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東京五輪、金メダルへの勝算。久保建英で測る距離

小宮良之スポーツライター・小説家
ゴールの祝福を受ける久保(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

五輪を戦う骨格はできた

 東京五輪サッカー男子代表の骨格はすでにできている。

 吉田麻也(サンプドリア)、酒井宏樹(マルセイユ)、遠藤航(シュツットガルト)の3人のオーバーエイジは、強力な助っ人である。屈強な彼らが後方に聳え、壁が押し出すように前に出ることで、安定が生まれる。

「いい守備がいい攻撃を創る」

 それは戦術の基本だが、イタリア、フランス、ドイツのトップクラブで猛者を相手に戦いを重ねてきた彼らは、その法則を作り出している。

 U―24ガーナ代表戦で、吉田は一人のディフェンダーとして硬骨さで異彩を放った。二度のオリンピック、二度のワールドカップを戦った経歴は伊達ではない。例えば田中碧に対するラフプレーに猛然と怒りを表したが、自然にチームを鼓舞する術を知っているのだろう。

 酒井は、ガーナを子ども扱いだった。マルセイユの右サイドバックとしてネイマールのようなトッププレーヤーと対峙してきた実績は白眉。ロシアワールドカップでも右サイドバックとして世界有数のプレーだったが、単に速さ高さ激しさがあるのではなく、分厚く相手を打ちのめす強度と精度を感じさせる。

 遠藤は今シーズンのブンデスリーガでベストイレブンに値するプレーを見せている。自らの仕掛けでボールを奪える。インターセプトを得意とするMFにありがちなカバーをおろそかにすることもない。チームにバランスを与え、全体を機能させられる能力は、フル代表との一戦に途中交代出場して改めて示した。

 残り15人。

 どのような最終メンバーなら史上初の五輪金メダルは勝ち取れるのか。

金メダルのメンバー

 欧州のトップクラブでプレーを重ねている久保、堂安はチームの中心となるだろう。ゴールに迫る迫力が、国内組と比べると1枚上。世界の猛者と戦い抜いている実力は明らかだ。

 ガーナ戦の先発メンバーは主力に近い。それを基にした18人の大会メンバーの予想は十分に成り立つだろう。

GK

谷晃生

大迫敬介

DF

酒井宏樹

冨安健洋

吉田麻也

中山雄太

菅原由勢

MF

遠藤航

田中碧

旗手怜央

板倉滉

堂安律

久保建英

相馬勇紀

FW

上田綺世

 15人はほぼ決まりか。ただ、実力は拮抗。激しいポジション争いは本大会に向けては好材料だ。

 例えばGKだけでも群雄割拠。それぞれの選手がチームで定位置を奪い、その差はほぼない。ファーストGKの呼び声が高くなっている谷は足元の技術に優れ、ガーナ戦では唯一のピンチをスーパーセーブで救った。しかし、その後のセットプレーの対応は悪く、飛び出したまま失点してもおかしくない。大迫の実績、沖悠哉の1対1のシュートストップも捨てがたく、鈴木彩艶も将来性有望な18歳だけに…。

 森保一監督としては、嬉しい悲鳴だろう。

 その点、フィールドプレーヤーはユーティリティさも決め手になる(ワールドカップが23人なのに対し、オリンピックは18人)。ボランチもセンターバックもできる板倉、右サイドバックも、センターバックもできる菅原、左サイドバックも、センターバックも、ボランチもできる中山、そしてサイドバックも、攻撃的MFも、さらにFWまでできる旗手は欠かせない選手だろう。

最後まで熾烈な選考レース

 残りの3人は、三笘薫、林大地、前田大然が有力だろう。

 率直に言って、三笘はU―24では空回りしている。ガーナ戦もドリブルで一人、二人を抜き去っても援護がなく、ボールを失う機会が目についた。本領発揮には程遠く、アルゼンチン戦もそうだったように、老練なディフェンスにプレーを読まれた時、その対応力が求められる。

 ただ、6点目のシーンで、三笘はポテンシャルの高さを見せた。連係をフィニッシュする力を見せ、「スーパーサブ」として貴重な存在であることを証明。ゴールに向かっていく技術は特別で、あれを決める決めないは雲泥の差と言える。切り札の役割を託されることになるはずだ。

 林は得点の匂いを強くさせる。密集したスペースでの腕の使い方、体の使い方がうまく、相手の力を利用し、あざとくしたたかにゴールに突っ込める。南米的なストライカーで、強力なディフェンスとプレーするたび成長する感があり、かつての岡崎慎司に近い。

 そして前田は横浜F・マリノスと同じく、攻撃のユーティリティを買うか。左サイド、センターフォワードでプレー。圧倒的な推進力が持ち味だろう。ただ現状では、ジャマイカ戦などでラッキーボーイが出てくると、最後に外れる可能性も…。

 個人的に推したいのは、バルサBでプレーする安倍裕葵である。スペイン2部Bで研鑽を積み、今シーズンは2部昇格プレーオフ準決勝に先発で出場。攻撃のユーティリティとしてゼロトップ、トップ下、左サイド、右サイドとどこでも高い技術で適応できる。バルサのシステムも理解し、戦術センスも格別。故障明けでなければ、主力でもおかしくはない人材だが・・・。

 日本は十分に、金メダルを争える陣容だ。

金メダルの勝算

 そもそも、欧州や南米で五輪はワールドカップのような価値がない。その証拠に、ヨーロッパの出場枠はわずか4つ。アジア、アフリカも4カ国だが、サッカーの質を考えれば、同じはあり得ない。そもそも、Uー21欧州選手権が五輪予選を兼ねているが、これは始まった時が21歳以下だけに、戦い抜いた選手の半数近くが、五輪出場の年齢をクリアしていない。また、すでに代表の主力になっている場合、出場しない選手も多いのだ。

 その点、十分に日本に勝機はある。事実、ロンドン五輪でも日本はスペインを撃破している。

 南米のチームは力を入れてくるだけに侮れない。今年3月にも、アウエーのアルゼンチンに力の差を見せつけられた(2戦目はコンディションの差が出た)。また、アフリカの爆発力にも要注意だろう。ガーナのプレーは幻だったと考えた方がいい。フル代表とのテストマッチのようなゲーム内容だったら、グループリーグ全敗だ。

 しかし、オーバーエイジが入って、冨安、久保、堂安など欧州組が揃った陣容は、簡単には負けない。また、田中、上田の二人もJリーガーとしては傑出。三笘や林のような切り札もある。

 そして久保は、金メダルのメジャーと言えるだろう。

 五輪でも優勝候補のスペイン、リーガエスパニョーラで、久保はすでにライバルたちと矛を交え、堂々と渡り合っている。ククレジャ(ヘタフェ)、ジェレミー・ピノ(ビジャレアルはチームメイトだった。ブライム・ディアスとはマドリードのレンタル選手として同じ立場だ。

 久保を擁する日本は、遜色ないプレーができる。

 本物のUー24スペイン代表だったら、勝ち目は減るだろう。アンス・ファティ、ペドロ、ウナイ・シモン、オジャルサバル、ファビアン・ルイス、ダニ・オルモを擁した布陣は強力だ。

 しかし、南米勢とのマッチアップを最後まで回避できれば…。

 金メダルへの勝算は立つはずだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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