、チーム全体であまりにプレー強度が低い。その精神的不安か、自陣での軽率なファウルも多いのだ。

 3-1と敵地で敗れたオマーン戦は、日本が必勝に向けての手がかりになるだろう。

 前半、ベトナムは囲い込みながら奪いきれず、ファウルになってしまい、そのFKからもつれ合い、不用意に腕を振ってPKを献上している。得点には至らなかったが、経験の少なさや甘さが見えた。後半にも、同じようにサイドでイラついたファウルをしてしまい、FKを与えていた。そのクロスをクリアしきれず、こぼれたボールをジャンピングボレーで叩き込まれた。

 その点、高さも決定的な弱点だ。

 ゴール前にボールが入るたび、不安が走る。実際、後半にはCKに対し、GKが前に複数の選手に立たれて、身動きできず。インスイングのクロスに、ほとんどそのままネットを揺らされた。3点目もクリアに失敗し、エリア内に高いボールが浮かぶと、その処理をディフェンスが誤り、相手に奪われそうになって腕を振り、顔面を強打。結果、PKの判定でユースレベルのミスだった。

 日本はセットプレーを奪い、吉田、冨安、酒井などがゴール前に陣取ったら、それだけで優位を取れる。押し込んだら、アクシデントの発生率は高い。一つの勝ち筋だ。

 オマーンは、技術的にも、体力的にも、ベトナムよりも優れている。戦術面でも大きく改善。かつてないほど組織的なチームになった。

 しかし日本は本拠地で敗れたものの、選手の質としてはやはり上だ。

 前回はプレッシングが甘すぎ、目に余るほど自由を与えていた。ビルドアップでノッキングさせたら、ペースを握れる。サイドバックも攻撃に参加できるような状況を作り、波状攻撃できれば、ゴールは必然的に生まれるはずだ。

戦術、メンタルの準備

 日本は4-3-3の運用でも、クオリティの高さを示した。ほとんどトレーニングもせず、このシステムを運用できたことは選手の質の高さを意味している。交代で出た選手も、試合を決める力を持っていた。

 ベトナムも、オマーンも、恐れる相手ではない。

 代表監督の仕事は、思うようにいかないこともあるだろう。しかし彼らの役目は選手を選び、束ね、決断し、送り出すことで、トレーニングや戦術的革新ではない。単純に、結果次第。スペイン代表監督、ルイス・エンリケ監督もひどい批判を受けていたが、EURO2020準決勝、ネーションズリーグ決勝進出で一定の答えを出した。

https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/football/wfootball/2021/06/23/post_124/index.php

 一つ言えるのは、チームとして勝利に確信を持てるか。オマーンに0-1で敗れたゲームは慢心ではないだろうが、ふわりと入ってしまった。コンディションの優劣もあったが、戦う前の段階で後手に回っていた。

 実力差のある相手を、最大限の力を使って踏み潰せるか。アジアでは常に、勝者のメンタリティが必要になる。

「バルサやマドリードでプレーする難しさは、ビッグマッチを戦った後、地方のクラブを相手にも同じように勝利をしないといけないことだ」

 かつて、ジョゼップ・グアルディオラは語っていた。弱い相手を戦力差通りに倒せるか。その点で戦術、メンタルの準備が問われる。言い換えれば、それさえできれば、アジアでは負けない。

 森保ジャパンは本大会出場に近づけるはずだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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